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2019年05月14日 09:56

平成「失われた30年」に秘められた謎を読み解く!(中)

アジアだけのメンバーで編成する共同体結成構想

 ――90年代前半に「アジアで団結しよう」という強い気運があったにもかかわらず、なぜその方向に駒を進めることができなかったのでしょうか。

 中尾 アジアだけの共同体構想に対して、当時から極めて前向きに積極的な発言を繰り返していたのは、マレーシアの首相(2018年に首相職に復帰)マハティールです。1990年前後からEAEG(東アジア経済グループ)を主張、後にEAEC(東アジア経済協議体)と呼ばれる構想になりました。EAECは、オーストラリアやニュージーランド、さらにアメリカを公式メンバーから除外する、アジアだけのメンバーで編成する共同体結成構想でした。この流れに準じて行動を起こした日本の政治家、官僚、有識者も当時はたくさんいました。しかし、この構想を聞きつけ、激怒したアメリカが横槍を入れてきました。

 「ASEEN+3(日本・中国・韓国)」という枠組みは、2005年に出発した東アジアサミットの中核メンバーであり、第1回会議はマレーシアで開催されました。しかし、アメリカの意向が大きく働き、すぐにオーストラリア、ニュージーランドやインドが、さらに米ロも加わって、東アジアサミットの構成メンバーは「ASEAN+3+5」(=18カ国)まで拡大しました。

 結局、この東アジアサミットは、膨張の一途をたどったAPEC(アジア太平洋経済協力会議:アメリカは第1回目から公式メンバーとして参加)と同様に、求心力を失っていくことになります。「アメリカはAPECにも、東アジアサミットにも、アメリカ抜きのアジア共同体形成への気運を阻止(形骸化させ、地域統合の進展に歯止めをかける)するために参加した」という有識者の鋭い見方もありました。

日本がたどった政治経済の失速ぶりとアジアでの孤立

 私がロンドンで親交のあった、ノーベル経済学賞にノミネートされた数少ない経済学者 森嶋通夫(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)名誉教授、大阪大学名誉教授、イギリス学士院会員)の言葉に耳を傾けてみたいと思います。森嶋は日本の没落を唯一防ぐ起死回生の政策提案は「東アジア共同体の形成」と言いました。しかし、続けて、「アジアを見下す日本の政権中枢に座るエリートには、この形成が不可能なので日本の没落は必至」と遺言を残し2004年に没しました。その後、日本がたどった政治経済の失速ぶりとアジアでの孤立、すなわち総体としての日本の没落は森嶋の予想を上回るハイペースで進んでいると言わざるを得ないのが現状です。

 その後、日本は外交姿勢として、「脱亜」と「入亜」のいずれかを選択すべきかの決断の下せないまま、ずるずると「脱亜」の姿勢を強めて行きます。地政学的には「アジア」よりも「アジア太平洋」という括りが優先され、「日米基軸」「日米同盟」という視点が圧倒していくことになります。

最後の一撃は1997年の日本発「AMF構想」の頓挫

 「脱亜」に拍車がかかるいくつかの事件が想起されます。まずは「大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件」です。1995年7月、大和銀行ニューヨーク支店で巨額損失が発覚しました。ニューヨーク支店のトレーダーで証券売買の管理責任者だった井口俊英が巨額損失を10年にわたって隠蔽し、損失の穴埋めのために保有する有価証券を簿外で、無断売却していました。損失は米国政府への罰金の支払いを含めて14億4,000万ドル(当時の為替レートで1,440億円)に膨らみました。この事件の核心は大蔵省主犯説「大和銀行は手先で主犯は大蔵省」が流れたことです。事後、大和銀行はアメリカから完全撤退します。

 明けて、96年に金融ビッグバン(日本で1996年から2001年にかけて行われた大規模な金融制度改革)が起こるきっかけとなった事件と言われています。金融ビッグバンとは、欧米に遅れをとっていた日本の金融市場を活性化するという号令のもとに「2001年までに東京をロンドン、ニューヨークなみの市場に」をスローガンに、銀行、証券、保険会社の業務をがんじがらめに縛ってきた規制を緩和・撤廃し、国内金融機関の国際競争力向上を目ざした改革です。

 外圧の最後の一撃は1997年の日本発の「AMF構想」の頓挫です。AMFとはアジア通貨危機の際に構想された「アジア通貨基金」のことです。世界銀行(WB)とアジア開発銀行(ADB)の関係と同様で、アジア通貨基金(AMF)は国際通貨基金(IMF)のアジア版といえるものでした。これは、日本の台頭を恐れたアメリカと中国との反対で頓挫しました。これを最後に、今日まで、日本独自のアジア戦略構想は一切姿を消しました。

 また、この流れに追い討ちをかけるように、大蔵省汚職接待事件(1998年に発覚した大蔵省を舞台とした汚職事件。“ノーパンしゃぶしゃぶ事件”ともいわれる)も起こりました。その結果、2001年には大蔵省が財務省と金融庁に解体されていくことになります。そして、2002年のブッシュ・小泉会談において、日本はアメリカから決定的に大きな転換を要求されることになります。その最大のテーマの1つが「不良債権処理」というものでした。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
中尾茂夫(なかお・しげお)

 1954年生まれ。京都大学大学院 経済学研究科 博士後期課程単位取得満期退学。経済学博士(神戸大学)。大阪市立大学経済研究所教授を経て、明治学院大学経済学部教授。シカゴ連邦準備銀行、トロント大学、西ミシガン大学、カリフォルニア大学リバーサイド校、タイNIDA、中国人民大学、マカオ大学などで、客員研究員・客員教授を、国内ではNHKやJBIC(国際協力銀行)などの依頼による調査研究主査を務める。著書に、『ジャパンマネーの内幕』(岩波書店、第32回エコノミスト賞)、『ハイエナ資本主義』(ちくま新書)、『FRBドルの守護神』(PHP新書)、『トライアングル資本主義』(東洋経済新報社)、『日本が外資に喰われる』(ちくま新書)など多数。

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