2024年04月20日( 土 )

中小企業の現場で実現できるのか 働き方改革の課題とこれからの展望(前)

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 来年4月から中小企業にも本格的に適用される働き方改革。だが、人手不足が進むなかで、本当に中小企業の実情が反映されたものなのか、働き方改革の先行きを懸念する声も多い。企業現場での多くの経験から、この課題にいかに立ち向かうべきかを議論し続けている働き方評論家、千葉商科大学国際教養学部専任講師の常見陽平氏に現状と今後の展望を聞いた。

中小企業の経営現場を反映したものか

働き方評論家、千葉商科大学国際教養学部専任講師の常見陽平氏

 働き方改革は、恵まれた大企業にはできることでも、中小企業の経営の実態にあったものなのか。働き方改革の実現に向けて開かれた働き方改革実現会議には、有識者として多くの経営者や専門家が出席していた。

 だが、日本の雇用の7割を担う中小企業を視野に入れた考えをもつ者は少なく、中小企業の経営の実情がかなり反映されにくいなかで決まった法律であることも事実ではないか。大企業と中小企業の立場の違いがかたちになったのは、組織体制づくりの準備期間として1年くらい遅れて適用されることくらいだ。

 大企業と中堅・中小企業には、さまざまな格差がある。大企業の業績に左右される中堅・中小企業も多く、採用活動のために人手不足のなかで労働環境を良くしないといけないという課題も抱えている。さらには働き方改革という理想を掲げられても、顧客や取引先との関係があって実現が難しいことも多い。

ITやオフィス、人材への投資が必要

 本来の働き方改革は、企業や人の力を発揮できる方法を見つけて「改革」するものだが、電通過労自死問題などの報道から労働時間を減らすことばかりが注目され、いかに前向きに働き方を変えていくかにまで議論がおよんでいないことが問題だ。

 また、これまでは現場の創意工夫や経営者の意志次第で、効率的に仕事を進めて労働時間を短くできるといわれてきた。だが、「気合いと根性」だけで現場を解決できる問題ではなく、仕事の量や進め方を改革するためには、企業としての投資が不可欠だという視点が見落されている。

 具体的には、ITシステムやオフィス、人材への投資だ。たとえば、多様な働き方として、オフィスの外で仕事をするテレワークを取り入れるためには、社外で仕事に使うパソコンのハッキングや情報漏えいが起こらないように、ビジネスに使える安全なシステムに変える必要がある。

 また労働時間を把握することが義務付けられたが、効率的にチェックするためにはICカードなどの仕組みづくりが必要だ。次に、オフィスへの投資では、今まで全員が毎日出社するのが当たり前だったが、これからはテレワークなどのさまざまな働き方の人が仕事しやすいように会議室などを変える必要がある。

 さらに、労働時間が短縮されるなかで仕事を早く進めるためには、採用を増やす必要が出てくる可能性もあり、仕事を効率化できるスキルを身に付けるためのトレーニングも必要になる。

 ほかの業種の優れた方法を取り入れることが、現場の改善にもつながっている。たとえば、快適で仕事がしやすい管理が行き届いた職場づくりや作業工程の「見える化」を実現している「トヨタ生産方式」は、大手製造業だけに役立つノウハウでなく、あらゆる業種で生かせる方法だ。そしてこれからは、働き方や役割分担の見直し、多様な人材の登用、人材の育成なども必要になる。

 いずれにしても、表面的な取り組みだけでは解決できない。企業の仕組みそのものにメスを入れなければ、働き方改革を踏まえた組織体制に変えられないのではないか。

人手不足のなかでどう実現するか

 多様な働き方を取り入れて労働時間を減らすことがいわれているが、人手不足のなかで今までのやり方でそのまま人材を多様化するのは現場にあったやり方ではない。多様な人材でいかに仕事の役割を分担するかを考えて、多様な働き方を生かしたチームワークをもって仕事できる体制づくりが必要だろう。

 たとえば、多様な人材を登用して前向きに事業を進めているのは、石川県で食品加工業を営む(株)オハラだ。ヒット商品のために人手不足になったオハラでは、早朝限定で高齢者に働いてもらう制度を取り入れて、一気に人手不足を解消したという。

 食品加工業で朝から工場を稼働しているため、忙しい商品の製造ラインでは、早朝4時ごろから9時ごろまで高齢者のアルバイトが活躍している。アルバイトの募集も大人気だという。高齢者は早起きという強みを生かして、人が集まりにくい時間に人材を活用して現場をうまく回している。年金問題がもち上がるなかで、シニア世代の仕事探しの課題にも一役買っているのではないだろうか。

 また、農業も人手不足といわれているが、北海道・札幌市にある果樹園では1~2時間の短時間で高齢者の勤務を取り入れており、フルタイムでは仕事をしづらい人材を活用して仕事を分担している。今までの常識にこだわらず、多様な人材を活用して事業がうまく回る仕組みをつくることも、人手不足のなかでの企業の活路の1つではないだろうか。

(つづく)
【石井 ゆかり】

(中)

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