2024年04月20日( 土 )

「北九州市とNTTドコモとの連携協定」キックオフイベント(中)

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 2020年1月24日、北九州市(市長・北橋健治)と(株)NTTドコモ九州支社(九州支社長・山崎拓 以下、ドコモ)は、「5G、ビッグデータの活用によるSDGs達成に向けた連携協定」を締結した。これを受け同日、小倉城天守閣(北九州市小倉北区)にて「5G×北九州 近未来の最前線ミートアップ」キックオフイベントが開催され、5G関係者や、地元北九州のスタートアップ企業、一般の参加者など80名におよぶ来場者によって、小倉城天守閣の最上階が埋め尽くされた。

「北九州市と一緒にブルーオーシャンに乗り出していく」
(株)NTTドコモ・本高祥一氏(法人ビジネス本部・法人ビジネス戦略部長)

(株)NTTドコモ・本高祥一氏(法人ビジネス本部・法人ビジネス戦略部長)

■5Gの概要

 モバイル通信ネットワークの進化は1980年代の第1世代から始まりました。約40年の間にサイズは飛躍的に小さくなり、バッテリーはノーベル賞をとった吉野彰さん(※)の功績で非常に長持ちするようになりました。それに加えて一番革新的なのは通信速度で、93年の第2世代(2.4kbps)から26年で66万倍の速さ(2019年冬=1,576Mbps)になりました。そして5Gはギガ時代へ突入し、より早くなっていくことが期待されています。

 (※吉野彰氏:旭化成名誉フェロー/名城大学大学院教授。スマホなどに使われるリチウムイオン電池を開発したとして2019年10月9日にスウェーデンの王立科学アカデミーよりノーベル化学賞を授与された)

■5Gの導入意義

 ただ、5Gはテクノロジーのツールの1つであって、これだけで劇的に何かが変わるものではありません。5GやAI やIoTなどのテクノロジーをいくつか組み合わせて、デジタルトランスフォーメーションを世の中に起こすことによって、我々が抱えている「社会的課題解決」や、次世代につなげるための「新たな価値創出」を行っていくのです。

 課題を解決するだけだとマイナスをゼロにするだけで終わってしまいますので、将来にバトンをつなぐためにはゼロをプラスにする、この両方をやっていかなくてはならないと思います。デジタルトランスフォーメーションに対して、アメリカと比較してもお金の使い方はそんなに変わらないのですが、日本は「攻めのIT投資」が進んでおらず、その10年、20年の積み重ねが国力の差になっているといわれています。

 それは、業務改善に励む国民性だと思いますが、ラン・ザ・ビジネス(現行システムの維持管理)に8割も投資している現状から脱却し、バリューアップ(価値向上)をするという考えをもって、確実な成果が見込めなくても将来のためにチャレンジしていくという姿勢が、新しいテクノロジーを使ううえで非常に重要であると考えます。

 5Gは、「高速・大容量」「低遅延」「多数端末との接続」という3つの特徴をもちます。「高速・大容量」は、前述しました通り飛躍的に通信速度が速くなっていき、4Gでマックス毎秒1ギガのところ、5Gでは20ギガと言われていますので約20倍になるということで格段に性能が向上します。

 「低遅延」は通信時間が10分の1(4Gは10msだったのに対し、5Gの目標値は1ms)に短縮されることで、高い信頼性が必要な遠隔医療や自動運転などの分野で、非常に重要な技術になると期待が寄せられています。「多数端末との接続」では、10倍のデバイスが接続可能(4Gは10万デバイス/km2だったのに対し、5Gの目標値は100万デバイス/km2)になります。

 たとえば自宅に100個の端末やセンサーがあっても、そのそれぞれのデバイスが同時につながる、そんな環境が5Gでは可能になります。

小倉城天守閣で開催された
小倉城天守閣で開催された

■5G実現に向けたロードマップ

 2019年9月20日より、5G実現に向けたプレサービスを始めましたが、今年春より「商用サービス」を開始しようといま一生懸命に取り組んでいます。エリア展開は、4Gまではビジネスとして合理的に考え、人口の多いところから優先して進めてまいりましたが、5Gにおいては、高速・大容量だけでなく低遅延や多数端末接続などの特徴を考えると、むしろ社会課題を抱えているような地域からしっかりと展開をしていったほうが良いと考えています。

 たとえば、遠隔医療を求めている僻地の病院であったり、農業を革新的に変えないといけない地方の一次産業のある場所だったり、スマートファクトリーといわれるような工場であったり、必要とされる場所に、適切な機能で展開したいと思っています。

■5Gの活用イメージ

 全体の活用イメージとしては新たなビジネスモデルの創出に向けたものと、業界を越えたエコシステムとして、産官学が一緒になって社会に有益なサービスを双発的に提供していくことが大事になると考え、ブロードバンドやIoTなど信頼性の高いサービスを提供していきたいと考えています。

 九州では、熊本県阿蘇市で行った「給電ドローン 4K映像伝送」の事例があります。ドローンはケーブルがなくても飛べるのですが、これはメタルケーブルをつけて地上からの給電により、最大6時間の連続飛行を実現しました。

 この無人移動システムと5Gの大容量伝送能力とリアルタイム性を組み合わせることによって、自然災害による負傷者の救出や不明者の捜索支援において、捜索範囲を立体的に拡大することができます。この取り組みは2016年に起きた熊本地震がきっかけで生まれました。

 災害現場はすぐに人が立ち入ることができず、状態を把握できない。そんな場面でも、高画質のカメラをドローンに装着して、給電しながら長時間ホバリングをすると15km離れた場所でも人の顔まで認証できるような性能になり、限られた救援部隊を一番深刻な場所へかけつけさせることができ、災害対策になります。

■ローカル5G

 一般の5Gとは別に「ローカル5G(※)」というクローズドな5Gのネットワークが提供されようとしています。独立性や柔軟性、安定性など、5Gの特殊ニーズへのソリューションとして、パブリックな5G以上に高い品質で提供される「ローカル5G」が期待されています。

 日本の製造業はとても高い技術をもちながらも、他国に比べICT化に遅れている、この状況をローカル5Gで取り戻す可能性があるのではないかと思っています。ローカル5Gを求める企業や自治体へは、ドコモが縁の下の力持ちとなってサポートしていきたいと思っています。

 (※ローカル5Gとは、通信事業者以外のさまざまな主体(地域の企業や自治体等)が、自ら5Gシステムを構築可能とするもの。メリットとしては、柔軟に5Gシステムを構築できる・通信事業者ではカバーしづらい地域で独自に基地局を設けられる・他所の通信障害や災害などの影響も受けにくいなどがある。総務省「ローカル5Gの概要について」より)

■全国初!北九州市と連携協定、データドリブン・デジタルマーケティングの取り組み

 今回、北九州市と一緒に新しい価値を提供していくベースラインがドコモの7,000万人規模の会員の30,000項目におよぶデータの蓄積があります。もちろんこれはお客さま1人ひとりの許可を得たもので、リアル行動、ネット行動、顧客属性などをデータマネージメントプラットフォームのなかでしっかり活用していきたいと考えます。これまで民間とは行っていましたが、自治体との連携協定は日本で初めての取り組みとなります。これをベースにエビデンスを基にした政策立案まで協力できれば大変うれしいことです。具体的にいうと、ドコモのdポイントを小倉城などで利用されたお客さまの履歴と移動情報を活用した「まちづくり推進」に関する実証実験を行っていきます。

 それに加えて、今回の連携協定の発表でとくに注目を浴びたのはワーケーションです。今年はオリンピックイヤーで、多くの外国人観光客が訪れるため、首都圏近郊では公共交通機関の対策を迫られるなか、テレワークが注目されていますが、北九州市においても「5Gを活用したワーケーションによる移住、定住の促進」という取り組みで、5GやXR(※)を活用した、仕事とリフレッシュ休暇が体験できるワーケーション環境の設置を、小倉駅周辺でチャレンジしていきます。

 そして、観光地である小倉城では、XRを活用し、具体的には巌流島の決闘を現代に再現するなど、小倉城ならではのサービスを提供し、観光客に体感してもらえる魅力づくりのお手伝いをしていきます。

【※XRとはCross Realityの略で、VR(Virtual Reality/仮想現実)、AR(Augmented Reality/拡張現実)、MR(Mixed Reality/複合現実)、SR(Substitutional Reality/代替現実)などの先端技術の総称。5Gの活用でよりリアリティの高い体験が期待される】

イベントの様子
イベントの様子

(つづく)
【松本 悠子】

(前)
(後)

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