2024年04月16日( 火 )

リクルートキャリアのリクナビ問題は~人材データの利活用のあり方が問われる事態に飛び火(中)

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高いカネを支払っても、企業が辞退率データを購入したわけ

 問題の背景には、人手不足により学生優位の「売り手市場」が続いていることにある。学生側が企業を選別しようとする動きが強まるなか、採用する企業側はより優秀な人材を確保し、つなぎとめようと必死になっている。

 将来の幹部候補生の文系や、ITなどの理系の優秀な層は外資とメガベンチャーに取られ、日系企業は滑り止め。内定辞退者が最も多いのが、この優秀層だ。優秀な層の学生が応募してきたとき、内定辞退の可能性が高い人間かどうかを見極めることは、人事が最も苦心するところだ。

 人事部の悩みに応えたのが、リクルートキャリアの「内定辞退率」の提供だ。ビッグデータをITで解析しても、それだけでは個人を特定することはできない。そのため2019年3月から採用企業に応募者の氏名、メールアドレス、大学名を提供してもらい、リクナビ会員の個人情報と直結させ、AIが計算した内定辞退率を弾き出していた。

 報道によると、〈トヨタの場合、採用試験を受けた大学新卒学生の名簿をリクルートキャリアに提出、同社が「リクナビ」のプラットフォームで得られた個人情報(トヨタ志願者が何社にエントリーしたか、どんな就職活動をしたのか)からトヨタの「志望度の高さ」を数値化し、内定辞退率予測データと称して販売していたというものだ)(ダイヤモンドオンライン2019年9月20日付)

売り手も買い手も学生のことがまったく頭になかった

 問題は、保護委から指摘されるまで、リクルートキャリアの上層部は、データの分析対象になる学生が、自身の行動を監視されていることを知った場合に、どんな気持ちになるか、といったところまで考えがおよばなかったことにある。

 リクルートキャリアにとって、顧客は企業だけでなく、学生でもあるはずだ。顧客である学生の個人情報を、学生に同意をえないまま販売することが許されるわけがない。AIという最新技術を応用することに熱心なあまり、やっていいこととやってはいけないことが頭になかった。

 さらに、驚くべきは、企業側が採用に応募してきた学生の個人情報を提供していたことだ。内定者が次から次に辞退し、「お前ら何やっている」と上から叱責される人事には、たしかに、のどから手が出るほど欲しいデータだ。内定辞退者の多発を防ぐことができるからだ。

 両社にいえることは、フーテンの寅さんではないが「それやっちゃ、おしめえよ」である。

 リクルートキャリアは、問題視されているサービス「リクナビDMPフォロー」を8月4日付で廃止した。AIを活用したニュービジネスは短命で終わった。

「クッキー」-ネット閲覧履歴データの規制はあるか

 リクナビ問題は、政府が2020年に予定する個人情報保護法の改正論議におよぼす。焦点は「クッキー」と呼ばれるネット閲覧履歴データをめぐる規制だ。クッキーというブラウザ(ウェブサイトを閲覧するためのソフト)の識別暗号は、氏名や住所を含まず、現行法では「個人情報」にはあたらない。だが、保護委が強硬姿勢だ。

 〈保護委は8月にはクッキーの扱いについて明言していなかったが、今回は明確に問題視。クッキーで特定の個人を知りながら、リクナビ側は辞退率を提供したとして「同意取得を回避しており、法の趣旨を潜脱した極めて不適切なサービス」と批判した〉(朝日新聞12月5日付朝刊)

 次世代通信規格(5G)や自動運転車の普及で、企業が扱うデータ量は各段に増える。過剰規制は百害あって一利なしだが、企業自らが人材データの利活用のあり方を問われることになる。AI活用はバラ色だけでは決してない。リクナビ問題は、AI活用にはリスクが高いことを突き付けた。

(つづく)
【森村 和男】

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