李在明政権下の日韓関係と日本企業への影響

国際政治学者 和田大樹

日韓関係 イメージ 6月3日に行われた韓国の大統領選挙は、選挙戦から圧倒的な優勢だった李在明(イ・ジェミョン)氏が勝利した。李在明氏は、過去に反日的な言動や政策をたびたび示してきた。たとえば、京畿道知事時代の2018年には、慰安婦問題や徴用工問題をめぐり日本への強硬な態度を表明し、歴史問題を政治的に利用する姿勢が見られた。しかし、今回の選挙戦では、李氏は反日トーンを明確に抑え、日韓関係の改善と協力の重要性を強調し、経済や安全保障面でのパートナーシップを訴えた。この変化の背景には何があるのか。筆者が考えるポイントは2つある。

 まず、韓国国内の世論変化と経済優先の流れがある。近年、日韓間の経済・文化交流は深化している。K-POPや韓国ドラマの世界的ブーム、日本のアニメやファッションの韓国での人気拡大など、両国の若年層を中心に相互理解が進んでいる。とくに、韓国の若年層や中道派の有権者の間では高い失業率など経済的不満が根強く、歴史問題よりも経済成長、雇用創出、国際競争力の強化といった現実的な課題を重視する傾向が強い。このため、過度な反日姿勢は時代遅れと見なされ、李在明氏が反日を前面に出せば支持を失うリスクがある。実際、22年の大統領選挙では、反日感情を煽る戦略が中道派の支持を得られず、保守派の尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏が勝利した経緯がある。李在明氏はこの教訓を踏まえ、反日色を抑え、経済協力や技術交流を軸にした日韓関係の構築を訴えたと考えられる。

 もう1つの要因は、韓国を取り巻く安全保障環境の変化である。北朝鮮の核・ミサイル開発は依然として脅威であり、近年では北朝鮮がウクライナへ兵士を派遣したり、武器弾薬を提供したりするなどロシアとの軍事的結束を強めている。中国の海洋進出や軍事力強化、台湾有事をめぐる緊張なども韓国にとって無視できない課題である。要は、日本と韓国が抱く懸念は重複している。こうした状況下で、日米韓の3カ国協力に加え、日韓2国間の安全保障協力の重要性も増している。

 こういった状況に照らせば、李在明政権は、国内世論の変化と安全保障環境の緊迫化を背景に、反日姿勢を抑え、ユン前政権で大きく改善した日韓関係の維持を優先するだろう。この動きは、日本企業にとって安定した投資環境や新たなビジネス機会を提供する可能性が高い。

 今日、日本にとって韓国は米国、中国に次ぐ輸出先で、韓国にとっても日本は世界第4位の輸出先であり、半導体など戦略物資を含む経済安全保障上の協力を含め、韓国は日本企業にとって重要なパートナーであり続けると考える。ただし、ユン前大統領による戒厳令のように、国内政治の変動によるリスクも可能性としては排除できず、日本企業は韓国政治における不確実性も配慮し、韓国市場におけるリスク管理も徹底する必要がある。


<プロフィール>
和田大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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