2024年04月24日( 水 )

【虎党記者の食べある記】7月27日閉店「中洲ちんや」~創業70余年、老舗の味を噛みしめる

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 博多区中洲3丁目にある「中洲ちんや」は、九州産黒毛和牛のすき焼きやしゃぶしゃぶ、ステーキなどを堪能できる老舗名店。中でもすき焼きは、割烹着姿の仲居さん自らお客さんの目の前で調理する。丁寧な接客サービスも好評で、地元民のみならず、某有名歌手や大物俳優、人気お笑い芸人も、福岡に立ち寄る際はお忍びで来店していたという。

 記者は福岡にきてから、まだ一度も足を運んだことがなく、恥ずかしながら閉店の報に触れるまで、同店の存在すら知らなかった。もはや予約を取ること自体が至難の業ということもあり、半ば行くのをあきらめていたが、せめてランチだけでも堪能したいとの思いから、お店へと向かうことにした。

閉店を惜しむ長蛇の列が続く

 記者がお店の前に着いたのは、ちょうど午前11時を回ったころ。「中洲ちんや」の屋号が書かれた老舗感漂う看板のすぐ上には、「71年間ありがとうございました」と書かれた横断幕が・・・。そして店の前には、閉店を惜しむ人たちが長い行列をつくっており、行列の長さは優に50mに達するかというものだった。列の長さから推測すると、早い人で9時台、遅くとも10時台から並び始めているものと思われる

 行列の顔触れに目を向けると、古くからの常連と思われる老夫婦とその家族、おそらくこの日のために午前中の仕事を早く切り上げてやってきたであろうサラリーマンやOL、閉店の噂を聞きつけてやってきた一見と思われる観光客や外国人の姿もあり、みな一様に開店を今か今かと待ちわびていた。

 普段、わざわざ行列に並んでまで店に入ろうという気にならない記者は、いつもならこの長蛇の列を見た瞬間、あきらめてほかの店を探すところだ。しかし、この日は違った。この光景を見ても、胃袋が「並んででも、ちんやの肉を食さないことには納得できない」と叫んでいたので、1時間以上待つのを覚悟の上で、あえて並ぶことを決意した。

 行列に並び始めて間もなく、知人がたまたま行列の近くを通りかかり、記者に声をかけてきた。聞くと彼も同じく、中洲ちんや閉店の話を聞きつけ、最後にその味を堪能しようと仕事の間を縫って訪れたらしい。お互い意気投合し、一緒に並ぶことにした。

開店30分も経たないうちに品切れが…。予想を超える盛況ぶり

 並び始めてから1時間もしないうちに、幸運にも1階のレストランに入ることができた。昭和を感じさせるレトロなたたずまいの店内はすでに満席で、カウンターの後ろには数名の待ちが出るほどの盛況ぶり。従業員から、「相席になりますがよろしいですか?」と確認があり、問題ないと伝えたところ、ほとんど待つことなく奥のテーブル席へと案内された。

 レストランということもあり、メニューは全10種類の洋食が並ぶ。お腹を空かせた記者と知人は、焼肉定食のお肉大盛り、記者はプラスしてご飯を大盛りで注文した。隣のカップルは別のメニューを注文していたが、「すでに品切れ」だとか。開店30分も経たないうちに品切れが起こるとは…予想を超える盛況ぶりで従業員も忙しそうだった。

 注文してから10分も経たないうちに、厨房から焼肉定食が運ばれてきた。卓に置かれた瞬間、まず驚いたのは、メインとなるお肉の「これでもか」というほどのボリュームと、辺りに漂う肉汁とタレの絡まった香ばしい香り――。記者の食欲をそそり、胃袋が「早く早く」と急かしているのがわかった。

絶品&ボリューム満点の焼肉ランチ

 すぐにでも肉を口に頬張りたい気持ちを落ち着けるため、まずは味噌汁を軽くすする。一呼吸置いた後、肉に箸を付け、そのまま口に運んだ。特製のタレで炒められた牛肉は味が染みこみ、すぐに噛み切れるほどの柔らかさで、肉質は申し分ない。噛むと口中に肉汁が広がっていくのがわかった。「この肉がご飯と合わない訳がない!」――すぐさま口のなかに白いご飯を掻き込む。その瞬間、芳醇な肉と御飯のハーモニーが口いっぱいに広がった。

 再び味の染み込んだ肉を口に運び、すぐさま白いご飯を掻き込む――この繰り返しを、記者も知人も黙々と続けた。みるみるうちに膨らむ胃袋。いつもならご飯のお代わりを要求するが、今回はせっかく味わった肉の余韻を残したかったのか、腹八分でストップがかかった。記者も知人も、「いうことなし」「大満足」でお店を後にしたのはいうまでもない。

7月27日をもって閉店、老舗の味をいつまでも人々の記憶に

 既報の通り、中洲ちんやは7月27日をもって閉店することが決まっている。今回の来訪時には、前回見られなかった横断幕が掲げられていたほか、入口付近には「閉店のお知らせ」と書かれた看板を目にした。改めて、中洲ちんやの閉店が事実だということを再認識させられた。記者にとっては前回叶わなかった味を堪能することができたが、ほかのお店とは違い、「最初で最後になるかもしれない」という特別感が、老舗の味をより一層深い味わいにした。

 閉店が迫るにつれ、多くの人が訪れるのは、創業以来70余年もの間、老若男女・国籍問わず多くの人に愛されたことの証明であろう。

 営業もいよいよ残り数日。中洲の名店がまた1つなくなってしまうのは名残惜しくもあるが、多くの人々に感動をもたらした同店の味とサービスは、人々の記憶にいつまでも残り続けることだろう。

【長谷川 大輔】

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