2024年03月29日( 金 )

2016年発達障害者支援法が改正 雇用障害者数、過去最高を更新(2)

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 障害者の職業の安定を図る「障害者雇用促進法」が改正され、障害者雇用率(法定雇用率)の引き上げと、雇用対象となる障害者の範囲に「発達障害を含む精神障害者」が新たに加わった。厚生労働省が発表した2018年度の民間企業による障害者の雇用状況は、雇用障害者数・実雇用率ともに過去最高を更新。なかでも発達障害を含む精神障害者の雇用数が急増している。企業は発達障害者の雇用にどう向き合えばいいのか。

全従業員の2.2%にあたる障害者雇用を義務づけ

 2016年4月に新たな障害者雇用促進法(2013年改正)が施行された。改正のポイントは3つ。(1)障害があることを理由に採用を拒否したり、低い賃金を設定したりすることなど、障害者に対する差別の禁止。(2)障害者がほかの人と平等に生活できるよう、障害者がもっている能力を発揮するうえでの支障を取り除くことなど合理的配慮の提供義務化。(3)雇用対象となる障害者の範囲に、「発達障害を含む精神障害者(療育手帳もしくは精神障害者保健福祉手帳の保持者)」が加わった。 

 さらに障害者雇用を義務づける法定雇用率が、2018年4月から民間企業が2.2%、国や地方公共団体が2.5%、都道府県等の教育委員会が2.4%に引き上げられた。法定雇用率の変更にともない、障害者を雇用しなければならない民間企業の事業主の範囲も、従業員50人以上から45.5人以上に変わった。

 なお法定雇用率は、2021年4月までに0.1%ずつ引き上げられ、民間企業の法定雇用率は2.3%になることが決まっており(国等の機関も同様に0.1%引き上げ)、対象となる事業主の範囲は従業員43.5人以上に拡大する。

 また事業主が法律で定められた障害者雇用に取り組んでいるかを把握するため、従業員45.5人以上の事業主は毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告しなければならない。ハローワークは義務を果たさない事業主に対し、行政指導を行うことができる。

 前出の宮尾氏はいう。

 「障害者雇用促進法は、改正を経るごとに法定雇用率が引き上げられる傾向にあり、障害のある人がその人に合った職業に就き、能力を発揮するチャンスは増えているといっていいでしょう。今回の改正の大きな変更点は、法定雇用率を計算するうえで、雇用の対象に発達障害者を含む精神障害者が追加されたことです。それまでは、従業員に占める身体障害者と知的障害者だけで、法定雇用率が計算されていました。しかし今回、療育手帳もしくは精神障害者保健福祉手帳の保有者にも範囲が拡大しました。それにより、発達障害のある人も障害者雇用の対象となり、就労支援がスムーズになってきたのです」

 とはいえ、手帳を保有していない発達障害者はたくさんいる。発達障害であるという自覚がない場合や、自覚はあるが診断を受けていない。あるいは手帳をもつには抵抗があるという人も少なくない。

 宮尾氏が続ける。

 「手帳がなければ支援を受けられないかといえば、そうではありません。厚生労働省では、『法定雇用率制度の対象者に加えて、難病のある人、高次脳機能障害者(主に脳の損傷が原因の障害者)、発達障害なども対象者となる』としています。従って、手帳の有無にかかわらず、発達障害のある人は地域障害者職業センターやハローワーク、障害者就業・生活支援センターなどが、医療や保健福祉などの関係機関と連携して、職業指導や職業訓練、紹介などの支援を行ってくれ、必要なサービスを受けることは可能です。今後、発達障害者の雇用もますます進んでいくことが考えられます」

 毎年、6月1日時点の民間企業の雇用状況をとりまとめた厚生労働省の「障害者雇用状況の集計結果(2018年度)」によると、障害者雇用数は53万人を上回り(前年度比7.9%増)過去最高となった。

 雇用者を障害種別で見ると、前年度と比べて最も増えたのは精神障害者で6万7,395人(34.7%増)。このうち2017年6月2日から2018年6月1日までの一年間で新規に雇用された精神障害者は1万7,911人で、前年度と比べて6,124人増加した。また民間企業の実雇用率は、前年度の1.97%から0.08ポイント上昇し、2.05%となったが、雇用率を達成している事業主の割合は前年度より4.1ポイント低い45.9%で、5割を下回っている。

(つづく)
【古木 杜恵】

<プロフィール>
宮尾 益知(みやお・ますとも)

 東京都生まれ。徳島大学医学部卒業。東京大学医学部小児科、自治医科大学小児科学教室、ハーバード大学神経科、国立成育医療研究センターこころの診療部発達心理科などを経て、2014年にどんぐり発達クリニックを開院。
『発達障害の基礎知識』『職場の発達障害』など多くの著書がある。専門は発達行動小児科学、小児精神神経学、神経生理学、発達障害の臨床経験が豊富。

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