2024年04月27日( 土 )

【筑後川河川整備】筑後川流域は1つの「まち」~持続可能な地域づくりのために

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特定NPO法人筑後川流域連携倶楽部 理事
駄田井 正 氏
(久留米大学 名誉教授/(一社)筑後川プロジェクト協会 代表理事)

(一社)九州循環共生協議会 理事・事務局長
山村 公人 氏

 1970年に久留米大学に赴任して以来、約30年にもわたって筑後川流域の地域づくりについて研究・活動してきた筑後川流域連携倶楽部の駄田井正氏と、ともに活動を続ける九州循環共生協議会の山村公人氏。地域経済学の観点から、筑後川の問題および流域の地域課題について語ってもらった。

 ――「筑後川流域連携倶楽部」が設立された経緯を教えてください。

 駄田井正氏(以下、駄田井) 私は経済学、とくに理論経済が専門なので、筑後川に関する研究をしているのを不思議に思う方もいるかもしれませんが、持続可能な地域社会を考えるうえで、筑後川流域の連携は必要不可欠です。久留米大学経済社会研究所(前身は産業経済研究所)では、この観点から長年にわたって筑後川流域の総合的な研究を続けてきました。

 筑後川流域には縄文時代末期から人々が暮らし、時には川を物資輸送の動脈として活用しながら、上下流の人々は交易してきました。ところが、高度経済成長を経てダムや堰がつくられたことにより、流域のモノや人、情報の交流が滞り、水質や河川環境が急速に悪化してしまいました。そうしたなかで、地域づくりに取り組むグループや個人との連携を恒常化するために1998年に発足したのが「筑後川流域連携倶楽部」です。

 ――どのような活動をしているのでしょうか。

 駄田井 流域全体を1つのコミュニティと捉え、「筑後川まるごとリバーパーク」「筑後川まるごと博物館」「筑後川まるごとリバーマーケット」という3つの基本プロジェクトを基に地域間連携を図っています。87年から続く「筑後川フェスティバル」の開催のほか、99年からは「筑後川新聞」(年6回、毎号2万5,000部)を発行し、4県にまたがっている流域全体の情報を発信しています。

 山村公人氏(以下、山村) 私が理事(事務局長)を務める(一社)九州循環共生協議会は、「筑後川流域連携倶楽部」の活動を受けて2016年に発足しました。「SDGs」と「地域循環共生圏」をキーワードに、地域全体で社会課題を解決する循環型の経済システムの構築を目指しています。

(左)駄田井 正 氏、(右)山村 公人 氏

 ――水害を防ぐために重要なことは、何だと考えていますか。

 駄田井 もっとも重大なのは「森」の状態です。筑後川上流域の森林は、かつて日本の三大林業地の1つとして栄えていましたが、林業が盛んだった昭和30~40年代にたくさんの天然林が伐採され、森林の多くが人工林となりました。全国の人工林の割合は6割程度ですが、筑後川上流では実に8割以上が人工林です。

 さらに、国産材で木材の需要を賄うための「拡大造林」という政策が実施され、「直根」のない植林が増えていきました。杉を始めとしたこれらの木々は、大雨などで倒れやすく、その際に根が土をかきあげて土石流となり、倒れた木とともに河川に流れ出して、氾濫の原因となっているのです。

 ――都市計画の面で、有効な水害対策はありますか。

 駄田井 過去の豪雨で甚大な災害をもたらした支流の「内水氾濫」を防ぐためには、まず「遊水地」が必要です。また、緩やかな勾配を持つ幅の広い高規格堤防「スーパー堤防」を用いた都市計画が有効だと思います。「スーパー堤防」があれば、水害の危険がある地域でも河川の氾濫に対応することが可能となります。

 筑後川流域の問題の解決には、自治体を越えた地域間の協力体制が必要不可欠です。各地域に住む人々が率直に意見を交換できる場や仕組みをつくることが、私たちのミッションでもあります。

 また、あまり知られていませんが、福岡市に供給される水の約3分の1は筑後川に依存しています。地域の大切な資源として、流域以外の住民にも筑後川の現状と課題を知ってもらえるよう、これからも活動を継続していきます。

 山村 地域連携に関していうと、昨年11月28日には、筑後川流域の自治体幹部や有識者がSDGsや流域の連携について話し合う「筑後川中流域3都市座談会」(主催:九州循環共生協議会)が開催されました。座談会では、駄田井先生が座長を務め、久留米市の中島年隆副市長、うきは市の今村一朗副市長、朝倉市環境課の松田勝久課長、環境省の担当者らが一堂に会し、水害対策や山林の保全を始め地域の共有課題についても意見を交わしました。流域全体の活動として、貴重な第一歩だったと認識しています。

 また、地域課題を解決するためには、官民が連携したSDGsの取り組みも欠かせません。現在取り組んでいるのは、放置された竹林を適切に管理し、伐採した竹を活用する「SDGsバンブープロジェクト」です。このような社会課題の解決の積み重ねの先に、筑後川流域の持続可能な発展があると信じています。

【安永 真由】

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