2024年04月16日( 火 )

ああ、ヤバイ、何ということだ、この中国は!~香港からの視点

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張 慈敏(香港在住フリーライター)

 4千年の歴史を誇る中国は、今や世界中から敵視される国となってしまった。新型コロナウィルスへの対応、香港への政治的弾圧・・・。「一帯一路」で世界にアピールし、アメリカに負けるものかと頑張りたかったはずなのに、いまやその夢もついえた。

 「世界を支配するアメリカの覇道政治を正すために、身を以って王道を示す」そんな大義名分すら、現政権にはない。そうしようにも、基礎的教養が欠けているのだから、どうしようもない。共産主義のなんたるか、マルクス思想のなんたるか、それも知らなければ、論語や老子道徳経の表面的な意味さえもわかっていない。

 中国が世界にアピールできるものがあるとすれば、本来なら社会主義思想、または毛沢東の理想、あるいは古きに遡って孔孟の教え、老荘の哲学であったはずだ。しかし、そうした過去の財産の有難みさえ知らないとなれば、対外的にも国内的にもお粗末な政治しかできないのは当然である。想像力も知性もいずれも現政権とは無縁である。

 習近平は政治家としてもっともとるべきでない道をとってしまった。自らの周辺を「身内」で固め、異分子を排除したことで、敵を攻めようにも手持ちの駒がなくなってしまったのだ。ブリテン島を征服したノルマン王ウィリアムズは、被征服者サクソン人の知将を抜擢して自らの顧問とし、なにかというと忌憚なく相談をしたという。相手が自分を恨んでいるのを承知のうえで、敵から見た自分というものを忘れないために、そうするのが良いと判断したのだ。彼の末裔が現在のイギリス人である。

 サクソンの知将にとって、いくら新征服者に抜擢されたとはいえ、それが屈辱でなかったはずはない。しかし、それでも顧問の役を引き受けて、それを何とかこなすことができたのは、新国王がサクソンの言語と文化を重んじ、それに適合する政治を行おうとしているのを見たからだ。

 このような賢明な支配は、朝鮮半島を支配した日本の総督府には見られなかった。「五族協和」を謳った満州国にも、見られなかった。イギリスにしても、インドを支配したとき、母国を建設したノルマン王ウィリアムズの姿勢を思い出すことはできなかった。近代と中世の違いのなせるわざか。近代人は欲張りで、賢さがなく、中国も近代化したとたん、賢さを失って欲張りになったといえるかもしれない。

 それにしても、習近平は拙劣に過ぎる。中国を世界に「大国」として君臨させたいという願望と、自らの権力の拡大とを混同してしまったのだから。しかも、「大国」とはなにか、それすら考えずに、力ずくで大きくなろうとした。国民を徹底的に管理し、すべてをトップダウンで決定して実行するというのは、これほど楽なことはないが、世界史を見れば、そのような政治が長く続いたためしはない。このままいけば、政権が大きく崩れ落ちることも十分あり得ると言わざるを得ない。

 現政権は人間を甘く見すぎている。携帯の端末を通じて10数億の国民の頭脳を統御できると思うのは、よほどの低能である。一見して統御できているようであっても、いずれ反動が生じる。生命とはそういうものだし、地殻変動にしても地球が生きているから起こることなのだ。

 国民の意識の表層であれば、一定期間統御できるかもしれない。しかし、心理学でいうように、人間は火山と同じで、抑圧が大きければ大きいほど、無意識の噴出も激しいのである。科学技術がどんなに進歩しようと、自然には勝てない。ひょっとすると、日本の戦中時代と同じで、巨大な怪物と化した中国は、自滅することを無意識のうちに望んでいるのだろうか。暴走者は自殺を望んでいるから暴走する、というではないか。

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