2024年04月19日( 金 )

新型コロナ発言を2時間で撤回した孫正義氏に何が起きているのか~カリスマ経営者・孫氏の許から去っていった人々(中)

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「ほら吹き三兄弟」の異名

 2010年12月10日。「ほら吹き三兄弟」が夕食を供にした。

 日本電産社長・永守重信氏、ソフトバンク社長・孫正義氏、ユニクロのファーストリテイリング社長・柳井正氏の3人である。

 いずれも世界一の目標を掲げる、今をときめくベンチャー起業家たちだ。

 永守氏の2015年度の売り上げ目標は、現在(当時)の3倍の2兆円。柳井氏の2020年度のそれは、現在の6倍の5兆円。孫氏に至っては、30年後のソフトバンクの時価総額を60倍以上の200兆円にするとぶちあげた。

 「ほら吹き三兄弟」の名付け親は、元祖ベンチャーの永守氏である。永守氏と柳井氏は10年来の付き合いで、5年前、その柳井氏を通じて孫氏と親交を結んだ。柳井氏は2001年からソフトバンクの社外取締役を務めている。

 柳井氏は「経営の先生と認める2人の話を、じっくり聞いてみたかった」と言い、東京・代々木の自宅に2人を招いて会食した。最初から最後まで、永守氏と孫氏がしゃべりまくり、23時を回って、ようやくお開きになった。

 超個性派経営者たちのおしゃべりの集いを『週刊東洋経済』(2011年2月19日号)で披露した永守氏は「孫さんはほら吹きの大学生、柳井さんが高校生なら、僕は小学生や」と愉快そうに分析した。

 以来、「ほら吹き3人組」が3人の代名詞となった。

日本電産の永守重信会長兼社長がソフトバンクの社外取締役を退任

 2017年9月30日、「ほら吹き3人組」の名付け親である日本電産の永守重信会長兼社長がソフトバンクGの社外取締役を退任した。退任の理由は「本業との兼務が困難になった」としている。

 永守氏は2014年6月から社外取締役を務めてきた。孫氏は永守氏について「尊敬する先輩経営者だ」と信頼を寄せていた。17年6月の株主総会でも「違った意見をもつ社外役員がいることで健全な取締役会が運営できる」と発言していたが、異例な時期の辞任となった。

 永守氏は教育に軸足を移した。2018年3月、京都学園大学(京都市)を運営する学校法人の理事長に就任した。法人名を永守学園、学校名を京都先端科学大学に変更。100億円の私財を投じ、2020年4月、日本で唯一のモーター技術を学ぶ工学部を開設する。

ユニクロの柳井正氏も社外取締役を退任

 2019年12月31日、ユニクロを運営するファーストリテイリング会長兼社長・柳井正氏が、ソフトバンクGの社外取締役を退任した。「本業に専念する」ためとしている。

 柳井氏は孫氏に請われるかたちで2001年から社外取締役を務めてきた。孫氏に対し「日本で本当に経営している数少ない経営者」と敬意を表する一方、投資に走る経営に対して「僕と対極にある」と捉えていた。

 ソフトバンクGの社外取締役としては「ストッパー役」を自任。ソフトバンクGが10兆円ファンドによる人工知能(AI)投資やグループ内での大型買収を加速する際も、投資の社会的意義や買収額の適正さなどを取締役会で、正面から物申していた。

 「今回の決算発表の内容は、ボロボロでございます。真っ赤っかの大赤字」

 2019年11月6日、ソフトバンクGの第2四半期決算説明会の場で、孫氏は開口一番こう切り出した。これまで「打ち出の小槌」のようにソフトバンクGに利益をもたらしてきたビジョンファンドの投資先である米配車大手のウーバー・テクノロジーズへの投資が大失敗だったことを認めた。孫氏の”成功神話”が瓦解した瞬間だ。

 ウーバー社への投資に異議を唱えたのが柳井氏だった。「取締役会では毎回、怖い柳井さんという社外取締役の方がいて、いつも、口から泡を飛ばして、怒られていた」(決算説明会での孫氏の発言)と自嘲まじりに口にした。

(つづく)
【森村 和男】

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