2024年03月29日( 金 )

「アートフェア東京2019」~3月の東京がアートで染まった!(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

「感性」を醸成させることができるのがアート作品である

 ――最近欧米では「MBA」(経営学修士)を「MFA」(芸術学修士)が学位としての価値として、上回る傾向にあると言われます。代表理事はこの点に関してはどう思われますか。

 來住 現在は情報過多の時代です。誰でもいくらでも情報を集めることが可能です。しかし、そのなかで、どれが大切なのか、どれが自分に役立つのか、を考えるうえで必要なのは「感性」であり、それを醸成させることができるのがアート作品であると思っています。私は、「アート作品が自分の身近にあることによって、感性が磨かれ、新しい行動や新しい考えができるようになる」と考えています。たとえば、食事はそのものがおいしいことはもちろん大事ですが、誰と一緒に食べるのか、どこで食べるのか、どういう風に食べるのか、などさまざまな条件によって美味しさも変わってくることと似ています。

 2013年にロンドンに行った時のことですが、お会いした多くの金融機関のボードメンバーの人たちが、挨拶の後で、まず自分の部屋にある絵画のうんちくを語ってくれました。歴史の長いヨーロッパの人たちには、アート作品は己の分身であり、絶えずそれに寄り添って人生を過ごしてきたのだと実感しました。

国際派ビジネスパーソンにとって、芸術的視点はとても重要

 ――アート東京では、「日本のアート産業に関する市場調査」を行っています。墨屋宏明・マーケティング&コミュニケーションズ 統括ディレクターがご担当されたと聞いています。

墨屋 宏明 氏

 墨屋 市場調査は3年前(2016年)から始めたのですが、当時は日本のアート市場の規模はほとんど誰もわかっていませんでした。世界最大級の「アートバーゼル」のレポートなどにおいても、日本をはじめとするアジア市場の詳細については、「一部のディーラーへのアンケートからの推計」と記載されていました。

 私はもともとシンクタンクで各種産業市場の広報の仕事をしていました。その時の経験をいかして、2万人を対象に「日本のアート産業に関する市場調査」を実施し、政府の人口統計に合わせて割り付けました。2018年の調査結果では、日本全体の美術品市場規模は2,460億円と推計しています。世界の美術品市場が上下している中、ここ3年、日本市場は安定して増え続けています。売上は、ジャンル別では洋画(548億円)、日本画(436億円)、陶芸(402億円)に版画(294億円)と続きます。販売チャネル別では、国内画廊・ギャラリー(735億円)についで百貨店(644億円)が2大チャネルとなっており、それ以外では、アートフェアやインターネットを通した購入が拡大傾向にあります。

 この3年間は、「誰がアートを買っているのか」を念頭に年度ごとに特定層への追加調査もしてきました。2016年は「3年間で100万円以上アートを買っている企業経営者」を対象としました。中でも面白い結果をお伝えすると「最初に買った作品価格で一番多かったのは30~50万円の価格帯」だったことです。2017年は「30代、40代でアートを買っている方」を対象としました。そのなかで印象的だった結果は「子どもの時に自分の家にアート作品が飾られている人が多かった」ことです。

 2018年は「国際経験が豊かなビジネスパーソン」(海外に1カ月以上在住した経験があり、年に2回以上美術館を訪問する20代~50代の就業している人々)を対象としました。その結果、国際経験が豊かなビジネスパーソンはアートを買う割合がほかの層より圧倒的に多いことがわかりました。

 「芸術は、人々が生きるために必要であるか」については、2万人のうち62%が「必要」と回答、しかし「芸術的視点はあなた自身の仕事において重要か」については、22%と大きく数字を下げました。一方、同じ質問で、国際経験が豊かなビジネスパーソンは、全体では44%、20代に限ると55%という高い数字になりました。

9月7日‐9日に世界遺産二条城を舞台に国際的アートフェア

 ――今年は日本のもう1つの都である京都でも、9月に「artKYOTO 2019」が開催されます。

 來住 「artKYOTO 2019」(主催:京都市、アート東京、電通、電通ライブ)は9月7日‐9日、国宝・世界遺産の「二条城」を舞台に開催します。文化を広めるアートフェアで、京都をアートで彩り、市民を巻き込みながら芸術文化を広く届けていく予定です。

 京都を感じさせる伝統工芸から現代アートまで幅広いジャンルの、ギャラリーが出展します。また、「artKYOTO 2019」は、国立京都国際会館をメイン会場として行われる「第25回国際博物館会議京都大会」とも日程を合せて連携していきます。ご期待ください。

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
來住尚彦氏(きし・なおひこ)

(一社)アート東京 代表理事・エグゼクティブ プロデューサー 
1985年早稲田大学理工学部卒業。(株)東京放送(TBS)入社。コンプレックスライブ空間「赤坂BLITZ」(1996年)を企画立案し支配人に就任。赤坂サカス推進部部長として、エンターテイメント施設と都市の共生をテーマに、複合エンターテイメント空間「赤坂サカス」(2008年)の企画立案、プロデュースを行う。2015年より国内最大級の国際的アート見本市「アートフェア東京」を主催し、芸術文化を通じた国際交流の場を創出。2016年より「日本のアート産業に関する市場調査」をアート東京として実施。アートを切り口に地域の魅力を外国人に紹介する「アートツーリズム事業」で地方創生に貢献。2017年には平成29年度戦略的芸術文化創造推進事業(文化庁)の「企画案選定委員会委員を務めるなど、現在に至るまで、芸術文化の拡充に幅広く寄与している。

(中)

関連記事