2024年04月20日( 土 )

アジアに「経済民主主義」を普及させ、共同体構築を図る!(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

尖閣問題でも米中貿易摩擦でも、中国+1=中国と不退転の決意

山森 一男 氏

 司会が増田博美氏((株)グローバルハート代表取締役)に交替、Ⅱ.『アジアと共生する日本の中小企業』というテーマで中小企業経営者2人による報告があった。山森一男 旭東ダイカストグループ会長・日中技能者交流センター理事は「日中分業体制の構築から民間文化交流の推進へ」、小川登リード技研社長は「アジア人材の活用で経営発展とアジア工業化を同時推進」と題して講演を行った。

 旭東ダイカストグループは創立87年のダイカスト(金属製の精密な鋳型のなかに、溶かした合金に圧力をかけて流し込み鋳造する方法)の会社で、山村会長と中国との縁は30年に上る。同社は1985年に中国浙江省寧波市に現地工場を創設、以来日中分業体制と総合的なサプライチェーンでグローバル調達に対応している。また、会社の使命は持続的発展と企業には社会性が必要との自覚から、2017年には、旭東山森教育信息諮詢(寧波)有限公司を設立、高齢者福祉事業、日中地域交流事業にも乗り出し、日中合作でサクラ一万本を植樹し、日中平和友好条約締結40周年記念事業として、2018年寧海・橋頭胡街道桜祭りを実施している。山森会長は、中国投資を不退転といい、尖閣問題で日中関係がギクシャクした時も米中貿易摩擦の今も、自分にとって「中国+1=中国」であると語った。

 リード技研は日本の金型メーカーが1990年の半分に減少する中、公差±1μmといった超精密加工技術を用いた金型部品の製作により存在感を発揮している会社である。同社ではベトナムとミャンマーに注力、人材確保のためにベトナム人材を日本で教育、ベトナム現地法人の幹部社員として送り返し、経営の発展とベトナムの工業化に寄与している。現在、ベトナムで部品を生産してミャンマーで組立てるアシスト自転車生産も起業中である。

<自動車産業における2次サプライヤーの海外進出は容易でない>

 司会が稲田堅太郎氏(法円坂法律事務所弁護士)に変わり、Ⅲ.『革新する中国、日本の中小企業』というテーマで、林松国・小樽商科大学教授が「研究開発を活発化する中国の中小企業」、清晌一郎・関東学院大学名誉教授は「自動車産業のグローバル化を支える関連中小企業の海外進出」と題し、講演を行った。

 上海市の中小企業は総企業数の99.6%、総従業員数の74.3%を占め、工業ではその比率が99.7%、77.5%と一層高まり、上海の経済発展において中小企業の存在は極めて重要である。林小国氏は、上海市政府は2010年から「専精特新」(ニッチトップ型)中小企業の育成、評価のプロジェクトをスタート、2018年まで合計2103社の「専精特新」企業が選出されたことを披露した。そして、上海の中小企業が研究開発によるイノベーションを活発化し、新たな発展段階、すなわち「量的拡大から質的発展」に進んでいることを明らかにした。

 清晌一郎氏は、代表を務めた科研費(科学研究費助成事業)プロジェクト「自動車産業におけるグローバルサプライヤーシステムの変化と国際競争力に関する調査研究」(2011‐16年度)に基づいて報告をした。アジアは自動車の製造拠点であり、日中韓の3国で世界の65%を占め、それにインドや東南アジアを含めると、さらに占有率が上がる。現状では、日本の1次サプライヤーの海外のオペレーションは拡大、海外売上依存度も上がっている。しかし、2次サプライヤーの海外進出には、インドを除く、中国、タイ、インドネシア、ベトナムなどのアジア諸国においては容易ではない実態が調査から浮かび上がった。今後2030年頃までの自動車産業のアジアの成長国としては、インド、パキスタン、フィリピン、マレーシアなどが挙げられる。

中国は「韜光養晦」作戦から、「以戦止戦」方針に変更した

 司会は兼村智也(松本大学教授)に変わり、中小企業関連から離れて、Ⅳ.緊急テーマ『米中経済摩擦と一帯一路』で、朱建榮・東洋学園大学教授が「米中貿易戦争と日本の針路」と題して講演を行った。コメンテーターは、萩原伸次郎氏(横浜国立大学名誉教授)と朱炎氏(拓殖大学教授)であった。

 朱建榮氏は、米中貿易戦争の本質を、中国の急速な追い上げに対し、米国が必死に抑え込む図式「トゥキディデスの罠」の現代版であるとし、覇権国・米国の「6割法則」を披露した。19世紀末に大英帝国を抜いて、世界一の大国になった米国は、追い上げてくる新興国に対して本能的な拒否反応を示し、叩き潰そうとしてきた。これまで新興国は米国の6割に追いついた時点で、米国によるなりふり構わぬ「振り落とし」の攻撃を受けた。これが米国の「6割法則」である。前例は、ドイツ、旧ソ連、日本などである。

 2018年、中国はドルベースで米国の67%に達し6割を超えた。中国はこれまで「韜光養晦(とうこうようかい)」作戦(才能を隠して、内に力を蓄える)を駆使し、米国の標的になることを3回かわしてきた。しかし、6割を超えた時点で、作戦を「以戦止戦」(戦いを以て戦いを止める・兵書『司馬法』の戦略思想)方針に変更したと語った。

 そして、今後10年の米中関係は、中国は持久戦に入り、「競争7割、協力3割」で進んでいくのではないかと、とその見通しを述べた。

中国が持久戦を征するためには、「一帯一路」が重要となる

進藤 榮一 会長

 最後に、総括の挨拶をした進藤榮一 国際アジア共同体学会会長は、朱建榮氏の言葉を受けて「今、中国の最大の関心事は“日本が陥った罠”と同じ米国の罠に陥らないようにすることではないか」と語った。

 1980年代に世界を席巻した日本の半導体産業(技術力だけでなく、売上高においても、米国を抜いてトップとなり、一時は世界シェアの50%を超えた)は「日米半導体協議」で壊滅した。また85年のプラザ合意(米国、英国、旧西独、フランス、日本)では、合意前1ドル240円台のレートが、同年末には200円になり、87年末には1ドル120円台になり、日本経済は崩壊した。

 続けて進藤会長は、中国が“日本が陥った罠”に陥らないようにするためにも、そしてこの持久戦を征するためにも、ヨーロッパと手を結ぶこと「一帯一路」が重要になってくることを示唆した。

(了)
【金木 亮憲】

(前)

関連記事