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2020年04月04日 07:00

アジアの世紀を踏まえて、2020年以降の世界政治経済動向を占う!(前)

 今人類は「パーフェクトストーム」(複数の厄災が同時に起こり、破滅的な事態に至ること)の洗礼を受けており、この地球は前代未聞の嵐に飲み込まれようとしている。さて私たちは2020年以降の世界をどう生き抜いていけばよいのだろうか。
 元国連大使・元岩手県立大学学長・谷口誠氏に聞いた。陪席は日本ビジネスインテリジェンス協会会長・名古屋市立大学22世紀研究所特任教授の中川十郎氏である。谷口氏はOECD時代に『The World in 2020:Towards a New Global Age』(1997年発表)のイニシアティブをとり、未来予測「21世紀には、中国を中心とする東アジア、さらにインドを含めたアジアが世界の最もダイナミックな発展センターとなる」ことを見事的中させた。

元国連大使・元岩手県立大学学長 谷口 誠氏

2019年はグローバリゼーションの行き詰まりが極端に現れた年

 ――まずは2019年の世界をやさしく振り返っていただけますか。その後、年明け早々に起きた「新型コロナウイルス」騒動についても言及してください。

谷口 誠 氏

 谷口誠氏(以下、谷口) 19年はグローバリゼーションの行き詰まりが極端に現れた年でありました。それは英国のEU離脱、「アメリカFirst」のトランプ大統領誕生などに象徴されます。私のOECD時代には、EUをはじめグローバリゼーションの勢いが衰えることはありませんでした。EUにグローバリゼーションの弊害が生まれたのは、19年よりかなり遡ってのことです。英国は英連邦との関係もあり、フランスのド・ゴール大統領との難交渉の末やっとEC(当時)に加盟した経緯があります。しかし、英国のEU離脱は、英国にとって大きなマイナスであり、EUにとっても大きなマイナスであると考えています。

 中川十郎氏(以下、中川) もともとEUの通貨であるユーロ(EUR)はイギリスでは使えませんでした。イギリスの通貨はポンドです。EUのややこしいところは、EUに加盟していてもユーロを導入していない国があることです。現在、ユーロは欧州連合(EU)27カ国のうち、19カ国で公式に導入されています。

「新型コロナウイルス」が、世界の分断化を加速度的に促進

 谷口 「新型コロナウイルス」は単なる感染症の問題だけでなく、グローバリゼーションにも大きな影響をおよぼします。今まさに進みつつある世界の分断化を加速度的に促進させ、連帯の意識を閉じさせてしまうことを心配しています。このことはラテンアメリカを含むアメリカ大陸、ヨーロッパ大陸、ユーラシア大陸など世界の至るところで分断化が起こることを意味します。私はOECD時代にヨーロッパの統合を目の当たりにしました。と同時に「アジアはどうなっていくのか」ということに関心を持ち始めました。

 アジア地域統合の動きですが、アセアン10カ国はある程度まとまっております。しかし、大国である日本、中国、韓国の連携がとれていません。これからのアジア地域での発展のためには、日中韓の連携が極めて重要です。「日中がうまくいけば韓国ともうまくいく」というのが日本の基本的な見方ですが、昨今の状況を見ていると、そう簡単にはいかないという感を強くしています。加えて北朝鮮の問題もありますので、今後は韓国ともきめ細かい外交交渉の必要性を感じています。

 中川 私も谷口大使の意見にまったく同意します。世界で一番軍事力、経済力をもっていたアメリカは、今「TPP」(環太平洋経済連携協定)、「パリ協定」(15年の気候変動への国際的な取り組み)「イラン核合意」など離脱・脱退を繰り返しています。今こそ、日中韓のアジア地域統合の必要性を強く感じます。

「米中貿易摩擦」は、日本の将来にとって大きなチャンス

 ――ここからは本題に入ります。20年以降の世界政治経済動向を自由に占っていただきたいと思います。まず「米中貿易摩擦」についてはいかがでしょうか。

 谷口 米中貿易摩擦を見ていますと、アメリカはとにかく何でもナンバーワンでなければ満足できない国のように思えます。一方、中国は鄧小平から習近平まで、「中国三千年の歴史」を踏まえた長期戦略で臨んでおり、老獪さを感じます。基本姿勢としては「「韜光養晦」(とうこうようかい)、すなわち国力が整わないうちは、国際社会で目立つことをせず、じっくりと力を蓄えておくという戦略です。現在、中国はすでにGDP(購買力平価)ではアメリカを凌駕しており、今後もその差は拡大していくものと思いますが、政治力や軍事力においては遠くアメリカにはおよびません。ただし、政治力や軍事力がアメリカに追いついた場合は、また違った展開になるかもしれません。

 中川 超高速・大容量通信によって産業やライフスタイルを一変させるといわれる5G(第5世代移動通信システム)で主導権を握っているのは中国です。中国では世界に先駆けて昨年3月には中国移動通信(チャイナ・モバイル)など国有の通信大手3社が北京や上海など国内50都市で5Gの商用サービスを開始しました。アメリカは5G関連機器最大手の華為技術(ファーウェイ)の排除を各国に要請しています。しかし、現実に応じる国は少なく、同社はすでに累計で40万件以上の5Gの基地局を輸出しています。中国は今、従来の製造業分野だけでなく、電気自動車(世界シェアの50%を狙っている)、AIなどさまざまな科学技術の分野で先頭を走りつつあります。

 谷口 今回の「米中貿易摩擦は日本に悪影響を与える」と考える人が多いと思います。しかし、私は逆に「日本にとっての大きなチャンス」だと考えています。ヨーロッパの国々は時勢を正しく分析して、ドイツのメルケル首相などを筆頭に英国、フランスなどは「一帯一路」や「AIIB(アジアインフラ投資銀行)」に積極的に参加しています。一方で、私が13年の日本プレスセンターにおける英語・講演で「日本はAIIBに入るべきである」と述べたところ、中川先生には応援をいただきましたが、多くの方から“国賊”呼ばわりされました。(笑)

(つづく)

【金木 亮憲】


谷口 誠(たにぐち・まこと)
 1956年一橋大学経済学部修士課程修了、58年英国ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ卒業、59年外務省入省、国連局経済課長、在NY日本政府国連代表部特命全権大使、OECD事務次長(日本人初代)、早稲田大学アジア太平洋研究センター教授、同大学現代中国総合研究所長、岩手県立大学学長、「新渡戸国際塾」塾長、北東アジア研究交流ネットワーク代表幹事、桜美林大学北東アジア総合研究所特別顧問などを歴任。専攻は南北問題、国際経済、東アジア共同体論。
 主要著書として『南北問題 解決への道』(サイマル出版会)、『21世紀の南北問題 グローバル化時代の挑戦』(早稲田大学出版部)、『東アジア共同体‐経済統合のゆくへと日本‐』(岩波書店)ほか多数。主要論文として、「英国のEEC接近と英連邦の将来」(『世界経済評論』)ほか多数。

中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現・双日)入社。海外駐在20年。米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長を経て、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、ハルピン工業大学国際貿易経済関係大学院諮問委員。米国コロンビア大学経営大学院客員研究員。中国対外経済貿易大学大学院客員教授、同大学公共政策研究所名誉所長、大連外国語大学客員教授、WTO-PSI 貿易紛争パネル委員。JETRO貿易アドバイザー。日本ビジネスインテリジェンス協会会長。中国競争情報協会国際顧問。日本コンペティティブ・インテリジェンス学会顧問など。
 主要著書として、『東アジア共同体と日本の戦略』共著(桜美林大学北東アジア総合研究所叢書)、『CIA流戦略情報読本』共訳(ダイヤモンド社)、『成功企業のIT戦略』共訳(日経BP)、『知識情報戦略』編著(税務経理協会)など多数。

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