2024年04月26日( 金 )

映像制作業界の今後を考える(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 映像制作業界も、ほかの業界と違わず日進月歩だ。筆者は、長くこの業界に携わるなかで、クリエーターと呼ばれる数多くの技術者と出会ってきた。業界が日々進化を遂げるなかで、当然ながら、そこに関わる人たちも進化していかなければならない。そこで、今回は映像制作業界が、この10年間でどう変わり、そこで生き抜いていく人たちがどう変化してきているかを振り返ってみる。そして、これからこの業界に求められるものを考察してみようと思う。

スマホから仕事を奪われる時代

 テレビ業界出身の筆者は、2011年にウェブ用に動画をつくり、それをニュースサイトに反映させて広報PRに生かすビジネスモデルを考えた。当時、中小企業が自社のホームページをもつことは当たり前だったが、そのページのなかに、動画が組み込まれているというものは、まだ珍しかった。その一番の理由は、動画を制作する値段が高かったからだ。

 ホームページの製作費が安くても30万円前後だったなかで、動画を組み込むと料金が2倍以上に膨れ上がるという状況下で、中小企業はなかなか手を出しにくかったようだ。

 スマートフォンの機能性がますます充実して、さらに、写真やムービーの画素数が飛躍的に増えた。それにともない、Wi-Fiのデータ転送速度が上がっていった。機能が充実し、操作が簡単になったことで、誰もが簡単にきれいな写真を撮影でき、たとえうまく撮れなくても、あとから簡単に加工することができるようになった。動画も同様だ。今では無料のアプリが瞬時に「良い具合に」編集までしてくれるというのだから進化のスピードに驚かされる。

 スチールカメラマンに話を聞くと、かつては高価な一眼レフカメラを使いこなしてこそ、良い写真が撮れるという感じだったが、最近はスマホのカメラでも「そこそこ良い写真」が撮れるようになって、スチールカメラマンへのニーズが減ってきたという。そもそも、そこまでのレベルの写真を求めていないクライアントも多いという。スチール撮影を専門にしたカメラマンの撮影技術が高いのは当たり前、それよりも被写体といかにコミュニケーションをとって、良い笑顔を引き出せるかが大事なのだという。

 一昔前までは、堅物で苦虫を噛み潰したような、一見怖そうな雰囲気のカメラマンでも、ウデがよければ通用したかもしれないが、今はそんな時代ではない。すべてがスマホに取って代わられるなか、コミュニケーションスキルの乏しいカメラマンは仕事が減る一方なのだという。

映像制作業界はブラックイメージから脱却を目指すべき

 筆者は長年テレビの世界にいたが、この業界の人は相変わらず、TシャツにGパンといったラフな格好が目立つ。目上の人へのインタビュー取材だろうが、高級ホテルでのロケだろうが、撮影内容とはおよそ無関係、ラフな格好を通り越して、「今から海に行くのか?」と思わせるような、だらしない格好の者もいる。

 筆者はかねてから、自分が関わる技術スタッフに対しては、「仕事の相手として見てもらいたいなら、失礼のないレベルの格好でロケに臨むべきだ」と助言してきた。「テレビ業界特有の、とりわけ技術をもった自分たちは特別扱いだ」という驕りが、業界の衰退にもつながってきたと見ている。

 趣味趣向の多様化、視聴率の低迷などもあり、世論に対するテレビの影響力が以前よりも衰えるなか、肉体労働、24時間フル稼働のイメージが強く、いまだに徒弟制度が色濃く残る「体育会系」の映像制作現場は、慢性的に人手不足に喘いでいる。

 「以前はテレビに対する憧れみたいなもので、この業界に飛び込んでくる若者もいましたが、今はそういう人はあまりいません。いつでもどこでもスマホ1つあれば、インターネット上に動画をアップすることができる時代、先輩から技術を教わるより、自分が表現したいものを好きなように発信できるYouTubeやSNSに魅力を感じる若者のほうが多いのです」と話すのは、テレビ業界のベテランカメラマン。

 彼は新しい機材の情報やうんちくは一人前だが、圧倒的に現場経験が足りない自称カメラマンが多いと嘆く。

 下積み時代に汗を流して技術を体得する若者はもはや絶滅危惧種といえる。最近でこそ、ネガティブイメージの払しょくを目指す企業も増えてきたようだが、実情は下請のフリーランスに仕事をふることで、社員の負担を減らすという「急場しのぎ」の対策に過ぎず、抜本的な構造改革が求められている。

(つづく) 

(後)

関連記事