医学部専門予備校「D組」をめぐる疑惑(3)文科省とA大学の回答に見える問題点
医学部専門予備校「D組」と同校を運営する(株)D組代表の高橋俊介氏をめぐる疑惑について、当社は大学入学試験を管轄する文部科学省の高等教育局大学振興課大学入試室と、A大学に対して質問状を送付した。
今年1月に両者から届いた回答の概要は次の通りだ。
文科省「入試は大学自治の範囲」
文科省の回答概要
本件疑惑について
2025年10月、入試問題の漏えいを示唆する匿名の情報提供があり、A大学に対して事実関係の確認と大学の見解について問い合わせを行った。A大学からは、調査を行った結果、入試問題の漏えいを示す事実を確認するに至らなかったとの報告があった。
本件については、今後新たな情報がない限り、追加的な対応を行う予定はない。
文科省の立場
大学入学試験は各大学の責任によって実施されるものであり、それに関する疑義が生じたときは、まず各大学の責任で対応すべきものである。
文科省は、入学試験の公正性の確保に関する窓口を設けており、通報内容について対応が必要と認めた場合は、対象の大学に情報提供して、対応を依頼することにしている。
大学からの報告内容については、大学設置基準や大学入学者選抜実施要項に基づいて確認を行い、それに反する事実があれば、公平・公正な入試が行われるよう大学に対して指導を行う。
試験問題の外部への作成委託について
大学入学者選抜実施要項において、「外部の機関又は専門家の協力を得ることについては、機密性、中立性、公平性・公正性の観点から十分慎重に対応する」ことを定めている。
今後の対応について
今回のような件に関する外部からの問い合わせについても、各大学の責任で対応を判断すべきものと考える。
文科省は本件について何ら発表を行う予定はなく、また、試験問題作成の外部委託の在り方について指導や新たなガイドラインの策定なども検討しておらず、大学などに対して通知などを発出する予定もない。
この回答から分かることは、大学入学試験の実施は各大学の自治の範囲内にあり、本件のような疑惑についても文科省は、大学に対して情報提供と調査依頼を行うのみで、それに対する大学側の調査報告に問題が認められない限り、文科省としてはそれ以上の対応は行わないということだ。
A大学「外部に流出はない」の真意は
では、A大学の回答はどうか。
A大学の回答(原文ママ)
本学は、文部科学省より、本学医学部推薦入試の試験問題が外部に流出したのではないかとの匿名の問い合わせが同省にあったことを理由に、当該事実の有無の調査依頼を受けましたが、本学において調査を行った結果、試験問題が外部に流出したという事実は確認できませんでした。
本学において実施した調査内容や本学の試験問題の作成過程などの具体的な内容については、本学の入学試験の運営上、回答は控えます。
本学としましては、これまでも適切な入学者選抜の実施に向けた対応を継続して行って参りましたが、今後もより一層厳正な対応を行う所存です。
当社はA大学に対して、D組あるいは高橋氏に試験問題が渡った可能性や、一般入試における疑惑についても質問していた。しかし、回答は以上のみであった。
ただ、A大学が回答でわざわざ「外部」という言葉を使っていることを深読みすると、D組あるいは高橋氏が試験問題作成の委託先として「内部」に含まれると見なす場合、前回記事で論証したD組あるいは高橋氏が事前に試験問題を入手していた可能性と、A大学の回答は整合性が取れていることになる。
しかし、A大学医学部が試験問題の作成を委託した先に医学部専門予備校であるD組あるいは高橋氏が含まれていたとすれば、文科省の回答が示している大学入学者選抜実施要項の規定に抵触する可能性はないだろうか。委託先の選定におけるA大学の判断が適切であったかが問われる事態だ。
はたして、D組あるいは高橋氏が事前に試験問題を入手していたと思われる状況は「試験問題が外部に流出した」状況に当たらないのか。もし流出に当たらず、試験問題の委託先として正当に保持していたとすれば、そもそもD組あるいは高橋氏を含めた受託者に試験問題の作成を委託したことは、A大学の判断として適切であったのか。当社では再度質問状の送付を検討する。
試験問題の漏えいだけが問題か?
ところで、A大学が当社の詳細な質問には答えずに、「試験問題の漏えい」の有無のみを回答したのは、A大学に対する文科省の調査依頼が「試験問題の漏えい」のみを問題にしていたためで、大学側もそれのみを公表する義務がある事項と見なしたのだと思われる。それは要するに、文科省が重視するのは、入学試験の公正性に実際的に影響をおよぼす「試験問題の漏えい」の有無のみであって、それに至らない「漏えいの企て」やその他の利用については、文科省は大学自治を認める立場上、大学に対して回答を求める立場にはなく、大学側も公表の義務がない事項として自由な裁量で処理しているということを意味すると思われる。
もちろん大学側は、試験問題の作成委託先において「外部に流出」が認められなくとも、その企てやその他の利用があったと認められた場合は、契約違反として委託契約を切る可能性はあるだろう。しかし、それはあくまでも大学と委託先との契約関係の問題ということになり、入学試験の公正性にかかわる問題として公にされることはない。
しかし、そのような文科省と大学側の姿勢は、「医学部受験」において重大なモラルハザードを引き起こしかねない。なぜなら、医学部受験は受験業界のなかでも特殊な市場を形成しており、「匂わせ」でビジネスが成り立つ危うい市場性を備えているからだ。
続く記事では、医学部受験という特殊な市場においてD組疑惑が発生した意味と、それが示唆するモラルハザードの実態について論じる。
(つづく)
【寺村朋輝】








