九州新幹線 西九州ルートは誰のものか?(前)
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2019年12月02日 07:00

九州新幹線 西九州ルートは誰のものか?(前)

 九州新幹線(西九州ルート)フル規格化をめぐり、佐賀県と国、長崎県などとの対立が続いている。西九州ルートの建設計画が決まったのは45年以上も前だが、いまだに新線のあり方で揉めているのはなぜか。そもそも新幹線整備の意味とは何か。佐賀県、長崎県などへの取材を通して、考察してみた。

博多止まりの暫定整備計画

 博多と長崎を結ぶ「新幹線整備計画」の決定は1973年11月。当初のルートは「博多~筑紫平野(新鳥栖)~佐賀市付近~長崎」だった。85年1月、当時の国鉄が、博多から早岐(佐世保市)を経由して長崎に至るルートに、フル規格で整備する計画を示した。

 ところが、87年4月に国鉄が分割民営化。事業を承継したJR九州は同年、採算性が取れないことなどを理由に、早岐経由ルートに難色を示す。92年2月には、肥前山口~諫早の経営分離を前提とした「スーパー特急方式(※1)」による短絡ルート(武雄温泉~嬉野温泉経由)の収支試算結果を公表した。

 長崎県では県北地域の苦汁の決断を経て、地元案として短絡ルートを合意し、92年11月、博多~武雄温泉は在来線を活用し、武雄温泉~長崎をスーパー特急新線で整備することにより、国、JR、沿線自治体が合意。2002年1月にスーパー特急方式による武雄温泉~長崎の工事実施の認可申請が行われた。スーパー特急方式は狭軌で、新幹線の標準軌は走行できない。この段階では、新線は山陽新幹線軌道には乗り入れることはなく、あくまで博多止まりの暫定整備計画として決定された。

※1:路盤やトンネル、高架橋などはフル規格で整備するが、軌道は在来線と同じ狭軌で整備し、在来線に乗り入れができる車両を走らせる方式

鍵だったFGT技術

 ここで「並行在来線問題」が浮上する。並行在来線とは、新幹線と並行して運行する在来線を指す。新幹線と在来線の同時運行は、営業するJRにとって負担が大きいため、JRは通常、沿線すべての自治体の同意を得て、新幹線開業の際、第三セクターなどに経営分離させる。「儲からない路線」として経営分離された路線は、経営が悪化するケースが多い。

 並行在来線の経営分離に対しては、当初佐賀県などは難色を示していた。経営分離による沿線自治体の負担増、利便性の低下を懸念したからだ。その後、JR九州から肥前山口~肥前鹿島の上下分離方式による運行の提案のほか、長崎県から費用負担の提案などがなされた。佐賀県は04年12月、「経営分離はやむを得ない」と判断し、事実上の同意表明に踏み切った。ただ、この時点では沿線すべての自治体が同意していたわけではなく、佐賀県にとって、苦渋の決断だったことは想像に難くない。

 佐賀県の同意表明を受けて、政府・与党は「並行在来線の運営のあり方については、長崎県の協力を得ながら佐賀県において検討する。調整が整った場合には着工する。その際、軌間可変電車方式(FGT)による整備を目指す」との申し合わせを行う。FGTとは、軌間可変機能を備え、幅の異なる軌道間を直通できる鉄道車両を指す。FGTが実用化できれば、最高速度は時速260km以上に達し、新大阪駅直通も実現できる。FGTは、地元合意を得るためのカギとなる技術だった。

 佐賀県、長崎県、JR九州は07年12月、経営分離ではなく、上下分離方式による鉄道運行に関する基本合意に至った。上下分離方式とは、上部(運行)と下部(鉄道施設)の経営を分離する形態を指す。合意内容は次の2点。

(1)JR九州は、肥前山口~諫早間全区間を経営分離せず、上下分離方式(駅舎、線路などは佐賀県、長崎県が所有)により運行することとし、開業後20年間運行を維持する。

(2)JR九州は、(中略)新幹線開業までに肥前山口~諫早間の線路等の設備の修繕を集中的に行ったうえで、佐賀県・長崎県に有償で資産譲渡を行う。資産譲渡の対価(14億円)は、佐賀県・長崎県がJR九州に一括して支払う。

 経営分離から上下分離への転換は、新幹線開業後も、引き続きJR九州が運営主体として運行に関与することを意味する。

 この合意のもと、08年3月に武雄温泉~諫早の着工認可。12年6月に武雄温泉~長崎の着工認可が下りる。紆余曲折の末、ついに並行在来線問題に一応の決着がついたわけだ。上下分離による鉄道施設の資産譲渡対価、維持管理の費用負担(14億円+2.3億円×20年間)は、長崎県が佐賀県の倍額を負担(路線延長は長崎県1に対し、佐賀県1.64と長い)することも決まった。

対面乗換で6者合意

与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム九州新幹線(西九州ルート)検討委員会に提出された長崎県資料より
与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム九州新幹線(西九州ルート)検討委員会に提出された長崎県資料より
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 16年3月、関係6者(※2)による新幹線開業のあり方に関する合意がなされた。そのポイントは次の通り。

(1)「2022年度に武雄温泉~長崎間にフル規格車両を投入する」「博多~武雄温泉を走行する在来線特急と武雄温泉駅で乗り換えを行うことにより開業する」「その際、対面乗換方式を前提に武雄温泉駅を整備する」。

(2)対面乗換方式に必要な施設(約70億円)については、整備新幹線スキームで整備する。

 対面乗換方式の合意は、FGTの車両製造に要する期間を考えると、22年度の開業に間に合わない恐れがあったからだ。長崎県は新駅設置に合わせて新たなまちづくりが進んでいたため、「22年度開業は遵守してもらいたい」(長崎県担当者)という思いから、対面乗換方式に同意したという面がある。

 これにともない、同年5月に3者合意の内容が一部変更された。上下分離方式について、「武雄温泉~長崎間の開業後23年間運行を維持する」に変更されたほか、資産譲渡については「有償」から「無償」に変更された。

※2:与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム九州新幹線(西九州ルート)検討委員会委員長、佐賀県知事、長崎県知事、JR九州社長、鉄道建設・運輸施設整備支援機構理事長、国土交通省鉄道局長の6者

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(つづく)
【大石 恭正】

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