2024年04月24日( 水 )

京都オーバーツーリズム騒動~「観光立国」という危うさ(後)

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 京都市では近年、いわゆる「オーバーツーリズム」(Overtourism、観光公害)が問題になっている。ホテルの乱立、観光地や道路の慢性的な混雑などにより、市民生活に悪影響がおよぶようになったとされる。この問題は、2020年2月の京都市長選挙でも大きな争点になった。積極的な観光振興政策を推し進めた張本人である現職の門川大作市長は、選挙に先立つ19年11月、いわゆる「お断り宣言」を表明し、観光振興政策を大きく転換。何とか市長当選を手繰り寄せた。オーバーツーリズムを機に、京都市の観光振興政策はどう変わるのか。政府が進める観光立国に盲点はないのか。“コロナショック”で観光客数が激減する今、改めて検証する。

ホテル業者への締め付け強化

 京都市は19年11月、「市民との調和を最重要視した持続可能な観光都市」のための具体的な取り組みなどを取りまとめた。このなかで、「混雑への対応(観光地・市バス・道路)」「宿泊施設の急増にともなう課題への対応」「観光客のマナー違反への対応」に関する4項目50事業について、充実強化するとした。

 主な取り組みは次の通り。

【混雑への対応】
▽HP閲覧解析を通じた分散化
▽観光快適度の見える化
▽各種割引乗車券の抜本的見直し など
【宿泊施設】
▽地域との調和を図るための手続等の充実
▽民泊を含む宿泊施設の適正な運営の確保
▽企業立地マッチング支援制度の開始 など
【マナー】
▽効果的なマナー啓発
▽ごみのポイ捨て防止などのマナー対策に対する補助金の拡充

 宿泊施設の適正な運営確保のため、簡易宿泊施設であっても、地元住民に対する説明会を複数回実施することを義務化した。以前は、開業前に1回実施すればOKだった。すべての宿泊施設を対象に、自動火災報知設備の設置も義務づけた。

 京都市は、民泊施設に対しては18年6月のスタート当初から厳格な姿勢で臨んできている。住宅専用地域での営業期間は1月15日~3月15日の間のみで、事実上営業できないようにしている。無許可疑いのある施設について、市民などからの通報はこれまでに2,583件あった。市内で開業した民泊施設のうち、2,564軒がすでに廃業に追い込まれている。保健福祉局医療衛生推進室医療衛生センターでは、46名程度の担当職員のもと、違法民泊の指導などを行っている。

宿泊税42億円で観光施策を底上げ

 京都市は18年10月に宿泊税を導入した。18年度の徴収額は約15.4億円、通年となった19年度は約42億円。20年度も同額を見込んでおり、20年度予算では、一般会計を組み込み、宿泊税関連予算として90億円を計上している。宿泊事業者への補助金などの徴収コストは約2.1億円。宿泊税導入の意義について、市職員は「宿泊税はグローバルスタンダード。宿泊税を原資にプロモーションを行い、都市の競争力を高めようとしている都市は多い。京都市の観光振興は、世界の観光都市との競争という側面がある。京都市には、宿泊税を導入する必然性があった」と指摘する。

 宿泊税の使途は、京都らしい魅力の維持向上、観光客受入環境の整備、情報発信の3つを柱にしているが、事業費の内訳で見ると、混雑対策・分散化関連が36.7億円、文化振興・景観保全関連が35.7億円と大部分を占めている。新たな財源確保により、「観光施策の底上げにつながっている」(市職員)という。

過剰に取り憑かれたインバウンド熱

「京都の台所」錦市場

 日本政府は07年に観光立国推進基本法を制定し、「観光立国」政策を推進してきた。その甲斐あって、10年に年間約800万人だった訪日客数は、19年には3,000万人を超えた。特定国に依存しているとはいえ、数字の上では着実に観光立国化の道を歩んでいる。その文脈でいけば、オーバーツーリズム問題は、京都市だけでなく、日本全体の問題だといえる。日本政府の旗振りにより、インバウンドが増えた結果、主要観光都市である京都市で観光客の「芋洗い状態」が発生するようになったと考えられるからだ。

 そもそも観光立国とは何を指すのか。日本政府はおそらく、世界最大の観光客数を誇るフランスをモデルにしているのだろうが、フランスは農業大国であり、観光で食っているわけではない。観光が国家の主要産業なのは、小国や発展途上国ぐらいだ。観光で先進国入りした国家など存在しない。

 日本はここ数年、観光立国という美名のもと、「過剰なインバウンド熱」にとり憑かれてきたように思える。その熱が消え去ってみれば、「何に浮かれていたのだろう」と目が覚めるときが来るだろう。オーバーツーリズム問題は、観光立国政策が抱える危うさを我々に突きつけているのかもしれない。

(了)

【大石 恭正】

(中)

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