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2019年08月23日 07:00

直面する人手不足と採用 解決のカギは健康経営(後)

東宝タクシー(株) 代表取締役社長 大野 慶太 氏

健康経営の成果は?

 タクシー運転手は、座る時間が長く、夜中にまとめて食べるなど不規則な食生活になりやすく、入社して半年から1年で体重が増えてしまうこともある。だが、毎日、出発する前に自分の体重を測ることで、食生活を気づかうようになる。健康に気を付けるようになることで、「体調が悪くならないように防ぐ」効果が少しずつ出ている。

 また食生活のサポートをすることで、血圧が高いと医者から言われている人が、血圧を下げられるように後押しできている。禁煙したいけれども、なかなか止められないと健康のことが気になっているができていないと感じる人の「背中を押す」こともできているという。

 同社が健康経営に取り組んでいるのは、事故を防ぐためでもある。タクシー運転手が「安全」のカギを握るためだ。だが、「健康」に関心のある人とない人のギャップが大きく、健康に関心がない人に興味をもってもらうことは今もなお課題だ。

 健康を害すると交通事故につながることから、「事故を防ぐ」ために健康管理に取り組んでいることを社員に伝えて、理解してもらえるように努めている。禁煙できた人の成功事例を掲示するなど、前向きに取り組んでいるが、人の意識を変えるのはすぐには難しい。時間をかけてじっくりと進めていくと大野氏は話す。

 健康のことは、禁煙でもそうだが、成功体験を共有するのが一番良い方法だという。たくさん歩いた人を表彰する、野球部の活動を積極的に支援するなど地道な取り組みを進めている。

働きたい人が集まる会社をつくる

 今のタクシー業界は、深刻な人手不足のため、タクシーを利用したい人が待っている場所に必要な台数を配車できていない。ニーズがあるのに満たせていない機会損失を解決するため、採用活動にも工夫を重ねている。

 そのためには、「この会社で働きたい」と思ってもらうことが大切だ。健康経営に取り組むことで、社員を大事にしているというメッセージを伝えることができる。会社がどのような経営をしているかという評判は人から人に伝わるものだ。だから、働きたい人が集まる会社がいい会社だと大野氏は話す。健康経営に前向きに取り組んでいることなど、企業としての考えを前面に出すことで、共感する人に働いてほしいと大野氏はいう。人あってのタクシーなので、このビジョンは揺らぐことはない。

その人ならではのサービスができる企業でありたい

代表取締役社長 大野 慶太 氏

 運転手が直接乗客とコミュニケーションをするのは、公共交通機関ではタクシーだけだと大野氏は話す。タクシーの運転手は顧客と話すため、乗る人の運命を変えることもあるという。ATMに行きたいという人の話を聞いて、振り込め詐欺を毎月のように防いでいたり、沖縄県浦添市の光タクシーの運転手は、自殺しようとした人の兆しを察知して防いだという事例もある。だから、これからの時代は、人を乗せて運ぶことから、人ならではの「コミュニケーション」や「地域インフラの活性化」に事業の軸を移していく。

 これから車の自動運転が広がっても、高齢者や障がい者の乗り降りを手助けする「介護タクシー」や子育て中の人や子どもの送り迎えをサポートする「子育てタクシー」など、人が役割を担うサービスを続けていきたいという。

 今のタクシー利用者は高齢者が多く、病院や買い物に行く時の手伝いや付添い、声かけなど、人だからこそできるサービスのニーズが高まってきている。これらのニーズを満たせるようにしたいと考えており、この意味でも、これからも健康経営の方針を変えることはない。そして、コミュニケーションのサービスをさらに広げるため、顧客の声などから今まで気付かなかったニーズを探っている。

 一方で、人と対面するタクシーのサービスを、付加価値のあるものとして差別化することはほとんどできていないのが現実だ。タクシー業界は国が運賃を定めていることや、タクシー運転手は運転だけが仕事という意識を、「人とコミュニケーションする仕事」に変えることも大きな課題だ。すぐに変えられることではないが、これから目指す方向性を見つめて、時間をかけて取り組んでいきたいと大野氏は話す。

(了)
【石井 ゆかり】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:大野 慶太
所在地:神奈川県横浜市鶴見区鶴見中央2-6-27
設 立:1953年6月
資本金:1,000万円
売上高:(18/3)7億8,600万円

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