2024年04月20日( 土 )

「サブ空港」が最善 北九州空港が採るべき戦略

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マルチエアポート化

 福岡県は、福岡空港と北九州空港の「マルチエアポート化」を将来構想として視野に入れている。両空港を同一空港として運用するもので、どちらかの航空券があれば、利用者は両空港で乗降できる。日本では東京(成田、羽田)、名古屋(中部、名古屋)、大阪(関西、伊丹、神戸)が国際航空運送協会(IATA)から公認されており、まさに相互補完、一体運用を実現する仕組みだが、課題もある。

 たとえば、同じ羽田便でも、施設使用料100円分、北九州空港より福岡空港のほうが安いなど、施設使用料の統一が必要だ。さらに、運賃を変更する場合、各航空会社の航空券販売システムも変更する必要がある。IATAの制度上、両空港を同一エリア扱いとするためには、国際線に就航している過半数の航空会社の了解が必要になるが、福岡空港で就航する国際便は、1社を除いて海外の航空会社で多数を得るのは容易ではなく、マルチエアポート化は研究段階にとどまっているのが現状だ。

軌道アクセスには温度差も

 福岡県は、北九州市などと同じく、大型貨物便の誘致のためには、滑走路の3,000mへの延長が必要だという立場だ。「2,500mでは厳しい」(県の担当者)という。山口県内の企業には、特殊貨物の需要があるものの、成田空港や中部空港に陸送するなど、「成田や中部に貨物をとられている」(同)のが現状だ。

 苅田町には自動車関連産業など工業の集積があるが、「航空貨物として運べる商材は町内には意外と少ない」(苅田町担当者)という。「24時間運用可能という特徴を生かした深夜発着の国際貨物定期便があり、エリアを九州、さらには西日本地域に拡げ、航空貨物に適した商材、需要を開拓する必要がある」(同)と指摘する。

 北九州空港は海上空港のため、貨物船などの着岸が可能だ。過去には、空輸された人工衛星を空港で船に載せ替え、種子島まで運んだ実績がある。ただ、年間数回利用があるかどうかの臨時便のため、ビジネスベースでは考えにくく、あくまでオプションにとどまる。とはいえ、「空輸&海上輸送」はほかの空港にはない、北九州空港の強みの1つにはなる。

 軌道アクセスに関する福岡県の立場は、北九州市より慎重だ。「新北九州空港軌道系アクセス検討委員会」が2006年に公表した「450 万人以上」が事業採算性ラインとする、検討結果を前提としている。北九州市は、200万人に達すれば「軌道アクセスに関する検討を再開する」としているが、県は「コメントする立場にない」というスタンスだ。多くの航空会社は空港への軌道アクセスを希望するが、軌道整備は初期投資が大きいため、採算性にはシビアにならざるを得ない面がある。

 苅田町担当者は「軌道アクセスは小倉駅方面とのアクセス改善が中心であり、苅田町としてはコメントしづらい」といい、「北九州空港をどのように活用していくかという議論がまず先にあり、空港とどこを結ぶのか、それは新幹線なのか在来線なのかということをまずは整理する必要がある」と指摘する。ただ、昨年の関西空港や周防大島において橋梁に船舶が衝突した事故の教訓を踏まえた危機管理やリダンダンシーの観点から、道路橋1本に頼る現状のアクセス方法について検討するのは、必要なことだという。

FIACは利活用を支援

 今年4月から福岡空港の運営を受託している福岡国際空港(株)(FIAC)は、中期事業計画(19~23年度)のなかで、「福岡県の空港の将来構想実現への協力」を掲げている。協力する内容は、(1)北九州空港への「エアライン(航空会社)誘致」、(2)北九州空港と一体となった「プロモーション活動の推進」、(3)北九州空港への「貨物の誘導やハンドリング支援」の3つから成る。

 (1)について : 混雑空港指定の福岡空港は、発着枠の新たな取得は現状では難しい。利用時間制限もあり、早朝深夜便は就航できないのが現状だ。FIACでは、新たに希望する発着枠を取得できないエアラインに対し、北九州空港への就航をPRすることにしている。これは福岡県の空港の将来構想に盛り込まれた内容と一致する。これには、北九州空港と福岡都市圏のアクセス強化が必要になる。同社は西日本鉄道(株)と協働し、西鉄バス北九州(株)中谷営業所へのバス乗継拠点整備(20年度完成予定)を進めている。「福岡、九州の需要をしっかり取り込み、交流人口を拡大し、地域活性化につなげていきたい」(同社担当者)としている。

 (2)について : 北九州空港や関係自治体と連携し、国際航空路の商談会であるルート会議などを通じて、福岡・九州のプロモーション活動や福岡都市圏とのアクセス充実をPRしていく。「都市部に近い福岡空港」「24時間運用可能な北九州空港」という強みなどをPRすることにより、「福岡・九州の魅力を体感できる機会の創出にもつながる」(FIAC)とする。

 (3)について : 福岡空港では今後、国際旅客便の誘致に力を入れることになるが、増便により貨物量の増加も見込まれる。貨物施設容量を超える事態が生じた場合は、北九州空港に誘導していく考えだ。「北九州空港の貨物拠点化に向けた支援に取り組みたい」(同)としている。

福岡県の空港の将来構想イメージ図
※クリックで拡大

現実的には「サブ空港」

 「福岡空港は、エアラインの就航需要は旺盛だが、北九州空港は国際的には知名度が低く、新規就航やその後の路線定着のための支援が必要だ」――。ある県担当者の言葉だ。

 福岡空港と北九州空港では、そもそも空港の規模が違う。福岡空港の利用者数は年間約2,400万人、かたや北九州空港は約170万人。実に14倍以上の差がある。規模だけ比べれば、完全にメインとサブだ。「世界的に見れば、人口集積地に複数の空港が存在して役割分担をしている例は珍しくない」(苅田町担当者)という指摘もあるが、北九州空港関係者にとって、福岡空港のサブ扱いは面白くないだろう。だからこそ、その壁を乗り越えることが北九州空港利用のブレイクスルーになるのだ。

 北九州空港は、単なる地方空港から脱却し、福岡空港の「サブ空港」としての道へ、胸を張って進むべきだ。サブ空港は、決してネガティブな道ではない。空港ネットワークの視点から見れば、福岡空港の隣に立地することは、ほかの地方空港にはない強みだ。北九州空港単独の機能拡充などを議論する場合には、「サブ空港としてどういう役割を担うか」という視点が不可欠だろう。福岡空港と競合しても勝ち目はない以上、最も現実的で戦略的なアプローチだと思われる。

【大石 恭正】

三菱重工業などでは、現在開発中の三菱スペースジェット(MSJ、旧名称MRJ)の量産機の試験飛行、駐機のサブ拠点として、北九州空港を位置づけている。すでに格納庫などは完成しているが、本体開発の遅れなどから、まだ実際に運用されていない。「MSJの拠点運用が始まれば、地元産業などへの波及効果は大きい」(苅田町担当者)と期待を寄せる。ただ、MSJの開発が遅れるなか、空港島の未利用地は「現状のまま動向を見守るしかない」(同)というジレンマがある。

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