2024年04月19日( 金 )

民間再開発ラッシュ、名古屋・栄はどう変貌するのか?(前)

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 名古屋市中区にある栄地区(約9.4km)は、松坂屋、三越などの百貨店や、パルコなどのショッピング施設のほか、ルイ・ヴィトンなどの海外高級ブランド店などが集まる。中央には、100m道路で知られる久屋大通が南北に走り、東西には若宮大通が通る。これらの大通を軸に、碁盤の目のような町割りが形成され、名古屋テレビ塔や久屋大通公園といった名古屋名物も立地するなど、中部地方最大の繁華街を形成している。ところが、2000年ごろ以降、名古屋駅地区の再開発が活発化するなか、栄地区では新たなまちづくりに出遅れた。名古屋市は13年に「栄地区グランドビジョン~さかえ魅力向上方針~」を策定。久屋大通公園のリニューアルや民間再開発の促進などに乗り出した。そのおかげもあって、ここ数年、民間再開発の波が押し寄せている。栄地区はどのような変貌を遂げようとしているのか。栄の魅力を向上するうえでの課題は何か。

名古屋最大の繁華街

 栄地区は、広小路通と大津通が交差する栄交差点を中心に形成されるエリアを指す。名古屋城築城以降、商人などが暮らす城下町として始まった。明治以降、料亭や百貨店などの商業施設の立地により、繁華街を形成。戦後、100m道路の久屋大通や久屋大通公園、地下鉄、地下街などが整備された。それから現在に至るまで、名古屋最大、中部地方最大のビジネス、ショッピングの中心地として機能している。栄地区のハイライトは、久屋大通公園と名古屋テレビ塔。都会にありながら緑溢れる公園と空に伸びる高さ180mのテレビ塔のコントラストは、名古屋ならではの景観を形成している。

 2004年、名古屋市は「名古屋市都心部将来構想」を策定。名古屋駅(以下、名駅)と栄地区を「中枢管理機能と広域集客機能」の「中心核」と位置づけている。かたや新幹線を始めとする交通の要衝であり、もう一方は、百貨店やショッピング施設、飲食店が集積する繁華街という地区のカラーをもつ。どちらかではなく、それぞれが都心部のまちづくりの核だと言っているわけだ。
 両地区の位置づけは、福岡市でいえば、博多駅地区と天神地区の関係に似ている。

空から見た栄地区(名古屋市広報課フォト蔵より)

出遅れた栄の危機感

 ところが、実際の新たなまちづくりは、名駅地区が先行した。名駅地区では、1999年のJRセントラルタワーズ開業を皮切りに、大名古屋ビルヂング、シンフォニー豊田ビル、JRゲートタワー、JPタワー名古屋、グローバルゲートなど新ビルの開業が相次いだ。現在も、2027年のリニア中央新幹線開業に向けて、駅前広場の拡充や名鉄ビルの建設などのプロジェクトが進行している。

 一方、名駅地区と栄地区の間に位置する伏見地区では、「御園座タワー」(高さ150m、延床面積5万6,100m2)や、「広小路クロスタワー」(高さ約97m、延床面積約4万5,410m2)などの新ビル建設はあったものの、なかなか栄地区まで再開発の動きが波及していかなかった。名駅地区は企業所有の土地が多く、再開発が進みやすかった一方で、栄地区では地権者が多く、合意形成が進まなかったことが、再開発が進まなかった一因だったと言われている。結果的にヒト、モノ、カネが名駅地区に集まるようになり、栄地区の存在感は相対的に薄れ始めた。将来構想で「中心核」に位置づけているにも関わらず、栄地区衰退のリスクが現実味を帯びた。

名駅と双璧をなす「中心核」

 名古屋市は13年、リニア中央新幹線開業までの概ね15年間を見据えた「栄地区グランドビジョン~さかえ魅力向上方針~」を策定。「公共空間の再生」「民間再開発の促進」「界隈性の充実」の3つを方針として、まちづくりを進めることにした。名古屋市職員は「名古屋にとって栄は、名駅と並ぶ中心核の両極。栄が止まったままでは、(ヒト、モノ、カネが)東京に行ってしまうという危機感があった」と振り返る。

 「公共空間の再生」のための主な具体的な取り組みとしては、栄地区のメインストリートである広小路通や大津通での歩行者空間の形成と賑わいの創出、名古屋都心部のシンボル空間である久屋大通公園のリニューアル、地上と地下街や地下鉄駅の連続性の強化などを進める。

 「民間再開発の促進」として、容積率の緩和基準の明示化、環境アセス、地下街へのビル接続に関する条件などの緩和、建築物新築にともなう駐車場設置義務化の見直し(隔地集約化)、民間主導に合わせた公共空間などの整備、栄角地、錦三丁目にある公有地の活用などがある。

 「界隈性の充実」には、地元主体でのエリアマネジメントの実施、歩行者優先の環境整備、歴史的建造物などの資源を活かした魅力創出、ちょい乗りバスなどの交通サービスの充実による回遊性の向上などを挙げている。

栄地区のゾーニングイメージ(栄地区グランドビジョンより)

押し寄せる「再開発の波」

 10年10月、栄地区は、名古屋駅周辺、伏見とともに国の特定都市再生緊急整備地域に指定された。エリア内の容積率緩和などが可能になり、民間再開発の強力な後押しになる。この指定にともなう民間再開発第1号は「(仮称)東桜一丁目1番地区建設事業」で、NTT都市開発が取得した敷地(敷地面積約1,934m2)と隣接する既存ビルを一体的に整備するもの。高さ約96m(地上20階・地下1階など)となる新たなビルは、オフィスや店舗が入居する予定だ。低層部は久屋大通公園や地下街とのアクセスを確保し、賑わいの連続性を高める。低層部の商業施設などの公共貢献により、容積率は1,110%に緩和されている。現在、工事が進行中で、22年2月の開業予定。

 第2号は中日ビルの建替えだ。事業主体は中部日本ビルディング(株)で、設計施工は(株)竹中工務店。24年度完成予定の新しいビルは、高さ約170m(地上31階・地下4階など)、延床面積約11万3,000m2で、オフィスやホテル、商業施設、多目的ホールなどを備える複合ビルだ。容積率は約1,470%に緩和される。高層部(23~31階)のホテルについては、三菱地所(株)の100%子会社である(株)ロイヤルパークホテルズアンドリゾーツとすでに基本合意を結んでいる。

 名古屋市が(株)大丸松坂屋百貨店と共同で進める再開発案件もある。24年開業予定の新ビルの敷地は、市が所有する栄広場跡地(約1,800m2)と大丸松坂屋百貨店が栄に所有する敷地(約3,000m2)からなる。名古屋市は現在、新ビルの建設事業者を募集中で、低層階には大丸松坂屋百貨店が入居し、高層部テナントは応募中。市の所有する土地は売却される。このほか、(株)名古屋三越も高さ180mのビルに建て替える計画を明らかにしている。

 伏見地区から栄地区にかけては現在、上記以外にも再開発の動きがある。数年前までなかなか動かなかった栄のまちづくりが、急速に加速し始めた。

 「5年ほど前までは、栄の再開発はまったく動かなかったが、ここ数年、再開発の波がやっと栄にも来るようになった。再開発の波は、いろいろな要素が絡み合うなかで、ある時期からドッと一気に動き出すようなところがある」(名古屋市担当者)と指摘する。

(つづく)

【大石 恭正】

(後)

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