2024年04月24日( 水 )

新型コロナ発言を2時間で撤回した孫正義氏に何が起きているのか~カリスマ経営者・孫氏の許から去っていった人々(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長が新型コロナ発言でブレまくった。こんな自信のない孫氏の姿は初めて目にした。何が起きているのか。”ご意見番”であった日本電産の永守重信会長とファーストリテイリングの柳井正会長兼社長の2人が、孫氏の許を去っていったことと関係があるかもしれない。

簡易PCRを100万人に無償提供する計画

 孫社長は3月11日、3年ぶりにツイッターへの投稿を再開。「新型コロナウイルスに不安のある方々に、簡易PCR検査の機会を無償で提供したい。まずは100万人分。申込方法など、これから準備」と具体案を示した。さらに、「本日厚労省を訪問しました」と報告。「医療崩壊を起こさないように連携しながらやっていきたい」とつづった。

 しかし、ネット上では「誰でも検査できるようになると、韓国のように医療崩壊を引き起こしかねない」などと大炎上したため、「検査したくても検査してもらえない人が多数いると聞いて発案したけど、評判悪いから、やめようかなあ。。。」とツイッターに投稿。突然の表明から約2時間で撤回した。

 こんなにブレる孫氏を見たことがない。思いつきの発言が、孫氏の”成功神話”の虚妄を浮かび上がらせた。米通信社のブルームバーグ(3月12日)は、こう報じた。

 孫社長の100万人検査計画に対し、著名人が即座にツイッターで反応。ホリエモンの愛称で知られる実業家の堀江貴文氏は「やめた方がいいですね」と返し、ヤフー前会長で東京都の宮坂学副知事は「頭が千切れるほど考えたのか?たいがいにせぇ!!ハゲるまでやれ!」とかつて部下として怒られた記憶が走馬灯のように蘇ったと応じた

ブルームバーグ(3月12日)

 この記事で目にとまったのは宮坂氏のツイッター。孫氏から怒鳴られた発言をそのまま綴って揶揄し、しっぺ返しした。ヤフーを追われたことが、いかに悔しかったかがわかる。

 孫氏の許から功労者たちが去っていったが、宮坂氏はその1人だった。

孫氏とアローラ副社長が、ヤフーをめぐり対立

 孫正義氏と宮坂学氏の関係を振り返ってみよう。

 2012年6月、孫正義氏は宮坂学氏をヤフー社長に抜擢し、ヤフーを立ち上げた時からの同志であり、最大の功労者である井上雅博氏を、パソコン中心でスマホに立ち遅れているとの理由で更迭した。

 2016年6月、ソフトバンクGで孫正義社長と、後継者として招いたニケシュ・アローラ副社長の間で内紛が起きた。

 原因の1つが、ヤフーだった。アローラ氏は「ヤフーは米国では全然だめだ。日本だけでのビジネスに将来性はない」と主張し、ヤフーの宮坂学社長のクビを切ろうとした。これに孫氏が激怒したといわれている。ヤフーは、孫氏が成功の階段を駆け上がっていく原点であったからだ。

 6月20日に開催されたヤフーの株主総会をアローラ氏は欠席した。同氏はヤフーの会長に再任されたが、1日で辞表を叩きつけた。この時、孫氏は宮坂氏を擁護した。

 それから2年後の18年4月、ヤフーは6年間社長を務めた宮坂学氏が会長に退き、副社長・川邊健太郎氏が社長に昇格した。そして19年6月の株主総会で、宮坂氏は会長を退任し、ヤフーを去った。

宮坂氏が「退任のご挨拶」に込めたメッセージ

 宮坂氏の退任は、孫氏が国内事業に興味を失ったことを意味している。ヤフーはソフトバンクグループの国内におけるインターネットサービスの中核を担う企業である。

 孫氏の関心は、ソフトバンク・ビジョンファンドに向いた。ソフトバンクGは、携帯電話やインターネットを主力とする事業会社ではなく、投資会社になる。ファンドによる投資を主力事業として、海外で成長を拡大させる方向に切り替えた。

 ヤフーは、国内通信会社のソフトバンクとの関係を強化して社名を「Zホールディングス」に変えるなど、宮坂氏の退任に合わせて大きく路線を変えた。

 宮坂氏は、関係者に「退任のご挨拶」と題したメールを送った。日本語の後に続く英文の末尾に「社員へのシークレットメッセージが込められているのでは」と話題をさらった。

 『AERAオンライン』(19年6月20日付)が、こう読み解いた。

 It has been a pleasure working with you and I hope that our paths will cross again.

あなたと働くことは喜びでした。私たちの進む道が、いつかまた交わりますように・・・。

 自らが進めてきた独自路線を捨て、ソフトバンクとの統合や金融サービスへの傾斜を進めようとするヤフー。「あなた」が指すのは、自分が目指したのとは違う「道」を進み始めたヤフー社員たちなのではないのではないのか。そう感じるのは、深読みしすぎだろうか。

 『AERAオンライン』(19年6月20日付)

 19年9月、宮坂学氏は東京都副知事に就いた。小池百合子知事が任命した。次世代の通信規格「5G」を普及させるため、東京に世界最速のモバイルインターネット網=”電波の道”を構築する戦略を担う。

 その新天地から、宮坂氏は孫正義氏に痛烈の一発をかましたのである。

 孫氏の許を去っていった人物には大物もいる。

(つづく)
【森村 和男】

(中)

関連記事