2024年10月13日( 日 )

令和ニッポンの青写真を描け~第12回白馬会議報告(1)

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白馬会議運営委員会事務局代表 市川 周 氏

 令和の始まりはどことなく明るいムードが漂っていたが、新しい時代を切り拓く明確なビジョンが示されたわけではない。『平成時代』(岩波新書)で吉見俊哉氏(東京大学教授)が「平成」は失敗の博物館と書いていたが、「失敗は成功のもと」だ。「西のダボス、東の白馬」を目指して2008年に創設した白馬会議。昨秋12回目を迎え、「令和ニッポンの青写真を描け!」(11月23~24日開催)をテーマに、北アルプス麓のシェラリゾート白馬で激論、熱論に突入した。白馬会議運営委員会事務局代表の市川周氏が自らの言葉で、白馬会議にかける思いを語る。

対米・中バランス外交の変質

川島 真 氏
(東京大学教授・中国および国際政治論)

 「米中超大国間でどうバランスをとるか?」のセッションでは、米中超大国に挟まれた日本外交の前途に青写真を向けた。報告者・川島真氏(東京大学教授・中国および国際政治論)の見立ては厳しかった。旧態依然たる米国と中国の間でバランスを取る外交は、もはや通用しないという。

 その背景の1つは、GDP規模でもテクノロジーのレベルでも、近い将来に中国に追いつかれてしまうのではないかと、アメリカが本気で危惧していることだ。同盟国としての軍事や通商の忠誠心はもちろん、米中が激突している5GやHuawei問題などのテクノロジー分野でもアメリカ陣営につくことを日本に強く求めることになる。

 さらに中国がアメリカと対峙する超大国としての存在を強めていることも、両国間の安易な仲介者的役割を日本が担うことを難しくしている。かつて世界の経済大国は、多くが民主主義国だった。しかし今世紀に入ってから、経済発展しても民主化に向かわない国が増えている。その先頭を走っているのが、中国だ。この「中国モデル」を日本は認めるのか、それとも否定するのか、国と国がつきあっていくうえで小手先の外交術だけでは対応しきれない課題が問われている。

 川島氏は、日本の対中世論にも言及した。今、「中国に親しみを感じるか」と聞くと8割以上の日本人が「ない」というが、「日中関係は日本にとって重要か」と聞くと7割以上が「重要である」と答えるという。

 パンダブームに湧き、シルクロードに憧れた1970年代や80年代の中国への親近感は薄れてしまった。だが、経済やビジネスを通じた日中関係の重要性は、否定できない。川島氏のいう日中の「成熟した関係」を、中国への対抗心を露わにするアメリカとのつきあいといかにバランスさせていくかが問われる。川島氏は、米中の間で同じように苦しむドイツやオーストラリアなどと協力して知恵を絞るべきだという。

中国化するニッポン?

金井 利之 氏
(東京大学教授・行政学および地方自治論)

 「行政とどう立ち向かうか?」を展開した金井利之氏(東京大学教授・行政学および地方自治論)の考え方は、川島氏の「中国モデル」論と驚く程に重なっていた。かつて勢いのあった「地方創生」をめぐり、社会全体をマクロ構造的に見るのではなく、どこかに成功している先進的な取り組みや、何かいい話はないかという青い鳥を期待することに多くの自治体関係者が目を奪われてしまっているという。

 自分の地域だけが勝てばいい、自分の地域に移住者を呼んでくればいい、自分の地域だけ六次産業化したらいいという話に、今や地方自治体が矮小化してしまっている。そのことが結果的には自治体間で1つのパイを取り合うゼロサム競争を招き、かつて勢いのあった「地方創生」が陥没してしまったと金井氏は見ている。

 その背景として、日本が「政治的民主主義」(個人の真の自由がなく管理・誘導された中央集権型民主主義)と経済的自由主義(競争を是とする弱肉強食型市場主義)の社会になっていることだ。まさに川島氏が指摘した、経済発展しても民主化しない「中国モデル」になりつつある点を挙げた。

 さらに金井氏は、「政治的民主主義」が「みんなで決めたことに、みんなで従うのは当たり前」という前提のもとに誘導されるという。「みんなで決めたこと」としてつくられた「正当性」がAI(人工知能)やビッグデータの力で飛躍的に「精緻」に管理されたら、「デジタル独裁」ともいえる中国型サイバー空間管理も可能になるとした。

(つづく)

※詳細報告書とダイジェスト動画を白馬会議のウェブサイトに掲載。

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