2024年04月24日( 水 )

北九州市が目指すまちづくり 「災害に強い安心・安全な」とは?(後)

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北九州市副市長 今永 博 氏

民間と共同研究した防災アプリ「ハザードン」

 ――教訓を生かした新たな施策には、どのようなものがありますか。

 今永副市長 現在、とくに力を入れているのが、雨水幹線や貯留管の整備による雨水対策です。過去に浸水被害のあった若松区、戸畑区、小倉北区で現在実施しています。1カ所あたり約30億円の費用はかかりますが、やらざるを得ない事業です。

 河川の関係では、昨年溢水した17河川を対象に監視カメラ、水位計などを今年度から設置していきます。護岸の補修についても、市民への影響が大きい箇所については早急に工事を進めることにしています。河川の補修は、これまで事後対応となっていたのですが、今年3月に河川維持管理計画を策定したところですので、計画的にやっていくことにしています。

 都市高速については、新たに建設コンサルタンツ協会、福岡県地質調査業協会、福岡県建設業協会と災害協定を結び、緊急時に支援を受けることにしました。災害時には、やはり専門家の目が必要になります。職員だと、道路を開放してよいかどうかなどの判断ができないこともあります。今年も冠水した東篠崎アンダーパスの通行止めの基準を20cmから10cmに引き上げました。ここは、通行止めを表示しているのに、どうしても車が侵入してしまうのです。

 ソフト面では、避難情報などの発令のやり方を見直しました。これまではまずレッドゾーンに発令し、大雨特別警報発表後、イエローゾーンにも発令していましたが、最初から両ゾーンに発令することにしました。昨年9月からLINEでの避難情報の提供も始めているほか、防災アプリ「ハザードン」を民間企業と共同研究し、今年5月から提供しています。

防災アプリ「ハザードン」
防災アプリ「ハザードン」
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斜面地住宅を30年スパンで無居住化

 ――いわゆる“逆線引き”の狙い、進捗についてお願いします。

 今永副市長 北九州市の特徴として、斜面地の住宅が多いことが挙げられます。宅地造成の基準が定まる以前の古い住宅も少なくありません。そういう住宅は、常に土砂災害の危険と隣り合わせです。斜面地住宅の空き家も増えています。

 それは、北九州市が工場のまちであることと深く関係しています。戦後、洞海湾沿いに立地した工場で働く人々が持ち家を建てようとしたとき、近くの斜面地が都合が良かった。それでだんだん住宅が増えていって、車が通れないような場所にも家が建ったのです。その後、鉄道が整備され、車が普及すると、郊外に家を建てるようになった。そういう経緯で、斜面地には、50年以上経過した古い住宅が多いのです。

 現在、都市計画審議会のなかに専門小委員会を設置し、市街化区域と市街化調整区域との区分(区域区分)の見直しについて検討を行っています。本市では、03年に都市計画マスタープランを策定しましたが、すでに人口が減少しており、「まちなか」という言葉を使って、コンパクトシティづくりに向けた基本方針を定めました。これを基に、立地適正化計画を策定し、居住誘導区域、都市機能誘導区域などを定めたわけです。

 しかし、豪雨により、407カ所ものガケ崩れが発生しました。安心・安全という観点から、「もう一度考えるべきじゃないか」ということになりました。「斜面地をどうするんだ」という話は、豪雨被害の前から出ていたこともあって、区域区分を見直すことにしました。今年10月に基本方針をとりまとめ、12月以降に具体的な候補地を決めて、住民説明会を行う予定です。住民の合意が得られた地域から、区域区分を見直していきます。多少、住民の権利の制限になるので、丁寧な説明が必要になります。今年1月には、斜面地住宅の住民1,000名を対象に、居住実態などに関するアンケートを行ったところです。なかには、「住み続けたい」という方もいらっしゃいます。

 今回の見直しによって、すぐに住民に移転していただくということではありません。30年スパンと長期的な視点で進めていくことになります。

土砂崩れ箇所(2018年)
土砂崩れ箇所(2018年)
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 ――画期的な取り組みですね。

 今永副市長 そうですね。国土交通省からも「よく頑張るねえ」と言われています(笑)。居住地域の逆線引きは前例がありませんので、かなりハードルが高いという認識があるのでしょう。

安心・安全は「当たり前」という市民感覚

 ――インフラの防災効果のPRについて、どのようにお考えですか。

 今永副市長 紫川では、1990年度から川幅を広げるなどの工事を行う「マイタウン・マイリバー整備事業」を進めているほか、2015年度からは河床を掘り下げる工事などを行う「小倉都心部浸水対策推進プラン」に取りかかっています。これらの取り組みによって、治水のレベルは相当程度上がっており、実際、昨年の豪雨の際にも、かなり水位は上がりましたが、溢水を免れました。ただ、地元の皆さまには、インフラ整備によって、安心・安全が守られたという認識は薄いところがあるように思います。

 小倉南区には、福岡県が管理する「ます渕ダム」があります。09年、10年の豪雨で浸水被害が出たことを受け、管理者の福岡県、水利権者の北九州市上下水道局と協議して、浸水対策が完了するまでの5年間、梅雨前にダムの水位を下げるという弾力的な運用を行いました。ところが、多くの市民の方々はご存知ではありません。

 昨年の豪雨でも、若松区の桜町北湊地区に完成した雨水貯留管を供用したことにより、雨水のピーク流出量を抑えることができ、この地域では浸水被害を免れました。さまざまなインフラによって、安心・安全が守られたという事実は、市としてその都度情報を出しているのですが、もっと事業効果をPRすべきかもしれません。どういう方法でPRするのかも含めて、しっかり考えていく必要があります。

(つづく)
【大石 恭正】

<プロフィール>
大石 恭正(おおいし・やすまさ)

立教大学法学部を卒業後、業界紙記者などを経て、フリーランス・ライターとして活動中。1974年高知県生まれ。
Email:duabmira54@gmail.com

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