2024年04月20日( 土 )

“未完成”をメリットに進化を続ける機能性表示食品制度!~4度におよぶアクティブな改正で制度自体が業界をけん引!

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健康食品業界を大きく変えたといわれる「新たに機能性表示を可能とする仕組みの整備」が2013年6月14日に閣議決定されてから、早いもので6年の月日が流れたことになる。そしてその後、有識者による検討会を経て15年4月にスタートしたのが機能性表示食品制度だ。5年目を迎えた機能性表示食品は19年6月20日現在、届け出数はすでに2,000件(取り下げがあるために実数は2,000弱)を超え、制度発足以来28年が経過した特定保健用食品(トクホ)の許可件数1,065件(19年6月19日現在)の約2倍の数を5分の1の期間で達成、市場規模も約2,000億円という民間調査会社の試算もある。

目指すのは「世界最先端」の制度

 何といっても衝撃的だったのは2013年6月5日、「成長戦略第3弾スピーチ」において安倍晋三首相自らが機能性表示解禁に関して語ったことであろう。

 「健康食品の機能性表示を解禁いたします。国民が自らの健康を自ら守る。そのためには、的確な情報が提供されなければならない。当然のことです。現在は、国から『トクホ』の認定を受けなければ、“強い骨をつくる”といった効果を商品に記載できません。お金も、時間も、かかります。とりわけ中小企業・小規模事業者には、チャンスが事実上閉ざされているといってもよいでしょう。アメリカでは、国の認定を受けていないことをしっかりと明記すれば、商品に機能性表示を行うことができます。国へは事後に届け出をするだけでよいのです。今回の解禁は、単に、世界と制度をそろえるだけにとどまりません。農産物の海外展開も視野に、諸外国よりも消費者にわかりやすい機能表示を促すような仕組みも検討したいと思います。目指すのは、『世界並み』ではありません。むしろ、『世界最先端』です。世界で一番企業が活躍しやすい国の実現。それが安倍内閣の基本方針です」。

 一国の首相が健康食品の機能性表示に言及したのは世界でも例を見ないといわれるこの1分足らずの文言によって、ある意味ブラックボックス化されていた日本の「食品の機能性表示」が大きく動き出すこととなった。

 機能性表示食品制度はアメリカのサプリメント法(DSHEA法:Dietary Supplement Health and Education Act)を参考に設計され、トクホに代表される事前許可制から事後チェック制に大きく方向変換、事業者の責任において、販売前に消費者庁に届け出を行い、受理されれば科学的根拠に基づいた機能性を表示しての販売が可能となった。

 また、届け出書類の全面公開や、加工品に加えて農産物などの生鮮食品も対象となり、さらに科学的根拠に「最終製品または機能性関与成分に関する研究レビュー」(システマティック・レビュー:SR(systematic review))も認めるなど、随所随所に新しい試みが組み込まれた。

 とくに研究レビューが科学的根拠として認められたことによって、それまでのトクホ制度では必須であった「最終製品を用いたヒト試験による臨床試験」が必ずしも必要でなくなったことは非常に大きかった。多くの企業はそれまで、製品や原材料にある程度の科学的根拠をもっていても、数億円という費用と許認可まで平均4年半かかるといわれる時間を考えると、一部の大手企業を除けば、容易にトクホ許可取得には踏み切ることができなかったからである。

 この機能性表示食品制度は、上記の通り規制改革会議(現・規制改革推進会議)が答申し、検討会においてその詳細が決定したという経緯がある。しかし、この制度の最大の特徴はその制度が未完成であるということである。つまり、制度を運用しながら常にブラッシュアップしていくことが前提となっているという側面をもつ。

 この制度は食品表示法が根拠法となっており、食品表示基準のもと現実的にはガイドラインに沿って運用されている。最初のガイドラインは制度スタート時の15年3月30日に公表されたが、実に19年3月28日の改正が4回目の改正となっている。制度発足4年で4回の改正ということは、つまりほぼ毎年何らかの制度改正が行われているということである。

 16年3月31日の最初の改正では、翌年度から開始されたオンライン上での届け出に準じた諸改正が明記され、それまで郵送にて受け付けられていた届け出がオンラインに集約された。17年12月27日に公表された第2次改正では、懸案であった対象成分が一部の糖質・糖類にも門戸が広げられた。さらに、機能性関与成分の定性確認および定量確認の分析方法が原則公開となり、質疑応答集(Q&A)の作成が明記されている。

 18年3月28日公表の第3次改正では、「特定の成分で機能性が部分的に説明できる「植物エキスおよび分泌物」の届け出も可能となり、さらに農産物などの生鮮食品に関して、1日摂取量の半分の量での届け出が可能になるなど、数々の緩和措置が打ち出された。

軽症者を含む場合のデータの取り扱い拡大

 そして、19年3月26日に第4次改訂となるガイドライン改正が行われ公表された。今回の改正は2つの「規制改革実施計画」(17年6月閣議決定および18年6月閣議決定)に対応したもので、大きな改正点の1つは何といっても、臨床試験(ヒト試験)の参加者および研究レビューの対象となる臨床試験(ヒト試験)に係る対象者における「軽症者データの取扱」範囲の拡大であろう。

 今まで、トクホの表示許可に関しては、コレステロール関係、中長期的な血中中性脂肪関係、食後の血中中性脂肪の上昇関係、血圧関係、食後の血糖上昇関係、体脂肪関係および整腸関係の7項目に関して、その科学的根拠として軽症者データの利用が可能となっていた。

 一方で、機能性表示食品制度においては、軽症者を含む場合のデータの取り扱いに関して追加で示す必要性が高い領域についての検討が17年6月の「規制改革実施計画」に折り込まれていた。これを受けて、18年度の消費者庁委託事業として、アレルギー、尿酸、認知機能の3領域に関して、その軽症者データの取扱い方法などの内容を調査および検討する調査事業が、(公財)日本健康・栄養食品協会に委託され、19年3月に報告書が公表された。

 今回は、その内容を受けたかたちで、電光石火でほぼ同時のタイミングで「機能性表示食品の届出などに関するガイドライン」および「機能性表示食品に関する質疑応答集」に反映されたというわけだ。

 まず、アレルギー領域に関しては、健常者を「鼻目のアレルギー反応を有し、試験前および試験期間中にアレルギー治療薬を摂取していない者」、軽症者を「鼻目のアレルギー反応を有し、試験前および試験期間中にアレルギー治療薬を時々摂取している者」と定義し、評価指標は鼻目症状と日常生活の支障度とした。一方、尿酸領域では、健常者を血清尿酸値が7.0mg/d以下、軽症者を血清尿酸値を7.1~7.9mg/dLとして、評価指数は血清尿酸値AUC(食後の上昇のみ)とした。

 この2つの領域では層別解析の必要はないが、被験者に概ね半数以上の健常者が含まれることが条件となっている。ただし、研究レビューの場合は、健常者の数が半数をわずかに割っていてもデータとして使用することは差し支えないが、被験者における健常者の数が概ね半数以上であると判断した根拠については、評価指標の数値なども含めて、届出資料に記載することが必要であるとされている。

 そして、認知機能領域では、原則40歳以上の認知症ではない者で軽度認知障害(Mild Cognitive  Impairment:MCI)までを健常者の範囲として軽症者域は設けず、評価指標は認知機能と生活の質とされた。ただし、被験者に40歳未満の者が含まれている場合であっても、加齢にともなう認知機能の低下が確認されていれば、そのデータを使用することは可能である。試験方法は原則として RCT(ランダム化比較試験)とされたものの、並行群間比較試験、クロスオーバー比較試験のいずれかでも可能とされ、盲検性についても、機能性関与成分の特性によりプラセボが作製できない場合などは、単盲検試験が可能となっている。

 評価指標は「認知機能」および「生活の質(Quality of Life:QOL)」と規定されている。ただし、生活の質は認知機能の変化にともなうことを条件とし、認知機能と併せて評価を行うこととされ、各評価指標の評価方法については、「認知症疾患診療ガイドライン2017」に記載された検査またはその他妥当性が確認された検査を使用するが、複数の機能や指標を評価して、結果として一部の機能や指標に限られた有効性であった場合でもデータとして使用可能である。さらに、摂取期間は原則として12週間以上だが、これも機能性関与成分の特性に応じて、科学的合理性が担保された別の試験方法を用いることが可能となっており、かなり柔軟性をもたせた基準となっている。
 これによって、この「アレルギー」「尿酸値」「認知機能」の3領域においては、表示しようとする機能性以外の検査値などが、疾病域に該当するデータかどうかを確認することは必要ではあるものの、論文で健常者として取り扱われていれば、表示しようとする機能性以外の検査値などが疾病域に該当してもデータとして使用が可能となった。

 とくに認知機能領域でMCIが健常者として明確に定義されたことの意味は大きい。この分野は医薬品全般においても、その対応が難航している分野でもあり、人生100歳時代を迎えて急増が想定される認知機能低下の対策として、機能性表示食品の活躍の可能性が大きく広がったことを意味する。

 なお、今回の3分野での軽症者データの利用範囲拡大を受け、今後は機能性の科学的根拠となる論文の質の向上とデータ数を増やしていくことが重要である一方で、3領域以外の分野でも同じようなロジックによって、軽症者データの利用範囲拡大に期待がかかる。すでに、複数の業界団体が連名で消費者庁に対して、「他領域での軽症者データの利用範囲拡大の検討」の要望書を提出している。今後は、業界が中心となった動きにも注目が集まる。

「専ら医薬品として使用される成分本質」の利用の整理も

 今回のガイドラインでのもう1つの大きな改正は、届出しようとする食品の機能性関与成分が「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」に含まれる場合の消費者庁における確認過程の明確化だ。

 18年6月15日に閣議決定された「規制改革実施計画」において、「厚生労働省は、専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)を元から含む生鮮食品や、その成分本質を利用した加工品(伝統的発酵食品・サプリメント形状食品を含む)の医薬品該当性に関してQ&Aなどにまとめて周知。消費者庁は、その内容を受けて、機能性表示食品の届出の適否を判断する過程を明確化し、Q&Aなどに反映して周知する」を反映したものだ。

 「専ら医薬品リスト」に掲載されている成分を機能性表示食品の機能性関与成分とする食品が消費者庁に届け出られた場合、それが農産物などの生鮮食品であった場合はその食品が抽出などの過度な加工がともなわない限りそのままの届け出として対応されることとなった。ただし、加工度によっては「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)」と見なされる場合もあるために、当該成分本質(原材料)を機能性関与成分とする食品が、医薬品に該当しないことが不明確な場合は、届出確認時に消費者庁から厚生労働省に照会し、確認することとなる。とくに錠剤・カプセル状のサプリメント形状の加工品の場合には注意が必要だ。

 さらに、事業者による届出後の販売状況の届出も義務付けられることになった。また、今回の第4次ガイドライン改正に合わせて、19年度からデータベースが改修され、以前と比較して検索機能なども付加され、非常に使いやすいものとなっている。

機能性表示食品制度の今後、トクホ制度のとの棲み分けは?

日機能性表示食品16社の景品表示法違反を発表する
消費者庁表示対策課・大元慎二課長(2017年11月7日)

 今年度(令和元年度)は、「疾病リスク低減型トクホの関与成分拡大に関する調査事業」が予定されている。これは機能性表示食品の拡大にともなって、機能性表示食品とトクホとの区別が不明瞭になりつつあるという懸念を受け、トクホ制度だけに認められている「疾病リスク低減表示」を見直し拡大して、トクホ制度と機能性表示食品との識別を明確にしようとするものだ。

 食品の機能性表示は現在、機能性表示食品とトクホ、栄養機能食品がバラバラに運用されており、少なくとも消費者にはこの区別はほとんどわかっていない。今後はこれら各制度の見直し検討に加えて、食品の機能性表示全体の枠組みを包括的に見直す時期にきているのかもしれない。そして、19年6月21日に閣議決定された「規制改革実施計画」には、「機能性表示食品に対する法執行方針の明確化」と「機能性表示食品制度の運用における連携強化」が折り込まれた。

 昨年、機能性表示食品として一度は受理された「歩行能力の改善」の表示が薬機法に抵触しているとの指摘で、同系の商品の撤回が相次いだ事件は記憶に新しい。また、17年11月に業界を震撼させた16社の機能性表示食品に対して景品表示法違反が適用されたことも、なんとも後味の悪い出来事であった。規制改革推進会議でもこれら広告規制の「予見性の不透明性」を重視し、今回の答申に踏み切ったかたちとなった。

 「機能性を裏付ける科学的根拠について、どのような場合にその科学的根拠を欠くものとして景品表示法による処分の対象となるのか、ガイドラインなどで考え方を整理・公表する」「事業者が届出の段階において販売後の関係法令上の問題点も自ら把握できるよう、機能性表示食品の届出とその事後規制に関わる規制所管課室で連携して事後チェックの透明性向上に係るガイドラインを作成し公表する」「第三者的な役割をもつ機関あるいは組織の活用などにより、透明性のある法執行の仕組みを構築」―。これらが、令和元年度末までに行われ、ガイドラインなどに反映されることになる。

【取材・文・構成:継田 治生】

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