2024年04月20日( 土 )

創業家を軸にした社長交代のケーススタディー~サンリオ、ツルハHD、松井証券の三社三様(中)

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 トップ交代がうまくいく会社は栄える。だが、いうは易く、行うは難しとはこのこと。創業家にとって、もっとも悩ましい問題だ。創業家を軸にしたトップ交代には3通りある。1つは、創業家一族への交代。2つは、非同族から創業家への返り咲き。3つは、創業家から非同族へのバドンタッチ。この3つのパターンを考えてみよう。

ツルハHD:非同族から創業家に戻った

 ドラッグストア大手ツルハホールディングス(HD)は6月2日、鶴羽順取締役(46)が同日付で社長に昇格した。堀川政司社長(61)は健康上の理由で退任し、顧問に退いた。社長交代は6年ぶり。順氏は創業家として3代目となる同社トップに就いた。創業家への大政奉還だ。

 順新社長は鶴羽樹(たつる)会長(78)の次男。98年に北海学園大学経済学部卒業後、グループの中核企業であるツルハ(札幌市)で店舗運営の経験を積み、14年ツルハHDの取締役に昇格、そしてツルハの社長に就いた。
 ツルハHDは、地場チェーンを次々と傘下に収めるM&A(合併・買収)で規模を拡大し、利益率の高いプライベートブランド(PB)商品を大量に投入にする攻めの経営が特徴である。

 ツルハHDの歴史は樹会長の父、鶴羽勝氏が1929(昭和4)年5月、北海道旭川市に薬局「鶴羽薬師堂」を開いたのが始まり。勝氏の次男で現名誉会長・鶴羽肇氏(88)が2代目社長に就いた。
 三男の樹氏が1977年、兄・肇氏の後を継いで3代目社長に就任。ローカルドラッグストアだったツルハグループを積極的なM&Aで業界大手に押し上げた。2000年に初めて岩手県地盤のドラッグトマトを買収して以降、30件以上のM&Aを手がけた。

 当初は買収後、ツルハドラッグに看板を変え、棚割りもツルハ仕様に変えていた。転機になったのは07年5月に買収した「くすりの福太郎」(千葉県鎌ケ谷市)だ。首都圏ではツルハの名は知られておらず、知名度のある福太郎の屋号を残し、経営上の裁量権を与えた。
 北海道発祥で郊外展開のツルハと都市型出店の福太郎の相性はよかった。苦手とする首都圏への足かがりとなったこの成功体験が、その後の連邦経営につながった。
 2014年、樹氏は堀川政司氏に社長を譲った。初の非同族の社長だ。

非同族社長がM&A路線を強化

 4代目社長・堀川氏は、3代目の樹氏のM&A路線を継承し、ツルハHDの18年度の売上高を国内トップにした功労者だ。15年にレディ薬局(松山市)、17年に杏林堂薬局(浜松市)、18年にビー・アンド・ディー(B&D、愛知県春日井市)、20年に入ってもJR九州ドラッグイレブン(福岡県大野城市)と次々と同業他社を傘下に収めてきた。
 競合のマツモトキヨシホールディングス(HD)とココカラファインの経営統合が決まり、マツキヨが売上高で業界トップに立つ。

 これを受けて、ツルハHDの堀川政司社長は、『週刊東洋経済』(19年12月7日号)のインタビューで、業界再編についてこう語る。

 「ドラッグストア業界は数年以内には、3社ぐらいにまで統合が進んでいくだろう。今までは大手企業が中・小規模企業を買収していたが、これからは大手企業が、同じく大手を買収していく。
 ツルハに限った話をすれば、M&Aの提案が絶えない。実感としては、今まで以上のスピードで統廃合が進んでいくように感じている」

 ドラッグストア業界はコンビニエンス業界のように3社に集約されるという見方だ。堀川氏が想定しているのは、ツルハHD、ウエルシアホールディングス、マツキヨHDの3社であろう。
 堀川氏はやる気満々だった。ところが、突然、社長を退任した。健康上の理由というのを額面通り受け取る向きは皆無だろう。なぜ、経営のバトンが創業家に戻ったのか。

コロナ禍でインバウンド需要がゼロになる

 最大の理由は、新型コロナウイルスの感染拡大によるインバウンド向け需要の急減だ。
 「インバウンド(訪日外国人)はゼロと考えるしかない」。ツルハHDの堀川政司社長(当時)は、メディアにこう語っていた。
 売上高のインバウンド向け比率は10%強あった。中国人に人気の化粧品は一時、前年同期比2ケタの増収となったほどだ。インバウンド向け売上は19年5月期に800億円程度であったが、21年5月期にはインバウンドがゼロになり、同程度の減収を想定した。それを補うために、JR九州ドラッグイレブンを買収した。

 新社長に就いた創業家出身の順氏の経営のスタンスは、堀川氏とは180度異なる。順氏は、日本経済新聞電子版(6月10日付)のインタビューで、こう語っている。
 「グループシナジーの追求だ。複数のM&Aの結果、グループ全体で取り組むことと事業会社がそれぞれ取り組むことの境界があいまいになっている。プライベート(PB)の導入率は店舗によってばらつきはあるが、導入率を100%にしたい」

 ツルハHDの特色だった買収した企業に経営の裁量を認める連邦経営から決別する。放任主義を捨てて、利益率が高いPB導入率100%に高めて、コロナ危機を乗り切る。M&Aに前のめりだった堀川氏と異なり、経営力を強化する考えを示している。
 ポスト・コロナに向けての堀川氏と創業家との違いが、創業家への大政奉還をもたらしたといえそうだ。

(つづく)

【森村 和男】

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