2024年04月18日( 木 )

東芝機械(現・芝浦機械)が買収防衛策に成功~「賛成」推奨で勝負を決めた議決権行使助言会社ISSとは何者か(後)

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社外取締役中心の経営体制を助言会社は評価

 ISSの推奨理由は、どんなものだったか。瀬戸氏の選任に対し、CEOに足る資質を評価する判断材料が十分にないことを理由に反対した。一方、暫定CEO含みの会社側の三浦善司・元リコー社長の選任には反対した。
 だが、三浦氏はリコーの業績を立て直しきれずに、17年に退いた経緯がある。瀬戸氏は工具通販大手MonotaROを創業して成長させた実績があるのにISSは考慮していない。「ISSの評価は逆でないか」と機関投資家に受け止められた。
 助言会社は、コーポレートガバナンス(企業統治)の観点から、社外取締役の独立性を重視する傾向が強い。会社側は助言会社の賛成を取り付けることを優先して候補者を選んだフシがある。

 会社側は総会前に「現任の取締役が全員退任し、全く新しい取締役会になる」「社外取締役が全体の9割」とアピールし、社外取締役が半数だった株主提案を批判した。
 社外取締役中心の経営体制に生まれ変わることを評価して、ISSは会社提案に賛成を推奨した。だが、機関投資家は、そんな「形式」に惑わされなかった。会社側の提案は、瀬戸氏の”院政”を敷く体制になることを見抜いていたからだ。ISSは実質よりも、「形式」にこだわることを露呈した。

ISSが買収防衛策に賛成したワケ

 「買収防衛策はあくまで一時的手段で、長期の継続は経営者の自己保身と解釈されかねない」。ISSは買収防衛策について、こう指摘して「反対」を推奨してきた。
 ところが、東芝機械の買収防衛策には「賛成」を推奨したのだ。旧村上ファンド系のファンドならずとも、呆気にとられたのは無理もない。

 機関投資家は買収防衛策に対して厳しい意見が多かった。特に、日本の投資家は反応が堅かった。2017年に改定された「スチュワードシップ・コード(機関投資家の行動指針)」で機関投資家は議決権の行使結果を開示しなければならなくなったからだ。
 よほどのことがないかぎり会社側の提案に賛成するのが、これまでの慣行だったが、そうもいかない。買収防衛策に賛成したのなら、かくかくしかじかで賛成しましたと、説明する責任がある。国内の機関投資家は、東芝機械の買収防衛策に反対票を投じた。

 それでは、ISSはあれほど買収防衛策に反対していたのに、東芝機械の買収防衛策に賛成を推奨したのか。

 旧村上ファンド系と全面対立するなか、東芝機械は突如、社長が交代した。2月21日、三上高弘社長が代表権のない取締役に退いた。旧村上ファンド系との対応に当たってきた坂元繁友副社長を昇格させ、あからさまな総会シフトを敷いた。
 坂元新社長は、助言会社や国内外の機関投資家に総会工作を進めた。坂元社長は、3月27日の臨時株主総会直前に、東洋経済オンライン(3月24日付)のインタビューに応じ、票読みの結果、「総会で3分の2以上をとり圧勝する」と早々と勝利宣をしている。
 外国投資家に影響があるISSが賛成を推奨したこと、村上ファンド系を除くと筆頭株主となる世界最大の資産運用会社のブラックロックグループ(約5%を保有)が賛同を表明したことを勝因に挙げた。

 ISSはなぜ、東芝機械に賛同したのか。坂元社長は、こう語る。

 〈今回の買収防衛策は、村上グループのみにターゲットを絞って期間を(6月の定時株主総会後に開かれる最初の取締役会までに)限定し、なおかつ株主総会に問うこと条件にしているからだ。例外的で一時的な対抗策であることで賛同してくれた〉

(同東洋経済オンライン)

 期間限定の買収防衛策で賛成を取り付け、村上ファンド系を撃退したというわけだ。
 だが、この攻防戦で、信用を落としたのがISSだ。それまで買収防衛策に声高に反対してきたのは何だったのか。

 LIXILグループと東芝機械でISSはミソをつけた。「あまりにも会社側に好意的すぎる。会社によって態度を変えるのか」と批判された。助言会社の推奨が疑いの目で見られるようになった。さあどうするISS――。

(了)

【森村 和男】

(前)

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