2021年12月03日( 金 )
by データ・マックス

“ラグジュアリーホテル”とは何か――「ザ・キャピトルホテル 東急」宿泊ルポ

「ラグジュアリーホテル」とは何だろうか。富裕層をターゲットにした「宿泊料金が高いホテル」と解して一応差し支えないだろうが、むやみに価格が高いだけでは客に相手にされず、ビジネスとして成立しない。それを成立させるためには、その価格に見合った“ホスピタリティ”(おもてなし)を提供し、ブランドを内外に認めさせる必要がある。では、ブランドとは何か。ラグジュアリーホテルといえば、由緒ある立地、立派な外観やエントランス、広い客室や宴会場、高級なレストランやバー、良質なスパやエステ、高機能なプールやジムなどが連想されるが、そういう空間はあって当たり前。必要条件であって、十分条件ではない。では、十分条件とは何か。つまるところ“人”ではないかと、凡庸ながらそう考えた。今回、「ザ・キャピトルホテル 東急」のエグゼクティブコンシェルジュと総料理長の2人の話を踏まえながら、ラグジュアリーホテルの「人づくり」などについて取材した。

「24時間休みなし」

東出 江津子さん(ザ・キャピトルホテル 東急
エグゼクティブコンシェルジュ)

 エグゼクティブコンシェルジュの東出江津子さんは、コンシェルジュサービスの責任者であり、ホテルの接客を体現する存在だ。東出さんは、コンシェルジュという仕事についてこう話す。

 「コンシェルジュとは、ホテル宿泊者がより快適に過ごせるようお手伝いをする『よろず相談係』であり、『駆け込み寺』を意味します。テレビドラマなどではコンシェルジュが1人でお客さまの問題解決に奔走する姿が描かれますが、実際はホテル内外のさまざまな人と協力連携し、ときには専門家に橋渡しをしながらお客さまの要望を満たすことに努めています」。

 日本でも広義のコンシェルジュという言葉は定着してきたが、ホテルコンシェルジュが専門職として確立されているかといえば、「まだ道半ばです」と話す。コンシェルジュ自身にも特性があり、海外のコンシェルジュは「お客さまが気づきやすいサービス」をする一方、日本人は「奥ゆかしくさりげない、静かなサービス」を得意としている。世界中のゲストからさまざまなリクエストがあるなかで、「キャピトルでは、日系のホテルであるとか、お客さまの出身国に関係なく、『1人ひとりのお客さまその方自身に合ったサービスを提供』することを目標にしています」と話す。

 ただし、「1人ひとりに合ったサービスの提供」はかなりハードルが高そうだ。この点、「コンシェルジュは『情熱』と『好奇心』がなければ務まりません。また、実際にお客さまと接する経験が不可欠です。一人前のコンシェルジュになるまでに、2~3年ではとても足りません」と話す。華やかなイメージとは裏腹に、コンシェルジュはあらゆる経験を接客に生かすために、常にアンテナを張る「24時間休みなし」という一面があるらしい。

 「海外のコンシェルジュと話をしていると、『Googleコンシェルジュが増えて困っている』という話を良く聞きます」という。

客室(デラックス キング)

 この「Googleコンシェルジュ」とは、客からの問い合わせに対し、Googleで調べたことをそのまま話すコンシェルジュのことを指す。今の時代、わからないことを“ググる”のは常識だが、それは客にとっても同じこと。ググれば手に入る情報を、わざわざコンシェルジュに尋ねる必要はない。だからこそラグジュアリーホテルでは、真のコンシェルジュの存在が付加価値になるのではないか。

 「コンシェルジュには情報を入手するだけでなく、情報を吟味・分析し、コンサルティングする能力が求められています。その能力を身につけるためには、自ら経験を重ねる必要もあるのです」と東出さんは語る。

本物と伝統の両立

曽我部 俊典さん(ザ・キャピトルホテル 東急 総料理長)

 宿泊者の外国人比率は75%に上る。その多くは富裕層だ。その一方で、宿泊せずにレストランなどを日常使いする馴染み客は圧倒的に日本人が多く、日本の政財界を代表する大物もいるようだ。ラグジュアリーホテルの面目躍如といったところだが、そのような人が満足する料理をそろえることは容易ではない。レストランを利用するのは、舌の肥えた客ばかりなので、「並の料理」ではそっぽを向かれてしまうからだ。

 「外国人向け、日本人向けの料理を高いレベルで両立することを目指しています」――と曽我部俊典総料理長は話す。「伝統の味」と「本物の海外料理」を両立させるという意味だ。そこに加え、キャピトル牛丼などの「新しい味」の追求も進める必要がある。通常のホテルレストランでは、このような難しい料理は追求しないが、「『食のキャピトル』という言葉があります。独自のメニューを展開することが、当ホテルの生きる道なのです」と力を込める。

 「キャピトル牛丼」は、新たな味を追求するなかで生まれたメニューだ。「当初は価格や提供方法を含め、ゲストに受け入れられるか不安もあった」という。提供開始から1年ほどだが、「すでにキャピトルの代表メニューになっています」と目を細める。

キャピトル客室からの朝の眺め。日本の中枢であることがよくわかる
(写真提供:ザ・キャピトルホテル-東急)

 すべての料理の味付けは、基本的に曽我部総料理長が最終チェックする。とくに「フレンチに関しては、私が求める味に調整する過程をスタッフに見せるようにしています」という。たとえば、料理は煮詰めるより薄める方が、味が際立つことがある。そういう「美味しさのレベルを上げる」方法を教えながら、チェックするそうだ。スタッフやゲストに自身が手書きした「イラストレシピ」を配っている。「私はレシピを隠しません。レシピがあっても、料理は情熱とセンスなので、同じ料理はできないですから」と笑う。

 キャピトルには約120名の料理人がおり、「料理人を育てる」ことは、総料理長として「最も大切な仕事の1つ」だ。「スタッフが年齢を重ねてもキャリアに困らないよう、自分のビジョン、考えを語れる料理人を育てていきたいと思っています」と話す。

【大石 恭正】

ラグジュアリーホテルなのに、牛丼?

 キャピトルに到着したのは、冷たい雨がそぼ降る3月上旬の平日。ロビーには、由緒ありそうな雛人形が飾られていた。1月中旬に立ち寄ったときに比べて、客数は明らかに減っていた。言うまでもなく、新型コロナウィルスの影響だ。まだ正午にもなっていなかったが早々にチェックインを済ませ、スタッフの案内の下、客室へと向かった。

 今回ブッキングした客室は「デラックス キング」。大層なネーミングが付いているが、45m2ほどのキャピトルとしてはスタンダードなクラスの部屋だ。もちろん価格もあるが、何より喫煙可能な部屋があることが決め手となった。一服しながら、障子などをしつらえた「和モダン」をしばらく愛でた後、窓に目をやると、眼下に国会議事堂やら首相官邸、通りを行き交う黒塗りの車やら警察官の姿などが――。「まさにキャピトル(国会議事堂)だな」と当たり前のことを思った。

 キャピトルの名物メニューの1つは、オールデイダイニング「ORIGAMI」が供する「パーコーメン」。瀬島龍三や安倍晋三など政財界の大物が愛した伝統の味らしい。さぞかし美味なのであろう。ところが、私が今回チョイスしたのは、パーコーメンではなく「キャピトル牛丼」だった。「ラグジュアリーホテルなのに、牛丼?」という外し方に抗しきれなかったからだ。

 「本日は佐賀牛を使用しております」。ウェイターのうやうやしい説明の後、キャピトル牛丼が出てきた。温泉卵、わさび、七味、柚子こしょうの薬味、コンソメスープ、ピクルスが添えてある。「最後はスープを入れて、お茶漬けのようにしてもお楽しみいただけます」と言われたので、その通りにした。感想としては「美味であった」の一言に尽きる。ただ1点、大盛りにしなかったことだけが悔やまれる。

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事