2024年04月25日( 木 )

民意の付託を受けた議会として再配分機能を充実させる(4)

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第69代福岡県議会 議長 栗原 渉 氏

地方自治として何ができるのか

 ――小川県政と県議会との関係だけでなく、福岡県全体の課題を解決しなければなりませんね。防災につぐ課題として取り組む政策課題にはどのようなものがありますか。

 栗原 外国人労働者の問題は、人口減少社会に入ってそれをどう手当てするかという、いわば苦肉の策です。日本は移民政策をとらないというのが大前提で、研修生制度をつくって発展的に実施しています。

 福岡県としての課題を考えれば、今後人口が減るのは間違いありませんので、人口が減るという前提のもとですべての政策を俯瞰し、再配分機能をどうやって維持するのか。そのなかには社会保障も入っていますし、防災、教育施策などすべてが入っている。県内生産量を維持するためにどうするのかを考えたときに、たとえば人口が半減するならば「1人あたりの生産性を倍にすればいい」という単純な話にはなりません。

 多方面で技術革新が進んでいますので、農業分野でも「スマート農業」などがいわれるようになりましたが、こういった試みをそれぞれの分野で実践できるかどうかが肝になってくると思います。そうすれば教育や人の尊厳を守るための社会保障の部分に回すお金が生まれます。国の方針を待つだけではなく地方自治として今後なにができるのか考える時期だと思います。

 藏内勇夫会長が引っ張っていらっしゃる「九州の自立を考える会」は広域行政を課題としていますが、これまで国が地方分権でやってきたことの主たるものは権限の委譲で、財源については交付税措置です。そこをどうするのか、今後はそこに焦点があたると思います。

 道州制のようなかつて話題になったようなことが良いのか悪いのかはわかりませんが、仮にガバナンス(統治方法)として見直すべきところが出てきているならば、あとはどう実行するのかということでしょう。地方分権は徴税権まで委譲しないと、本当の意味で「分権」とはなりません。それが都道府県合併になるのか道州制になるのかはわかりませんが、再配分の機能として現在のかたちのままでいくならば「何も変わらず仕事だけ増える」ということになるでしょうね。

 ――最後に、社会を騒がせるような事件が起きていますが、どういったことに原因があるのでしょう。

 栗原 仕事柄、企業の総務分野の方々とおつきあいさせていただくことが多いのですが、人材採用についての「ぼやき」に似た話を聞くことがあります。

 たとえば、ある学生を優秀だと判断して採用して課題を与えた。その結果に対して上司や同僚が意見すると、「自分は一生懸命やったのに、文句を言われた」と反発して辞める人がいるらしいのです。私見ですが、個人の評価というものは絶対評価ではなく相対評価が基本だと思います。一生懸命がんばったとしてもその評価は相手によって違ってくるのは当然ですよね。

 客観的に自分を見られないというか、相対的に物事を見ることを学ばずに社会に出る方が増えてきているのかもしれません。その原因が教育なのか、家庭での育て方の問題なのかはわかりませんが、客観的に自分を見られない者ばかりになってしまって、人口も減るなかで社会がこのままもつのかという漠とした不安感はあります。決して「耐える力をつけろ」ということではないけれども、世の中には理不尽なことがあることもたしかで、そこを消化できない人が増えてきているのでしょうか。

 個人主義も理解できますが、誰しもが生活するなかで公のサービスを受けており、1人だけで生きることはできません。たとえば行政や政治のことは自分たちには関係ないと、受益者である認識が極めて希薄になっているのも実感するところです。日本人の勤勉さはそれほど失われていないと思いますが、もっと外に目を向けて広く社会に関心をもつことが必要になってくるのではないでしょうか。

(了)

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