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2020年05月27日 10:56

危機に直面し、自らをイエス・キリストにたとえる孫正義の自信と勝負魂(1) 未来トレンド分析シリーズ 

国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

サムライ経営者・孫正義

 猛威を振るう新型コロナウイルス「COVID-19」に世界が右往左往している。日本では緊急事態宣言が解除されたが、先行きに対する不安は残ったままだ。そのため、政治家はいうにおよばず、ビジネスの世界でも冒険心や挑戦の気概を失い、立ち止まってしまう経営者が大半のように見受けられる。

 新型コロナウイルスが世界中に蔓延する状況下、トランプ大統領やプーチン大統領、そしてモディ首相や習近平国家主席の心をわしづかみにし、最近ではインドネシアのジョコ大統領からご指名で同国の首都移転計画のアドバイザーにもなるなど、「サムライ経営者」の名をほしいままにしてきたのがソフトバンクを率いる孫正義である。

 何しろ、サウジアラビアのムハンマド皇太子を魅了し、100兆円近い投資を引き出すことに成功し、その資金を基に、自らが立ち上げた10兆円を誇る「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」で新興企業に大胆な投資を重ね、運用資金の規模では世界最大を誇るまでになっていた。周囲の懸念や忠告に一切耳を傾けず、自身の直感を最優先し、リスクを取ることに躊躇しない。そんな「サムライ経営者」が、かつてない危機に直面することになった。

 その原因は、他でもない「COVID-19」というパンデミックである。世界中が都市封鎖(ロックダウン)を余儀なくされ、人やモノの移動が大幅に制限されてしまった。孫正義が重点的に投資を重ねてきたスタートアップ企業は軒並み、この「パーフェクト・ストーム」と呼ばれる異常事態に飲み込まれ、株価の急落から倒産や身売りという「想定外の運命」に翻弄されている。とくに、一時世界の注目を集めたオフィスシェアの「ウィワーク」や配車サービスの「ウーバー・テクノロジー」は利用者が激減し、公正価値が大きく損なわれた。

 ソフトバンクグループはこの5月18日、2019年度連結決算を発表した。前期は2兆736億円の黒字であったものが、今期は売上高6兆1,850億円と微増したものの、営業損益は1兆3,646億円の赤字となった。最終赤字を計上したのは15年ぶりのこと。孫正義にとっては痛恨の極みであろう。

 とくに、2019年度第4四半期(1~3月)では最終損益が1兆4,381億円となり、日本企業の四半期赤字額では、2011年の東日本大震災が影響し巨額の赤字に見舞われた東京電力の前例を超える過去最大の赤字を記録した。不名誉な記録更新と言わざるを得ない。

新規投資を「打ち止め」

 孫正義はオンライン記者会見で、「コロナの影響が世界経済を真っ逆さまに落とすまでになるとは思っていなかった。今は人類全体が大きな未曾有の危機に瀕している。また、秋とか冬の第二波の広がりがあるかもしれない。楽観はできない。先行きは誰にもわからない」と、珍しく慎重な物言いに終始した。

 そのうえで、株主に対して「配当がゼロになる可能性」にもあえて言及。曰く「従来は事前に配当方針を公表してきたが、今回は経営の選択肢として、その幅をもっておこうと思う。2019年度の44円~0円の幅をもたせたい」。これは上場以来、初めてのことである。

 しかも、新規投資については「打ち止めにする」と明言。「これまで投資してきた88社については、15社ぐらいは倒産するんじゃないかと思っている」と厳しい見通しを述べた。とはいえ、勝負魂は健在で、「15社ぐらいは逆に飛んで行って大きく成功すると見ている。その他はまあまあの状況になるだろう。飛んで行った15社が5年後、10年後には、我々の投資価値の90%程度を占めるようになるのではないか」と、強気の発言も忘れなかった。

 「ネットバブルが崩壊した時も、アリババ、ヤフーなどごく一部の企業が90%の利益を生み出した。残りは倒産したり、生きていてもまあまという状態だった。同じようなことが今回も起きるだろう」。そして、日本企業最大の赤字についても、さほど気にせず、「コロナショックは新たな時代へのパラダイムシフトを加速するに違いない」と、楽観的な見通しも明らかにした。

 しかし、内外の投資家や株主からは「大丈夫か」「周りに頼れるアドバイザーがいないのが心配だ」といった不安の声が怒涛のごとく押し寄せてきた。当然といえば当然であろう。そのため、5月18日の決算発表の直後、海外の投資ファンドを対象にしたオンライン会議を主催した孫正義は世界をあっと驚かせるような発言を繰り出した。

 曰く「あのイエス・キリストも誤解され、批判されたものだ。いくつかの企業は奈落の底に突き落とされる運命に遭遇した。しかし、そのなかから這い上がり、翼を得たように飛び上がる企業が必ず出てくる。そうなれば、企業価値は急上昇するだろう」。何のことはない、自らをイエス・キリストにたとえ、「奇跡の回復」をもたらすと予言したのである。

(つづく)


<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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