2024年04月28日( 日 )

中国経済新聞に学ぶ~【寄稿】新型コロナウイルス感染症禍から学ぶこと

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北東アジア動態研究会 主宰 木村 知義 氏

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。一言で集約すれば、我々は今回の新型コロナウイルス感染禍のなかでまさに人類史的学習をさせられているという思いを強くする。今は論点を2つだけに絞る。グローバル化した世界における「移動」と我々の「中国観」、それと深く連関する世界の「相互依存」への認識についてである。

 中国における感染症蔓延への初動の遅れが武漢、湖北省での深刻な感染拡大をもたらしたことはいうまでもないが、「武漢封鎖」以前にすでに武漢をはじめ中国から多くの来訪者が日本を訪れ、数えきれない日本人と出会い「接触」していた。国境を越えてヒト、モノ、カネ、そして情報が縦横に行き来する。その移動こそが、世界のダイナミックな動力を生み出す源泉となっている。この現代における移動の意義とそれゆえのリスクを冷静に受けとめ認識できるかは、実は、それほどたやすいことではない。

 2月16日になってようやく開催された政府の「専門家会議」で日本における感染のフェーズが新たな段階に入ったとの認識が示されたが、疫学的フェーズとは別に、メディアにおけるフェーズもまた新たな段階に入ったと感じる。

 その第一の段階は春節を迎え中国政府が武漢封鎖を告知するという衝撃のニュース前後までである。テレビのワイドショーは中国からの観光客のインタビューを織り込みながら中国および中国人への「嫌悪感」をそれとなく醸し出すことに終始していた。

 たとえば、「感染の心配のある中国を逃れてきてよかった」「マスクを買って帰れば高く売れる」「中国に戻っても危ないからしばらく子どもと日本で過ごす」などの声が画面を通して伝えられ、視聴者に違和感を広げた。こうした日本メディアのインタビューに無自覚に応答する中国人も問われてしかるべきであるが、それ以上に、日本のメディアが、ことさらにそうした言及だけを抽出しているであろうことも想像に難くない。

 さらに、スタジオのゲストは中国当局から発表された初期の感染者数について「あの中国だからこんなわけない。隠しているに決まってる」とコメントした。不幸なことに、感染者数についての指摘はその通り推移することになる。しかし問題は「あの中国だから」という言説である。こうした一見「何気ない言説」の積み重ねでジワジワと「嫌中感情」が醸し出されていくという、言いようのないやりきれなさのなかで、日本における対中感情がより悪化したことは否定できない。

 フェーズが変わったのは武漢および湖北省からの日本人の帰国問題が持ち上がったころ、すなわち感染が日本人自身の問題としてより深刻になった段階からだ。とにかく日本人の感染の懸念一色となる。

 そして、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」問題に直面する。日本政府の定見のなさ、ガバナンスの欠如に世界の厳しい目が注がれるようになって、もはや中国はどこかに吹き飛んでしまう。時々思い出したように習近平指導部に対しての疑念を語るというわけである。

 今回の推移を通じて我々の中国観がどういう局面で問われ、それが沈潜していったかをしっかり見据える必要がある。事あれば人々の「劣情」ともいえる排外意識をかきたててしまうメディアの責任も重大だが、それだけに、グローバル化における「移動」というキーワードで考える我々の世界観、中国観を改めて問い直してみなければならない。

 そこに、もう1つの問題、中国と日本、中国と世界が「相互依存」関係にあることが浮上する。端的に述べれば、中国人は来てもらいたくない、中国は封鎖すべきという発想に立ったとたん、どんな事態に直面したのかである。象徴的にいえば、銀座のデパートは客が来ず、物が売れずに青息吐息、全国の観光地の旅館、ホテルはキャンセルの嵐で経営が立ち行くかどうかの淵に、製造業は中国からの部品調達の見込みが立たず操業停止、中国に展開している企業も春節の休暇を延長してみたが操業再開のめどがつかすに苦しむ…。

 深刻なのは日本だけではない。世界のサプライチェーンは詰まってしまいiPhoneの製造にも支障をきたし世界経済の下振れ懸念が深刻に、というわけだ。すなわち壮大なジレンマに直面することになったのだ。世界の相互依存関係はもはやゼロサムゲームを許す状況ではなくなっていて、まさしく「運命共同体」となっていることを改めて鮮明にした。

 ではこのジレンマを解くカギはどこにあるのか。それは協調と協力、相互の支えあいにしかない。中国を支援するだけでなく、中国と協調、協力して一体となって感染拡大を鎮静化させて一刻も早く日常を取り戻すこと、それが日本と世界の利益となるというわけだ。他人の苦境は私の苦境、他者の痛みは私の痛みとする構図のなかにしかブレイクスルーは見い出せない。

 しかし、そういえるためには相互の信頼が不可欠になる。昨年あたりから、日中関係は飛躍的に好転という言説に出会うようになった。しかし本当にそうだろうか、残念ながら、今回の新型ウイルス禍を前にして、日中関係に本当の信頼関係がないためにこういう事態を目の当たりにしているのではないかと考えこむ場面に幾度も遭遇した。固い信頼関係が築かれていたなら物品の支援にとどまらず疫学、医療の面でも、もっと踏み込んだ協力、協働も可能となったはずだ。

 日中に相互信頼をなどと、何を書生論のようなたわごとをといわれるかもしれない。もちろん、そのときだけの打算で乗り切るという「つきあい」もあるかもしれない。しかし、ここは愚直に、真の信頼関係に深めなければと思う。でなければ、排除、排斥の思想に立った途端自分の首を絞めることになるという現代の「ジレンマ」を脱するごとはできない。

 移動と相互依存という切り口で眺める日中関係および中国と世界の関係は、もう後戻りのできないグローバル化のなかにある。それゆえ、そこに立ち現れる困難には協働して立ち向かうことなく乗り越えることはできないことを肝に銘じて、現在の難局に向き合うべきだと考える。

 なによりも、感染の恐怖と向き合い戦う中国の人々の努力が実を結び、一刻も早い終息に向かうことをと念じながら、そして日本における感染の拡大に歯止めをかけ、一日も早い安寧の日々が戻ることを願いつつ。

(2月17日記)


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