2024年04月16日( 火 )

「検察崩壊元年」ゴーンの反撃(11)

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法の悪用

 法の悪用は、実際は「解釈」による悪用である。とくに悪用されるのが、「何々のおそれ」のかたちで規定された法規である。これを最終的に判断するのは裁判官であるから、結局、法の悪用は「裁判官による法の悪用」という極めて逆説的な現象である。実際は検察官の主張を裁判官が認容するというものであり、悪用の真の主人公は検察官である。

 ゴーンの保釈条件のうち、「逃亡のおそれ」については正当性が認められたと検察は主張するし、相当数の識者もそれに賛同する。しかし、ここでいう「逃亡」とは科刑逃れを目的として、身を隠すことをともなった逃亡であって(その意味でも裁判を停止してはいけない)、自由な弁護活動のために厳しい制限から逃れる意味の逃亡、しかも自身の所在は明白にしたものまで含むものではない。

 本件では前提条件として厳しい「人質司法」が存在するからその前提を無視した「単純な科刑逃れの逃亡」と見做した議論は不適切である。

 ゴーンは十分な弁護活動が終了したら、密出国罪に服するため、自らまた日本に入国する可能性がある。もちろん、それはゴーンが主張する冤罪の立証が完成した場合、つまり、ゴーンが認める法的正義が日本で実現している場合である。

 問題は「証拠隠滅のおそれ」である。検察が有罪とするために十分な証拠を収集して逮捕起訴したものであれば、そもそも「証拠隠滅」はほとんどあり得ない。しかし現実には百日以上身柄を拘束して自白を迫った。

 これはそもそも犯罪を立証する客観的証拠がほとんど存在せず、もっぱら自白によって犯罪を立証しようとした自白偏重捜査と逮捕起訴である可能性が大である。日本の冤罪は、ほぼすべてこの自白偏重・長期拘束の属性をもつ。

 とくにゴーン事件の特徴は「司法取引」が先行して存在し、その実態はまったく闇のなかに隠蔽されている。本来ならマスコミが2名の共犯協力者に取材して真実報道をすべきであるのにまったく、日本の報道機関は動いていない。極めて不条理な現象である。

 2名の共犯協力者、いわば日本の刑事司法の正義実現のために身柄が保障されているのであるから、積極的に真実を公表してしかるべきである。このような不条理な社会現象が世界の人々から理解されていないのが、ゴーン事件の1つの特徴である。ゴーンは必ず、この不条理に挑戦し、真実を解明する。単純な科刑逃れの逃亡者ではないからである。

 ゴーンは事件関係者との接触を一切禁止されている。その理由が「口裏合わせ」による証拠隠滅とされる。これはゴーンの有罪立証を証言した人々がゴーンの接触により証言を翻すことを前提とした理由である。

 もともと検察はゴーンの無罪を証言する人の供述など収集していないからである。ゴーンがこれらの敵性証人に何らかの圧力を加えれば、それ自体が証人威迫罪の犯罪であるから、何の心配も要らない。それなのになぜ、これらの証人らとの接触を禁止するのか。証人らはそもそも、なぜ証言を翻す可能性があるのか。それは、敵性証人自体が虚偽誘導されたり、真実を知らされないで証言をした可能性があるからである。

 敵性証人が真実を証言している限り、「口裏合わせ」の可能性は皆無であり、敵性証人自体が自己の体験認識とは異なった虚偽証言をすることになるから、「口裏合わせ」など実際には存在しない。敵性証人がゴーンとの接触により「敵性」でなくなった場合には、それ相応の合理的理由があると考えられる。それこそ、その発覚を防ぐための接触禁止であれば、検察による(無罪証拠の)隠滅そのものである。

 日本の冤罪事件の多くが、検察が隠蔽した無罪証拠の発覚が契機となったことも歴史的真実である。

(つづく)
【凡学 一生】

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