2024年04月25日( 木 )

違法な客引きにご用心~同様の被害に遭わないためには

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 今月に入り、福岡市内の繁華街で飲食店従業員による違法な客引きが相次いだ。「客引き行為」「客の誘引行為」については、福岡県迷惑行為防止条例第5条にて違法行為として禁止されているが、条例の適用を受けるのは、風俗店やクラブ、キャバクラなどの、「性的好奇心をそそる行為を提供する店舗や、女性従業員による接待、酒類の提供がともなうもの」が一般的だ。しかし、ここ最近の逮捕・送検事例を見ると、通常、迷惑行為防止条例に該当しない、一般の飲食店従業員による客引きが偽計業務妨害による罪に問われている。

ケース1 福岡市中央区に住む自営業男性、偽計業務妨害の疑いで書類送検

 8月1日、福岡市中央区に住む自営業の男性(26)が、偽計業務妨害の疑いで福岡地検に書類送検された。送検容疑は7月9日午後10時59分ごろ、福岡市中央区天神2丁目付近の路上で、すでに某飲食店に来店予約していた客を自身が関係する飲食店に来店させようと画策。某飲食店に「人数が揃わないのでキャンセルします」などと嘘をついて予約を取り消し、某飲食店の業務を妨害したとされる。

ケース2 風俗案内所経営者、私服捜査員に客引きして逮捕

 8月23日、福岡市博多区に住む風俗案内所経営者・江田勝己容疑者(44)が、福岡県迷惑行為防止条例違反で現行犯逮捕された。逮捕容疑は8月23日午後8時35分頃、福岡市博多区中洲1丁目付近にある風俗案内所周辺の路上において、通行中の私服捜査員に対し、「お兄さんどうです?無料案内所です。ソープあります」などと申し向けて誘い、客引きをしたもの。

ケース3 福岡県内居住の大学生、偽計業務妨害の疑いで逮捕

 8月26日、福岡県内に居住の大学生・加木洸樹容疑者(21)が、偽計業務妨害の疑いで福岡県警に逮捕された。逮捕容疑は6月15日午後5時47分頃、福岡市博多区内の路上において某飲食店を利用しようとしていた客らに対し、「そこ(=某飲食店)はもういっぱいなんで予約しないと入れませんよ」などと嘘の事実を伝え、某飲食店の業務を妨害しようとしたもの。

ケース1、ケース3に共通するキーワード「偽計業務妨害」とは

 この2件に共通する「偽計業務妨害」という言葉は、刑法第233条によると、「虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損し、またはその業務を妨害する」行為のことを指す。有罪になった場合は3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処される。

 飲食店における「偽計業務妨害」については、大手飲食店のアルバイトが店舗内で撮影したいたずら動画をネット上に投稿、拡散させた際に適用されたことが記憶に新しい。この時はアルバイトによる迷惑行為により、店側は対応に追われた。

 今回のケースの場合は、他店舗側から見て「偽計業務妨害」に当たるとみなされており、ケース1の場合は、「わざわざ予約が決まっている店舗があるにもかかわらず客になりすまし、嘘をついて予約をキャンセル、自店に招き入れようとした」、ケース3では、「予約しなくても入れた(かもしれない)のに、予約しないと入れないなどと嘘をつき、自店に招き入れようとした」とされている。

違法な客引きを行わないために
その1「労使ともに今一度雇用条件の確認を」

 ケース3の大学生は警察の調べに対し、「お客を引いてこないと給料が出ないので、嘘を言ってでも引いてきたかった」という趣旨のコメントを発している。真偽のほどはさておき気になるのは、逮捕された大学生を雇っていた店舗側が、適正な雇用条件に則り、大学生を雇用していたのかという問題だ。「お客を引いてこないと給料が出ない」というのはどういう雇用形態だったのか。

 事業形態(法人・個人事業主)問わず、労働者を雇う時は書面(メールでも可能)による労働条件の明示が必要とされる。たとえアルバイトであっても労働基準法に違反する減給制裁はできず、会社都合による自由な解雇はできない。また、アルバイトが希望していないにもかかわらず、商品の購入を求めることや、備品を破損した際に弁償金を給与から天引きすることについては労働基準法に抵触するとしており、場合によっては労基による是正勧告を受けるとされている。

 近年は店舗側の雇用責任も問われている。飲食店に従事するすべての関係者は、今一度自店のルールと自らの業務に対する姿勢を見直してほしい。

違法な客引きに遭わないためにその2
「客引きに遭っても明確に意思表示し、その場で即決しない」

 違法な客引きに遭わないためにはどうすればよいのか―県警に取材したところ、「そもそも客引きにはついていかない」ことや、「あまりにもしつこい客引きや勧誘が続く場合は、最寄りの交番に通報すること」を対処法として挙げられた。

 一般の飲食店は県の迷惑行為防止条例の対象外であるため、単なる客引き行為、勧誘だけでよほどのことがない限り罪に問われるリスクは少ない。だからといって、そのままにしておくことは業界全体からみても有益とは言い難い。

 記者はかつて新宿歌舞伎町で飲食業に従事し、実際に客引き行為を双方経験したことがあるが、その経験から踏まえると、あまりにしつこい客引きや過剰な値引きで迫ってくる客引きはまず相手にしない(無視)。しかし、ここでさらに引き下がってくる客引きに対しては、明確に「要りません」と否定の意思を示すのが重要であると思っている。それでもなお引き下がってくる場合は強者だが、「明確に要りませんと伝えましたが、これ以上やったら、警察に通報しますよ?」と声をかければ、大概は離れていく。

 しかし、そうは言っても、ほろ酔い状態で2軒目3軒目を探している時に遭遇する客引きの「今なら安くしますよ」「今ならサービスしますよ」には、思わず引き寄せられてしまうもの。そして彼らも彼らで必死で招き入れようとその場で即決を迫ってくるのが常だ。では、この場合の対処法はというと、どんなに魅力的に感じたとしても、「ほかの店を見てから考えます」と、一呼吸置くようにしている。ほかにいいお店が見つかればそこに入ればよし、気になる店がほかになければまた立ち戻ればよし。さらにいえば、その日その時でなくとも、次の機会に立ち寄ればよし。

【長谷川 大輔】

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