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2019年06月10日 13:05

【作品講評】中島淳一氏詩集『愁夢』

文芸社 出版企画部  藤田 渓太 氏

 前衛的なイメージに彩れたシュルレアリスム詩集を拝読した。読み手の意表を突く豊かなイマジネーション、奔放で逆説的な表現、独特の世界観の構築。本作は1979年の刊行だが、今も異彩を放ち孤峰のごとく屹立しているような印象を抱かせる。

 何より、飛翔するイメージ世界と華麗なレトリックの数々が圧倒的だ。たとえば冒頭の『始祖鳥』。「女を想像しながら女を抱け。すべては途上であり、終わりである事を忘れるな。死ぬことに慣れよ」といった詩語のパラドクスに惑わされ、早くも作者の心象世界に引き込まれる。

 「産みながら殺せ」「血は力である」という暴力へのぬぐいがたい誘惑、「重要な事は何もない」というニヒリズム、「死人を殺してならぬ。死んだ魚を食べてはならぬ」といったアフォリズム、「九官鳥のまねをしろ」「海にすめ、水葬の必要がない」というユーモア。ヒトラー、ヴィーナス、スフィンクス、ハムレットと、時空を超えるイメージの乱舞。「詩は最後の一枚を脱がないヌード」という警句にもはっとさせられる。

 『隕石』 は壮大なスケールをもつ叙事詩である。「苦渋に満ちた退屈な生まれて最初の教訓は猫の毛をのみこむと死ぬという事」「不死の妙薬は 一匹の蟻が出できた穴の中に違いない」などの、連続する不思議なイメージに惹きつけられる。1人の少年の生死を縦糸に、壮大で猥雑、華麗にして混沌とした物語が展開される。インディアン、人魚、卑弥呼とこれもまた桁外れのイメージの拡散により、地球の死と再生までもが、まるで弄ばれるかのように紡がれている。

 短いソネット形式の作品にも注目させられた。カタツムリのあかい舌のイメージが鮮烈な『恋』、自虐的な心象が強烈な『オレは』「啞啞啞」と「噫噫噫」のみで構成された『黄昏』、ミステリアスなイメージの短編小説を思わせる設定の『秋』など、意外にして多彩な風景には見るものがある。

 しかしながら、書籍化ということを前提にすると、改善される余地も残している。まず、作者による序文や解説文が欲しいところである。目次も立て、構成糸にも触れることで、読者の理解がスムーズになり、一層深く詩集を味あうことも可能になると思われる。ぜひとも改定に期待したい。初版出版後40年を経た今、リニューアル版『愁夢』がかたちにされ、広く世に送り出される運びとなることを心から願ってやまない。

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