2024年03月28日( 木 )

「食べものが劣化する日本」の打開は給食の有機無償化から、安田節子氏が講演

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食の安全基準緩和を告発する安田氏
(2019.11.3筆者撮影)

 安田節子著『食べものが劣化する日本—命をつむぐ種子と安全な食を次世代へー』(食べもの通信社)の出版記念講演会が3日、東京・飯田橋の東京仕事センター講堂で開かれ、遺伝子組み換え(GM)食品や農薬、輸入肉の殺菌剤などの危険性を解説するとともに、打開策として従米政策からの脱却と有機無償の学校給食の導入を訴えた。

 冒頭、主催者を代表して、食べもの通信社の千賀ひろみ専務取締役があいさつ。自由貿易化を背景に劣化した食物が急激に増えていることに危機感をもったことが安田氏の執筆動機であることを明かし、「きょうはご著書で触れられなかった新しい動きや問題点などもお話しいただけるということで楽しみにしている」と安田氏を紹介した。

 安田氏は消費者運動に長年携わり、食の安全を求めてきた。1990年から日本消費者連盟で食の安全や食糧農業問題を担当するなかで、市民団体「遺伝子組み換え食品いらない! キャンペーン」を立ち上げ、事務局長を務めた。2000年に「食政策センタービジョン21」を設立。食の安全情報を発信してきた。

 講演の概要は次の通り。

 日本の食の安全は世界一だと思う向きがあるが、1990年代からおかしくなっている。欧州をはじめとする世界各国が食料自給率を高めるなか、輸出市場を失った米国がGATT(関税と貿易に関する一般協定)体制のなかで日本を標的にしてきた。

 自由貿易協定で日本の厳しい基準を米国基準や国際規格(コーデックス規格)に合わせていく。日本の食品添加物は1972年時点で656品目(米国の定義)なのに対し、米国は約1600品目。この差を埋めようとしている。

 2003年にBSE(いわゆる狂牛病)が起きたとき、日本では全頭検査で対応していたが、米国から圧力がかかり、今年5月にBSE規制は全廃された。米国産牛肉の輸入関税は38.5%だが、TPP(環太平洋経済連携協定)で合意した最終税率9%が日米貿易協議で前倒しで適用される可能性がある。

 米国産牛肉には、日本の140倍のエストロゲンが残留している。成長促進剤として使われているためだが、生殖系統のがんの危険因子である。日本は使用を禁じているが、検疫はデータ蓄積を目的とした抜き取りによるモニタリング検査のため、国内で出回っている可能性が高い。

 ポストハーベスト(収穫後)農薬は日本で禁じられているが、1991年の牛肉・オレンジ自由化から米国の圧力で食品添加物として認められた。殺菌剤アゾキシストロビンの残留基準値は2013年に大幅に改定され、レモンやグレープフルーツなどでは2ppmから10ppmに引き上げられた。米国で9.812ppmの数値が出たからである。

 日本は世界一のGM作物の輸入国で、食卓に上るトウモロコシの73.6%、大豆の84.3%、ナタネの89.1%を占める。米中貿易戦争で中国に売れない275万トンも日本が肩代わりすることを決めた。TPPを受けGM農産物の認可数は急拡大し、世界一。2018年1月時点で309品種と、米国の197品目を上回る。

 カナダ、シャーブルック医科大学の調査では93%の妊婦から、そして80%の女性の臍帯血(さいたいけつ)からGM由来の殺虫毒素が検出されている。

 ゲノム編集技術は「クリスパー・キャス9」などのキットを使い、もともともっていた遺伝子を壊すことで、これまでにない性質をつくり出す。筋肉質の牛(ベルギー)や太ったマダイ(日本)、ミニブタ(中国)などが開発されているが、安全性評価はされておらず、統一された評価法もない。

 ニュージーランドやドイツなどはGMと同等の規制を行うと決めたが、米国が2018年3月に規制しない方針を発表すると、安倍内閣は同年6月に「統合イノベーション戦略」を閣議決定し、ゲノム編集を成長戦略のど真ん中に据えた。消費者庁は「表示の義務化は困難」と発表している。

 GM作物に残留するグリホサードは除草剤、ラウンドアップの主成分で、がんや出生異常、脂肪肝などを引き起こすことが世界中の調査・研究で明らかにされている。世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)は2015年、「人に対して恐らく発がん性がある」2Aに指定した。

熱心に話を聞く参加者(2019.11.3筆者撮影)

 世界でグリホサードを規制する動きが進んでいるが、日本だけ残留基準を緩めている。北米では収穫作業を容易にするため、収穫前にラウンドアップを散布するからだ。2017年には小麦を5ppmから30ppmへ6倍に改定した。同年、米国産小麦の97%、カナダ産小麦の100%からグリホサードが検出されている。

 カメムシ退治に多く使われるネオニコチノイド系農薬は、神経系統を破壊することで昆虫を殺す。使用量の増加とともに子どもの発達障害が増えていて関係が指摘されている。

 日本のネオ二コ農薬の残留基準は緩く、イチゴはEUの60倍の3ppm、茶葉は600倍の30ppm。日欧EPAで農水省は「日本の優良な果物やお茶を輸出できる」と言ったが、買うわけがない。

 暗いことばかり述べたので、希望のある話をする。有機の食事が有害物質を体外に排出することが明らかになっている。NPO福島県有機農業ネットワークの長谷川浩氏らの調査では、有機食材を1カ月摂取したところ、尿中のネオニコチノイド系農薬6種の値が94%減った。米国の大規模調査では全有機食を6日間食べたら、平均60.5%低下したとの報告もある。

 日本の有機農業面積はわずか0.4%。有機農業への転換には有機給食が有効だ。仏・パリ市は2020年まで学校給食の50%に有機食材を使う目標を掲げ、韓国・ソウル市は2021年からすべての小・中・高校で有機無償化を決めた。

 米国の企業利益のために日本人の命を差し出す対米政策をやめ、自治体に有機無償の学校給食条例を制定させる運動を提起したい。

<プロフィール>
高橋 清隆(たかはし・きよたか)  

 1964年新潟県生まれ。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)、『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)、『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)。ブログ『高橋清隆の文書館』。

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