2024年04月25日( 木 )

ますます加速するシニアシフト 変化に対応し、価値を創造することが重要(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 日本は、少子高齢化により、総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は27.7%と4人に1人以上という高齢化社会。このままのペースで行くと2036年には3人に1人になると予測され、2050年には40%に達し超高齢化社会への道を突き進んでいる。人口も2008年から減少に転じ、2030年には1億1,522万人、2050年には9,515万人と1億人を割り込み、ピーク時と比較して約25%も少なくなる。そうしたなか、国内で拡大が見込めるシニアマーケットへの流通小売業の取り組みと今後について検証してみたい。

時代とともに変わるシニアの意識と行動

 高齢化と人口減少により消費市場のボリュームは収縮し、あらゆる業種・業態にその影響がおよぶ。市場がシュリンクする国内マーケットにおいては、小さくなっていくパイを奪い合うことで、互いに競い合う競合ではなく、生き残りをかけて争う競争の時代に突入し、弱肉強食で淘汰・再編が活発化、寡占化が進んでいく。

 そうしたなかで、シニアマーケットは、国内で数少ない拡大が見込める市場で、流通小売業では、団塊世代が60歳に達した2012年ごろからアプローチを強化、ニーズに対応し需要を喚起し取り込みを図ろうという動きが活発化した。

 攻略に向けてさまざまな取り組みを展開したが、十分な成果を得られているとはいえない状況だ。その主な原因は想定したシニア像と現実のシニアの意識や行動と大きく隔たりがあったためだ。自分なりの価値観をもち、リタイアした後も趣味やボランティアなど、さまざまな活動に意欲的な「アクティブシニア」がその典型的なもの。

 彼らがシニア消費を牽引すると期待されたが実際にはそうはならなかった。その理由の1つがおカネの問題。貯蓄の約6割が60歳以上だが、病気や老後の生活に備えて財布の紐は固く、高齢者の所得も300万円以下が60%を占め、200万円以下も40%近くで、余裕のある生活を過ごせるわけではない。

 ターゲットとなるシニアも団塊の世代を中心に、今までの高齢者とは意識や行動スタイルは大きく異なるため、新たな対応が求められており、健康状態、所得、資産、仕事の有無などにも影響される。

 かつて団塊の世代は、青春時代はジーンズなどカジュアルファッションやデザイナーブランドを楽しみ、社会に出てからは、仕事をすればそれなりに報われ、結婚してマイホームを建て、友達夫婦など新しい関係を築いて子どもの教育にも熱心で、「ニューファミリー」ともいわれた。しかし、子育てを終え、リタイアすると塊がほどけてバラバラになり、同一の価値観や生活様式で一括りにすることはできなくなった。

シニア層はいまやコンビニの上客

 かつて、ファミリーマートはアクティブシニアを意識し、中高年向けの商品を開発するため、団塊世代の著名なプロデューサーの残間里江子氏が手がけるアクティブシニアのネットワーク「クラブ・ウィルビー」の協力を受けて大人コンビに研究所を立ち上げたが、さしたる成果を出すことができなかった。

 現在は、高齢者を一元的に捉えるのではなく、それぞれの階層やライフスタイル、考え方に基づいたきめ細かい対応が必要だと気づいて、マーケットインとプロダクトアウトで改めてアプローチを試みている。

 シニアを最も意識し、取り込みに力を入れているのがコンビニ業界である。「セブン‐イレブン」のCMのキャッチフレーズは、以前は深夜まで行動する若者を意識し、「開いててよかった」だったが、今は高齢者の利用を想定し「近くて便利」に変わった。

 都市部においてはコンビニの商圏は500m以下で日常生活における高齢者の行動範囲と合致し相性が良い。実際、セブン‐イレブンの来店客で、50代以上は、1989年は9%に過ぎなかったが、今では40%に達し、60代以上の顧客の買上点数と客単価は年代別でトップで一番の上客となっている。

 コンビニチェーンは、シニアの健康を意識した減塩、低カロリーといったアイテムや小容量パックをそろえ、スーパーに行かなくてもいいように、野菜や果物を中心とした生鮮食品を強化している。

 健康志向対応を進める一方、シニアはおいしさにもこだわる傾向が強いことから、PBの「セブンプレミアム」では、おいしさや品質にこだわった「ゴールド」の開発にも力を入れている。

 ファミリーマートでも、高まる簡便調理ニーズに対応し、2017年9月から、惣菜・冷凍食品のオリジナル商品「お母さん食堂シリーズ」の展開を開始。昨年は食卓出現率の高い、焼き魚系惣菜やワンランク上のカレー、ハンバーグなどのパウチ惣菜も新たに開発した。

 ローソンは、コンビニが得意な中食だけではなく、「1日3食、丸ごと」提供していくことを目指しており、とくに夕食需要の対応に力を入れ、食事をサポートしようとしている。出来立てを提供するため、店内に調理できる「まちかど厨房」を導入している店舗も増やして、カレーや豚汁なども加えておいしさを追求していく。

 食品以外でも、セブン-イレブンでは、歯周病予防や虫歯ケア、口臭予防などオーラルケア関連の商品を拡充したコーナーを、昨秋から一部の店舗で導入して対応を強めている。

(つづく)
【西川 立一】

(中)

関連記事