年間1,000万人の観光客にさらなる満足を 滞在型の太宰府観光の実現に向けて
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太宰府を訪れる観光客の数は年間約1,000万人。まちは平日・休日問わず賑わいにあふれているが、課題がまったくないわけではない。新元号「令和」発祥の地という新たな観光資源を最大限に生かすために、今、太宰府に求められるものとは何か――。観光を通じた太宰府市のまちづくりを考えた際、見えてきたのは“滞在型の観光”の重要性だった。
最大の武器は「歴史」
新元号「令和」の典拠となったのは、日本に現存する最古の和歌集「万葉集」、ここに収められた「梅花の宴」の様子を詠んだ和歌にある。梅花の宴の舞台となったのは、太宰府市の「坂本八幡宮」。新元号の発表後、令和生誕の地である坂本八幡宮には、連日多くの観光客が足を運んでいる。坂本八幡宮のすぐ近くには、かつて日本の外交および対外防備の先端拠点であった「大宰府政庁跡」もあり、太宰府観光の新たな回遊ルートが生まれつつある。
太宰府市としても、回遊性の向上には力を入れており、お勧めのコースとして太宰府の防衛施設としての役割を担っていた「水城」の史跡から、学問の神様として広く知られる菅原道真公を祀る太宰府天満宮および参道までのルートを挙げている。
太宰府市の最大の見どころは、その「歴史」にある。令和の始まりとともに、悠久の歴史を背景とした太宰府の訴求力は、さらに高まるものと考えられる。しかし、徒歩での移動には限界がある。交通インフラの整備は必要不可欠だ。
大型バスの停留地を整備
大宰府政庁跡地前に、バス専用の駐車場が誕生した。太宰府市が3月の議会で条例を制定し、4月1日から利用が始まっている。クルーズ船に乗って来日する海外からの団体客の主な移動手段は大型バスになるため、今回のバス専用駐車場の整備は、周辺エリアで発生していた渋滞の緩和を狙ったものだ。同駐車場は6月から有料化されるため、新たな観光収入源の確保にもつながる。
着々と“おもてなし”の準備が進むなか、懸念事項もある。太宰府を訪れる団体客数が減少局面に入ってきたのだ。しかし、市はこの状況を悲観していない。団体客が減る一方で、FIT(海外個人旅行)は増加傾向にあるためだ。一因として、太宰府を訪れた外国人観光客による、SNSなどを用いた情報発信=口コミの効果があると考えられる。
市では、団体客と個人客の違いを次のように捉えている。(1)団体客:訪問場所や滞在時間が固定されている。たとえば、福岡市内(キャナルシティ博多など)→太宰府天満宮→宗像大社などを約1時間半の行程で回遊している。(2)個人客:訪問場所や滞在時間に対する制限は少ない。たとえばSNSの情報を基に、太宰府天満宮表参道の「スターバックス」で写真を撮るためだけに現地を訪れたりする。
このように、団体客と個人客では、旅行の「質」が違っていることがわかる。旅行会社の組んだスケジュールに縛られる団体客では、現地にもたらされる利益にも限度がある。しかし、個人客ならば行動に対する自由度が高い分、観光地側の提案次第で可能性は広げられる。そして、その提案をより良いものにすると期待されるのが、西日本鉄道(株)(以下、西鉄)が手がける古民家再生事業だ。
古都の良さを最大限に生かす西鉄の古民家宿泊事業
西鉄は、三井住友ファイナンス&リース(株)、(株)福岡銀行と共同出資を行い、(株)太宰府Co-Creationを設立した。事業目的は、太宰府天満宮周辺での古民家を活用した宿泊・飲食施設の提供。悠久の歴史をもつ古都・太宰府の良さを最大限に生かすことが可能な取り組みであり、観光客の滞在時間を増やしたいと考える太宰府市への、課題解決策の提案にもなる。
また、古民家を所有する物件オーナーにとっては、新たな収入源の確保につながるほか、観光客にとっても、太宰府へ足を運ぶ新たな動機付けとなる可能性を秘めている。まさに“三方良し”といえる今回の新事業だが、なぜその舞台として太宰府が選定されたのか。
「太宰府市を訪れる観光客は年間約1,000万人ですが、一方で立ち寄り場所の偏り、日帰り・通過型観光中心という課題を抱えています。しかしながら、長い歴史・文化を有し、とくに太宰府天満宮によって全国的な知名度はほかの観光地に比べて高い状況です。こうした観光地としてのポテンシャルに加えて、近年、女性の消費の活発化や、モノではなく、そこでしか得られない体験を求める“コト消費”への移行などから、新しいサービスが提供できないか考えました。そのなかで、エリア内の建物の保全や、周辺を含めた回遊性向上、新たな需要創出といった観点から、今回の新事業は太宰府の観光まちづくりに寄与するものだと考え、プロジェクト化の運びとなりました」(西鉄・草場氏)。
太宰府だからこそ味わえる、宿泊を通じた特別な体験。そして、滞在拠点の新設による、周辺エリア活性化への寄与。西鉄が創造するのは太宰府における宿泊需要だけではない、長期的なまちづくりも視野に入れた、太宰府の新しい楽しみ方なのだ。
着地型観光の確立へ
太宰府を訪れる観光客の主な過ごし方は、昼間に太宰府観光、夜は福岡市内で飲食といった「日帰り観光」が主流となっている。観光客の現地における滞在時間の短さは、「夜の太宰府」での過ごし方に選択肢が少ないことを表しているといえる。観光客数が減少局面に突入した今、市が音頭を取り、各商店と協力して営業時間や提供サービスの見直しを図っていくことが、ますます重要になっていくだろう。
観光客の増加や“令和ブーム”に場あたりで対応するのではなく、太宰府市が主体性をもって観光資源を生み出していくことが、今後求められる。旅行者を受け入れる地域が観光商品の開発や運営、情報発信などを行う“着地型観光”を確立できるかどうか―。それこそが、令和の先も太宰府が福岡ひいては九州、そして日本屈指の観光地として在り続け、発展できるかどうかの鍵となる。
【代 源太朗】
<プロフィール>
草場 康文 氏
西日本鉄道(株) 事業創造本部 観光・レジャー事業部 課長
草場氏は太宰府の観光・まちづくりを目的とした西鉄グループ横断組織の太宰府委員会にも所属。プライベートでは、地元博多の松囃子や山笠に参加月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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