2022年01月25日( 火 )
by データ・マックス

京都オーバーツーリズム騒動~「観光立国」という危うさ(中)

 京都市では近年、いわゆる「オーバーツーリズム」(Overtourism、観光公害)が問題になっている。ホテルの乱立、観光地や道路の慢性的な混雑などにより、市民生活に悪影響がおよぶようになったとされる。この問題は、2020年2月の京都市長選挙でも大きな争点になった。積極的な観光振興政策を推し進めた張本人である現職の門川大作市長は、選挙に先立つ19年11月、いわゆる「お断り宣言」を表明し、観光振興政策を大きく転換。何とか市長当選を手繰り寄せた。オーバーツーリズムを機に、京都市の観光振興政策はどう変わるのか。政府が進める観光立国に盲点はないのか。“コロナショック”で観光客数が激減する今、改めて検証する。

ホテル誘致の結果、3年間で1.6万室増

 観光客の増加にともない、15年ごろから市内の宿泊施設が不足し始めた。市は17年、「京都市宿泊施設拡充・誘致方針」をまとめ、インバウンド宿泊客約440万人のために新たに約1万室が必要だと指摘。「地域や市民生活との調和」などを前提として、高級ホテルやビジネスホテルの誘致などを開始した。

 京都市が18年5月に策定した「京都観光振興計画2020+1」を見ると、受け入れ環境の整備の項目の1つに「国際的なラグジュアリーホテルの立地」がある。客単価と格式が高いラグジュアリーホテルを増やしたいという京都市の思惑は明白だ。この方針は今でも変わりはないと思われる。

 京都市内のラグジュアリーホテルには、フォーブス・トラベルガイドの格付けで5つ星にランクされる「ザ・リッツ・カールトン京都」、4つ星の「翠嵐 ラグジュアリーコレクションホテル京都」「フォーシーズンズホテル京都」などがある。日本の地方都市としては充実しているが、世界の観光地と比べるとまだ見劣りする状況だ。

 それはともかく、市のホテル誘致政策は実を結び、15年度末時点で約3万室だった市内の総客室数は、18年度末には約4.6万室へと増加した。当初必要とされた1万室を大きく上回る1.6万室が新たに確保されたわけだ。これによりホテル不足は解消されたが、逆にホテル余りが生じるようになった。つまり、図らずも「供給不足」が「供給過多」に転じてしまったわけだ。その結果、宿泊施設の稼働率が落ち、宿泊特化型ホテルを中心に宿泊料金の値崩れも始まった。

 ちなみに、福岡市内の宿泊施設客室数の推移を見ると、15年は約2.5万室だったが、18年には約2.8万室に増えている。福岡市では3年間で3,000室の増加を“急増”と形容しているが、これを基準にすれば、福岡市の5倍以上のペースで客室が増えた京都市は、“爆増”と表現するのが適当だろう。

京都市内の宿泊施設の推移(京都市観光協会資料より)

真意伝わらない「お断り宣言」

 ホテルの爆増は競争激化を招き、ホテル事業者を窮地に立たせた。さらに、観光客の増加にともなう観光地の混雑や道路渋滞などは、地域住民の神経を逆なでした。市の観光振興政策に対する風当たりが日増しに強くなっていた19年11月20日、門川大作・京都市長は記者会見でこう発言した。

 「4年前は宿泊施設不足が本市の最大の課題でしたが、今日の京都の最大の課題は、京都市の魅力と都市格が飛躍的に向上するなか、市内で働く人が増加し、京都に進出したいというスタートアップ企業などのオフィス・研究所や住宅などの必要性が大きく高まっており、これに対応していくことが本市の課題となっております。このため、私は、市民の安心・安全と地域文化の継承を重要視しない宿泊施設の参入をお断りしたいと宣言します」(記者会見資料より引用)。

 この発言について国内のメディアは、「新規参入に歯止めをかける方針を表明」「市が求める施設以外の新規参入を受け入れない考えを明らかに」「新設の抑制を目指す考え」などと報じた。政治家が、その時々の事情に合わせて、以前の政策を転換するのは当然のことであり、必要なことだ。宿泊施設が十分に足りている以上、新たな宿泊施設を断ること自体に異論はない。ただ、この発言の前段で「地域住民への配慮を欠く運営を行う違法・不適正な宿泊施設によるトラブル」に関する発言はあるが、宿泊施設の供給過多の原因に関する説明が一切ないのは、妙に引っかかる。

 地域住民と宿泊施設とのトラブルと、宿泊施設の供給過多は別の問題だ。スタートアップ企業のオフィス不足と宿泊施設を関係づける論法もおかしい。新たなオフィスが必要であれば、そのための開発を別に進めれば良いだけの話だからだ。

 門川市長のこの発言について、京都市の担当者は「京都市内に宿泊施設をオープンする際には、『地域住民とコミュニケーションをとってほしい』『安心安全に配慮してほしい』というのが真意だ」と擁護する。そうだとすれば、真意を伝えるのがあまりにもヘタということになる。

(つづく)

【大石 恭正】

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