流通業界イマドキの「人材確保事情」 人手不足が小売企業の経営を揺るがす(前)
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人手不足が各業界で深刻化するなか、小売を始めとする流通業界もご多分に漏れず同じ様相を呈している。もともと利益幅が薄い小売業界では、労務問題を起因として赤字転落する企業も次々と出てくるなど、経営の最重要事項といってもよい状況に突入している。
利益を侵食する人件費
2019年2〜3月に決算を迎えた、九州で店舗展開をする主要6社の労働分配率は、前年度と比較して4社が上昇、2社が低下となった。労働分配率は営業総利益のうち労務費用に充てた割合。稼いだ利益を分母として支払う人件費の割合を示す。利益が変わらず人件費が上がれば、数値は高くなり、人件費が同じでも利益が減れば、数値は高くなる。業種によってその水準は異なるが、この高低が経常利益を残せるかどうかにつながる。
(株)ミスターマックス・ホールディングス(HD)は粗利益を増やし人件費を抑えたことによって改善した。数値を抑えて利益確保につなげたという意味では最も優秀といえるが、むしろ低すぎるのが懸念となる。
一般小売で労働分配率が35%を割ると、(1)人材への投資不足ではないか、(2)労務違反はないか、(3)経営陣への不当な賃金集中が起こっていないか、について経営分析が必要とされる。主要6社のうち、従業員数、平均年齢、平均年間給与のいずれもが低下したのはミスターマックスHDだけという点に着目すると、利益確保のために将来の成長性もしくは既存の従業員を犠牲とした、一時しのぎの経営が行われていないかの精査が必要といえよう。
マックスバリュ九州(株)は人件費が2%増えたが、それ以上に営業総利益を伸ばしたことで分配率は低下した。社員はもとよりパートタイマーも200人以上増やしている。積極的な出店を続け、九州のイオングループの稼ぎ頭となっていることもある一方で、下がったといっても、もともとの水準が50%弱と高すぎる。現在の業績好調を維持しながら45%未満へソフトランディングすることが求められるだろう。
イオン九州(株)は人件費をやや減らしたが、売上減少にともない営業総利益も減少。労働分配率は上昇した。(株)ナフコも同様の状況にあるが、前期と比較して従業員数は減少、平均年齢と平均年間給与が上昇という状況になっている。数が減って単価が上がるというのはすなわち、単価の安い若い従業員が逃げ出しているということである。前々期との比較でも同様の状況が続いており、売上、利益規模を守るだけの縮小均衡経営に転換したのではという憶測を裏付ける材料となる。
(株)イズミとダイレックス(株)は、従業員の待遇改善で人件費を大幅に増やしたのが主因。イズミは6.0%、ダイレックスは11.5%増やした。一方で営業総利益の伸びが人件費の増加率を下回っているものの、率で35~40%の範囲に収めている。安全水準の範囲内で将来性を踏まえて従業員の待遇を厚くしたこの2社が、最も健全といえるかもしれない。いずれにしても労働分配率が最終利益を大きく左右することは間違いない。年々上昇傾向にあった労務関連経費については、働き方改革元年となった今期はさらに増加することになるであろう。
上がり続ける最低賃金
人件費が増加し続けることにはいくつか要因があるが、大きく分けて「最低賃金の上昇」と、「人手不足による単価の上昇」がある。「最低賃金の上昇」については、最低賃金で雇用する場合、上昇するたびに実勢賃金が上がっていくこととなる。労働力の大半をパートタイマーに依存する小売業界では、年々上がる最低賃金への関心は高い。
福岡では18年10月より814円となった。最低賃金は毎年上がると決まっているわけではないが、この40年ほぼ毎年上がっており、値上げがなかったのは福岡では02年度のみ。社会情勢を受けて、この5年の上り幅はとくに高く、13年と比較すると102円も上がっている。
18年は直近20年で最高となる25円の値上がり。これはパート1人の年間労働を2,000時間で計算すると、1人5万円の給与増になり、パート1,000人で5,000万円となる。最低賃金の上昇が従業員賃金の上昇につながるという計算となるが、イオンやマックスバリュ九州、イズミなどパートタイマー6,000人以上を擁する企業においては3億円以上の人件費増となる。前期営業利益が5,000万のイオン九州は、最低賃金の上昇で営業赤字転落の危機すらある。
なお、大手の総合小売では金額の異なる「特定最低賃金」が適用されるケースもある。衣食住を総合的に扱い、従業員が常時50人以上の企業は「百貨店、総合スーパー」の特定最低賃金が適用される。18年度では最低賃金814円に対し、「百貨店、総合スーパー」の特定最低賃金は867円。その差53円である。各業態の品ぞろえが総合化していくなかで、該当する企業はますます増えていくだろう。
「百貨店、総合スーパー」に該当しない企業は814円以上であれば構わないが、周辺のライバル企業が特定最低賃金の867円以上で採用募集をかけていれば、人材の奪い合い市場において明らかな不利となる。そのため、該当するかどうかに関わらず「百貨店、総合スーパー」扱いの867円以上で募集する企業や、最低賃金より上乗せした金額での募集が多くなっている。いまや福岡の小売でも時給900円以上での募集が珍しくなくなった。
最低賃金は県別に定められており、九州では福岡が最も高い。九州内の他県とは50円以上の開きがあるが、最低賃金の全国一律化や時給1,000円や1,500円などと大幅増などが各方面で議論されている。これが現実のものとなれば、多くの小売の経営を直撃することとなる。
最低賃金以上に上がる賃金単価
「人手不足による単価の高騰」については、内訳としていくつかある。既存従業員の囲い込みと新規従業員の確保を目的とした、待遇面改善の時給アップや、地域によっては商品の安売り合戦以上に時給引き上げ合戦が行われているところもある。
もう1つは割増賃金だ。待遇を改善してもなかなか新規採用につながらず、人員は増えないまま現場運営は続いていけば、現人員で必要な作業をこなすために、1人あたりの労働時間は伸びていくこととなる。残業、深夜残業、休日出勤が増えていけば、それぞれが割増賃金となり単価を押し上げる結果となる。
時間外労働、いわゆる残業に対する手当は25%の割増。午後10時から翌5時の間に勤務する深夜手当は25%の割増だが、これは残業手当と重複する。単に深夜の勤務であれば25%割増だが、残業が深夜におよぶ深夜残業では25%+25%の50%となる。
休日出勤では35%の割増。これは時間外手当とは重複しないが、深夜手当とは重複する。休日の深夜に働いた場合は基本給に60%(25%+35%)の割増となる。また、時間外労働が月に60時間を超えた場合、その超過部分は50%の割増となり、さらに賃金合計は高騰する。
(つづく)
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