九州新幹線 西九州ルートは誰のものか?(後)
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「最適解」は広い範囲で
新幹線整備に関する著書も出している京都大学大学院の藤井聡教授は、西九州ルートをめぐる問題をこう分析する。
「国益的観点からいって、全区間フル規格で整備すべきだ。佐賀県がフル規格に反対するのは、博多駅へのアクセシビリティが少し便利になるだけなのに、コストが高過ぎると考えているからだが、それは間違い。新大阪駅へのアクセシビリティを考慮すると、コストを上回る巨大な利益が存在している」。
さらにこう付け加える。
「佐賀県は今、ローカルミニマム(局所最適解)にとどまっていて、グローバルミニマム(全域的最適解)に到達していない。公益というものは、狭い範囲で最適解を探すのと、広い範囲で最適解を探すのとでは、答えがまったく違ってくる。西九州ルート問題に対して、この概念が適用された形跡がほとんどないのは問題だ。土木計画学でいう『非線形計画問題』の典型だ」。
要するに「佐賀県は視野が狭い」という指摘だ。
しかし、新大阪駅まで直通で行けるメリットについて佐賀県は否定的だ。「現状でも、新鳥栖駅まで出れば、新大阪駅まで直通で行ける」からだ。佐賀駅から新鳥栖までは在来線特急を使えば12分程度。「現在の新幹線整備は、地域振興が主な目的となっている。だから地元負担が求められる。だが佐賀県は、そもそも新幹線を求めていない」(佐賀県担当者)と譲らない。
博多~長崎の最速所要時間は、現行の在来線特急で約1時間48分かかるが、対面乗換方式になれば約28分短縮される。長崎県担当者は「相応の時短効果がある」と受け止めている。ただ、長崎県民の認知度が低い課題がある。開業時期すら知らない県民は少なくないという。「博多に28分早く行ける」からといって、現状では直通ですらないし、とくに感動もないということかもしれない。
この点、「我々の広報不足」(長崎県担当者)と自戒するが、時短効果が約28分では、インパクトに乏しいのもムリはない。新鳥栖~武雄温泉のフル規格化が実現すれば、半分程度の約51分に短縮される。新大阪~長崎も直通で約3時間15分で結ばれる。県民にメリットを説くには、やはり「フル規格がわかりやすい」のは明らかだ。
佐賀県にとって、フル規格の新幹線開業による最悪のシナリオはおそらくこうだ―660億円を負担し新幹線を整備したが、在来線の本数は減少し、さらには博多駅まで今までより高い料金を払って、新幹線を利用せざるを得なくなる。時短効果はわずか15分程度で、佐賀駅からしか利用できず、在来線特急に比べ、本数は大幅に減る。通勤通学は不便になっただけ。関西、中国方面からの長崎方面への観光客は増えたが、大半の目当ては長崎観光。長崎へ行き来する人は増えたが、佐賀は素通りされ、埋没。経済、観光は浮揚しないどころか、長崎との格差が開く一方。県勢の低迷は目も当てられない状況で、巨額の借金だけ残る。
こうなると、佐賀県にとって、新幹線整備はデメリットでしかない。佐賀県の言い分はもっともだと言わざるを得ないが、「新幹線ネットワークはつながってこそ価値が生まれる」のも事実だ。新線をつくるたびに、沿線自治体が「ウチにメリットない」と反対して通せないとなれば、そもそも新幹線整備自体が意味をなさなくなる。ひいては、新幹線ネットワーク全体のメリットも損なわれてしまう。
新幹線はインフラだ。「つくれば終わり」ではない。新幹線を使うことで新たな価値を生み出し、新しいまちづくりを行うためのきっかけに過ぎない。このきっかけをどう生かすか。本来、沿線自治体が腐心すべきは、この点ではないのか。
(了)
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