九州新幹線 西九州ルートは誰のものか?(中)
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2019年12月03日 07:00

九州新幹線 西九州ルートは誰のものか?(中)

FGT導入を断念

 FGTの性能確認試験が始まったのは、14年4月。耐久走行試験は同年10月に開始されたが、同年12月、早々と一時休止になった。時速260km以上で走行実験した際、車軸の摩耗、軸受オイルシールの欠損などの不具合が発生したためだ。その後も不具合は解決せず、JR九州からは、FGTのコストの高さ(一般新幹線に比べ約2.3倍、国土交通省軌間可変技術評価委員会資料より)も理由に、FGTによる運営は困難と表明した。

 これを受けて、与党検討委員会はFGT、フル規格、ミニ新幹線の比較検討を開始。比較検討結果や関係者へのヒアリングを踏まえ、18年7月、FGT導入を正式に見送った。その理由として、FGTの場合、「最高速度は時速270kmにとどまり、新大阪駅への直通ができない」などと説明。代替方式として、フル規格またはミニ新幹線を挙げ、改めて検討することとなった。FGTの実験は正式に中止されたわけではないが、現在は新幹線でなく在来線での活用を検討されている。

 一般論として、技術開発実験において不具合が発生しても、改良のため引き続き実験を行うのがスジ。早々に実用化を断念するのは奇妙だ。さらに、そもそも実用化のメドが立たない技術を前提に、新幹線整備を進めていたのも不可解だ。いずれにせよ、FGTというカギを捨てたことによって、当事者間の歯車が狂ったことは間違いない。

 佐賀県担当者は「今でもFGTは選択肢の1つ。これまでスーパー特急、FGT、リレー方式については合意し、費用も支払ってきている」と明かす。「そもそもFGTの開発目標は時速270kmであり、当時から山陽新幹線の高速化が進んでいたことや、メンテナンス費用がかかることは、もともとわかっていたこと。それらを開発断念の理由として持ち出すこと自体に違和感がある」とも続けた。

 一方、長崎県は山陽新幹線への直通運行が前提であったFGTの開発が順調に進まず、JR九州もFGTによる運営が困難と表明したことから、新鳥栖~長崎のフル規格での整備を求め始めた。「西九州地域の発展のためには、新大阪まで直通でき、整備効果が高いフル規格しかない」と考えたからだ。長崎県にとっては、6者が合意した対面乗換方式は、22年度開業に間に合わせるため、FGT導入までの「あくまで暫定的な方式に過ぎない」(長崎県担当者)という考えだ。鹿児島ルートが部分開業(新八代〜鹿児島中央)した際には、全面開業までの暫定措置として、在来線特急との対面乗換での運用がなされた。

 「対面乗換はあくまで暫定。これは当時も今も変わらない」(長崎県担当者)という。「西九州ルートをきちんと全国ネットワークにつなぐ。これが新幹線のあるべき姿。国交省の試算でもフル規格の整備効果は最も高く、ほかの新幹線と比べても高い効果を示している。新幹線の真の姿(フル規格)をこれから実現していかなければならない」(同)と力を込める。

 現在整備が進む対面乗換方式は、佐賀県にとっては「歩み寄れるギリギリの線」だが、長崎県にとっては「新大阪直通までの暫定措置」。与党や国交省も長崎県と同じ立場だ。与党はご丁寧にも「対面乗換が恒久化することがあってはならない」とクギを指している。

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15分時短の負担660億円

 与党検討委員会は今年8月、国交省の比較検討や関係者のヒアリングを踏まえ、新鳥栖~武雄温泉についてもフル規格で整備することが適当であるとの方針を決めた。国交省、長崎県もフル規格に向けて動いている。

 一方、佐賀県は「合意した内容と違うまったく別の方向に動いている」と指摘する。「佐賀県が負担を受け入れれば、すべての問題が解決するかのような議論だ。ゴールポストが動いている」と不信感を隠さないほか、「FGTを断念するのであれば、その前に合意したスーパー特急方式に戻るのがスジではないか」とも主張する。佐賀県にとって、フル規格の動きは、これまでの経緯を無視した「合意なき決定」に過ぎないようだ。

 では、佐賀県はどうしたいのか。「西九州ルート(新鳥栖〜武雄温泉)の整備は在来線の利活用が大前提」(県の担当者)と力を込める。「高額な地元負担」と「在来線の利便性」などを理由に、「フル規格での整備は受け入れられない」という姿勢を崩していない。長崎県などとの話し合いには扉を開いているとしているが、何か新しい提案もなく、「フル規格ありき」の話し合いに乗るつもりはないようだ。

 ただ、「新幹線整備を一切認めないということではない」ともいう。「これまで長い時間をかけて積み上げてきた話であって、短期間で方向性を決められるものではない。じっくり時間をかけて議論する必要がある」という構えだ。「新幹線整備については、これまでのさまざまな経緯や佐賀県を二分するような議論を経ており、長崎県のことも考えてギリギリの選択をし、これまで合意したことはすべて守ってきた」という積年の思いがあるからだ。

 長崎県は、「佐賀県の新幹線区間だとしても、新幹線はネットワークでつなぐことに意味があり、長崎県にとっても重要」という。「佐賀県は『いろいろな課題が横たわっている』というが、具体的にどういう課題なのか。まずはその課題の内容を聞かせてほしい。対応を一緒に考えたい。新幹線は自分たちが乗るためだけではない。むしろ、関西地方や中国地方などからお客さんを乗せてやって来ることに価値がある」と力を込める。ただ、それが佐賀県にとって、「新たな提案」として映るかは不透明だ。

 一方、在来線の利便性については、「新鳥栖~武雄温泉については、長崎県も重要な路線であると考えている。両県足並みをそろえて、JR九州などへの要望活動を行っていきたい」と話す。与党は、国交省、JR九州、長崎県、佐賀県の4者による協議を求めているが、佐賀県はフル規格ありきの議論への参加には消極的だ。

 佐賀県には「新幹線を整備しても、メリットは少ない」という認識がある。その理由の1つが、時間短縮効果の小ささだ。既存の在来線特急かもめは佐賀~博多を35分(国土交通資料)で結ぶ。新幹線による時短効果は15分程度だ。「わずか15分の時短のために、660億円も負担する意味があるのか」というわけだ。

 利便性の低下も大きな懸念材料だ。たとえば、肥前山口~肥前鹿島では現在、1日約50本の特急列車が走っているが、上下分離されると、1日10~14本に減る。西九州ルート開通にともない、在来線の本数がどうなるかは不明だが、鹿児島ルートなどを見ても、新幹線開通により在来線が「不便になっている実情がある」以上、博多~佐賀の特急の本数が減り、利便性が失われることへの不安は拭えない。「県南西部の方々には、涙を呑んで受け入れてもらった」(佐賀県)経緯もある。

(つづく)
【大石 恭正】

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