2024年05月05日( 日 )

手形不渡り猶予で「隠れ倒産」増加の懸念

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 全国銀行協会は4月17日、手形や小切手の不渡り処分を当面猶予する特別措置を始めたと発表した。新型コロナウイルスの感染拡大で資金難に陥った企業を救済するのが目的だ。同様の措置は1995年の阪神大震災と2011年の東日本大震災のときにも発動された。いずれも地域が限定されていたが、今回は全国的な措置となる見通しだ。

 約束手形は文字通り支払期日を約束した手形であり、支払期日までに手形を決済できないと、手形交換所から出される不渡り報告に名前が載ることになる。6カ月以内に再び手形決済ができない場合、銀行取引停止処分となるため、銀行を介した資金決済ができなくなり、事実上、商売は不可能になる。銀行取引停止処分が事実上の倒産と見なされるのは、そのためだ。

 今回の特別措置では、支払い口座に資金が不足し、手形決済が困難な場合でも、銀行が手形交換所に新型コロナの影響である旨を告げ、交換所は不渡り扱いにしないことにする。この不渡り猶予に関して企業側に特段の手続きは必要ないが、あくまで不渡り処分を猶予するものであるため、手形を所持する企業への支払い義務は残る。お金をもらう側の企業からすれば未回収の売掛債権となる。

 今回の措置で懸念されるのは、1つはモラルハザードの問題だ。企業にとって銀行取引停止処分は、とても重たい処分であり、実質的な死刑宣告だ。裏を返すと不渡りを回避するために、あらゆる手段で資金を集め決済しようとする。それが猶予されるとなれば、債務不履行への抑止力が弱まる可能性がある。もう1つは「隠れ倒産」の増加だ。企業調査会社は破産や民事再生などと同様に、銀行取引停止処分を事実上の倒産として件数にカウントする。それがカウントされないとなれば、実質的には破綻状態にありながら、倒産件数に含まれないこととなり、実態と乖離していく可能性がある。

 今後の企業の与信管理では、そうしたことも考慮しながら、取引の判断をしていく必要があるだろう。

【緒方 克美】

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