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2019年06月09日 07:00

森林セラピーの第一人者・日本医科大学の李卿医師~森林浴の抗ストレス作用・免疫活性を科学的に解明(後)

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 ――3回の実験を実施してわかった森林浴効果のメカニズムとはどのようなものでしょうか。

 李 ストレスがNK活性をブロックしていましたが、森林浴のリラクゼーション効果でブロックを解除することにより、結果的にNK活性を回復させることができるのです。樹木から発せられるフィトンチッドは、2つのメカニズムからNK細胞を活性化させることがわかりました。1つは、フィトンチッドが呼吸により血液に入ることでNK細胞に作用するのです。もう1つは、嗅覚神経を通して脳の沈静化をもたらし、自律神経のバランスを調整することで、ストレスホルモンの分泌を抑え、NK細胞を活性化させるというものです。

 我々は、実証実験とは別に、森林占有率と、がんによる死亡との関連性を、各都道府県の森林率と「がん標準化死亡率」(SMR)を見て検討しました。死亡率は、通常年齢によって大きな違いがあるため、異なった年齢構成をもつ地域別の死亡率を、そのまま比較することはできません。比較を可能にするためには、標準的な年齢構成に合わせて、地域別の年齢階級別の死亡率を算出して比較する必要があります。これをSMRと呼んでいます。

 我々は、各都道府県のSMRを厚生労働省と愛知県がんセンターのデータベースから入手しました。森林率は、土地面積に占める森林面積の割合で、こちらは林野庁のデータベースから各都道府県の森林率を入手しました。

 これらのデータを突き合わせて解析したところ、各都道府県の肺がん、乳がん、子宮がん、前立腺がん、腎臓がん、大腸がんのSMRと、森林率との間に有意な逆相関がみられました。これは森林率の高い地域に住む住民のがんのSMRが、森林率の低い地域に住む住民より低いことがわかったのです。このデータからも森林浴は、がん死亡率の減少に寄与していることが示唆されます。

 ――李先生の実験は、健常者を対象とした実験ですが、がんに罹患された方や免疫機能が低下した患者さんでも同様の結果が得られるとお考えですか。

 李 がん患者の場合は、実際にやってみないと何ともいえませんが、可能性は大いにあると考えています。ただし、NK細胞の活性度は検査をすればわかりますが、がん細胞が縮小するかどうかはわかりません。我々の目的は、治療のアプローチというよりも、予防法の確立ですから、治療分野に踏み込んだ実験は今のところ考えていません。森林のもつ健康増進効果をがん予防に活用できれば、国民の医療・福祉レベルを向上でき、医療費の削減に貢献できるのではないでしょうか。

 これまでの実証実験は、森林散策道での実験でしたが、都市部での実験、たとえば代々木公園(東京)や大阪城公園(大阪)などで同じ実験を行った場合はどうなのか。これも1つの検討課題です。また、実験方法も森林散策だけではなく、温泉に入った時との相乗効果を調べたりすることも今後の課題かもしれません。日本には森林施設、温泉施設が豊富にありますので、そうした地の利を生かした実験も必要です。森林散策実験は、日本医大と千葉大学、大阪大学、森林総合研究所との共同研究でしたが、今後はほかの大学や企業と連携した研究にも取り組んでいきたいと思います。

(了)
【吉村 敏】

<プロフィール>
日本医科大学リハビリテーション学分野医師 李 卿 氏(リ・ケイ)

 1984年、中国・山西医科大学卒業。医学博士。日本医科大学リハビリテーション学分野医師。森林医学研究会代表世話人。国際森林・自然医学会副会長・事務局長。NPO法人森林セラピーソサエティ理事。99年、日本医科大学助手を経て同大学講師、2012年に同大学准教授。01年、米国スタフォード大学医学部留学。現在、日本医科大学リハビリテーション学分野で臨床と研究に携わる。07年3月、森林浴・森林セラピー研究を推進し、森林医学の進歩をはかることを目的に、林野庁、森林総合研究所、ほかの関連学会と連携して森林医学に関する研究を行う「森林医学研究会」を立ち上げ代表世話人に。企業・大学・自治体などに森林浴・森林セラピーを議論するプラットホームを提供し、森林浴・森林セラピーを国民に広く普及することで、日本の森林資源の有効活用と、国民の健康維持・増進に寄与している。

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