2024年03月19日( 火 )

ますます加速するシニアシフト 変化に対応し、価値を創造することが重要(後)

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サービス機能を充実させ3世代を取り込むスーパー

 コンビニやドラッグストアの攻勢を受けているスーパーもシニア需要の取り込みを強化している。

 イオン(株)は、シニアシフトを戦略として位置付け、シニア世代をG.G(グランドジェネレーション)と名付けて、対応店舗「G.Gストア」を展開している。17年11月オープンした「イオンスタイル検見川浜」(千葉市美浜区)も、その1つでさまざまな取り組みを行っている。

 食品売り場では、たべきり、適量、バラ売り、減塩、節塩、低カロリー、ヘルシーな惣菜や弁当といった常套的な高齢者対応に加えて、その場で食べる「即食」需要に対応するため、水産売り場の魚を使った海鮮丼専門店「魚魚菜(ととさい)」を出店した。

 ファッションでは、シニア向けのレディースやメンズの商品を集積、高齢者の必須アイテムである帽子売り場ではサイズも豊富にそろえ、スポーツ用品売り場ではウォーキングウエアも拡充しコーナー展開している。ステッキ専門店「ファンタステッキ」、オーダーメイドの老眼鏡といったコンテンツも備え、暮らしの困りごとを解決するため、電球の交換や部屋の掃除などを1回500円で出張サービスする「暮らしのパートナー便」も導入している。

 シニア向けのイベントや毎朝のラジオ体操の会場にもなるイベントスペースをはじめ、お茶を飲みながら「集う」「憩う」「知る」、コミュニティスペース「Kemi Café(ケミカフェ)」や、関連会社のイオンスマイルが手がける介護予防・リハビリデイサービスも設けている。

 こうして商品だけではなくサービス機能も充実させることで、さまざまなシニア需要の取り込みを図ろうとしている。イオンでは、店舗の立地や商圏に応じてこうした要素を展開していこうとしており、30代、40代のファミリー層も呼び込む取り組みも並行して行い、孫、子、親の3世代での来店も促進していく。

 ショッピングセンターのイオンモールでは、「ヘルス」「ウエルネス」「コミュニティ」「オポチュニティ」という4つを柱に据え、施設の内外にウォーキングコースを設定、カルチャースクールも導入するなどして、高齢者を中心とした来店動機づくりにも取り組んでいる。

高齢者特典を実施し、客単価アップを図る百貨店

 こうして、コンビニ、ドラッグストア、スーパーがシニア対応に尽力する一方、客層の高齢化がとくに顕著に進んだ百貨店では、若い世代の百貨店離れが深刻な問題で、各社再び呼び戻そうとさまざまな対策を講じている。引き続きシニア需要の取り込みにも注力し、両面作戦で状況を打開しようとしている。

 昨年秋、東京・日本橋では対照的な動きがあった。(株)高島屋は若い世代を呼び込もうと彼らのニーズに合致したテナントを集積した都市型ショッピングセンター「日本橋高島屋S.C.」をオープンした。

 これに対し、リニューアルした「三越日本橋本店」は、90人のコンシェルジュを配置し、手厚い接客サービスで、上得意客であるシニアへの対応を強化し、さらなる取り込みを図ろうとしている。

 取り込んだシニアを囲い込むための方策も展開されている。イオンは55歳以上を対象に、自社の電子マネー「G.G WAON(ワオン)」、65歳以上には「ゆうゆうワオン」を発行、毎月15日の「G.G感謝デー」に電子マネーで支払うと、5%オフになる。さらにゆうゆうワオンでは、同1店舗での直営売場で3,000円以上購入すると100ポイントが付与される。

 (株)マルエツでも、60歳以上の「Tカード」の所有者に対し、毎月1日から14日に買物した客に、14日から3日間にポイントが5倍になるクーポンを自動発行している。

 (株)ライフコーポレーションでは65歳以上に、毎月1日と15日に5%オフになる「シニアワンデーパス」、ヨークマートも60歳以上に、月1回使える毎月15日を含む3日間に10%引になる「シニアクーポンパスカード」を配布している。

 こうした高齢者特典を実施するのは多くは年金支給日である偶数月の15日を意識したもので、まとめ買いやごちそうメニュー、高額品も売れ、購入点数や客単価がアップする効果も生み出している。

シニアとの関係性は「程良い距離」と「共感」

 シニアシフトが進行するなかで、シニアだけではなく、その子ども、孫への消費も視野に入れて、需要の取り込みを図っていくことが求められている。これからもさまざまな商品、サービス、店舗の登場が予想され、利便性の高いネット上での展開も行われていくだろう。

 いずれにしても、生活者起点で、ニーズや要求を探りながらマーケットインで対応し、新たなバリューを提供するプロダクトアウトにも取り組む必要があり、変化に対応しながら、価値創造していかなければならない。

 具体的にシニアに切り込むためには、不便を解消する「利便性」、時間的ゆとりを埋める「時間消費」、子ども、孫への支出とシーンを考えた「3世代消費」、生活防衛での「根強い価格志向」がポイントとなる。

 そして、シニアを60代、70代といった年代別で括るのではなく、「大人」や「For The all」といったより幅広いイメージを醸成させるよう包み込むことも重要だ。

 シニアとの関係性においては「程良い距離」を保ちながら、「共感」を得られる存在になることを目指し、コミュニケーション力を高めてコミュニティ機能も提供しながら、アプローチしていくことが欠かせない。

 18年9月時点の65歳以上の人口は3,557万人、2042年まで増え続けその後は減少に転じ、2065年に33,81万人と推計され、人口そのものは現在とほぼ同程度で変わらない。しかし、75歳以上の人口は1,748万人が2035年には約30%増の2,288万人となり、2065年までその前後で推移する。

 シニア世代における高齢化が進むことで、シニアマーケットも大きく変貌する。変化対応業である小売業も市場に対するアプローチや対応を変えていく必要に迫られる。提供する商品やサービス、店舗機能、さらに、その提供方法も変わっていくだろう。

(了)
【西川 立一】

(中)

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