2024年04月19日( 金 )

新型コロナ後の世界~「将棋」を通して俯瞰する!(4)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

棋士九段・日本将棋連盟常任理事 森下 卓 氏

 「新型コロナウイルス」後の世界は一変し、先が見えない時代が到来するといわれる。しかし、先が見通せないからと言って、不安になってばかりいては、私たちは前に一歩も進むことができない。今後の羅針盤となる、何か良い知恵はないものだろうか。
森下卓・棋士九段・日本将棋連盟常任理事に話を聞いた。陪席は山川悟・東京富士大学教授(経営学部長)である。山川氏はマーケティング論が専門だが、一方で詰将棋作家としての顔をもつ。東京富士大学は正規科目として「将棋」を開講している。

判断力・構想力・忍耐力などのソーシャルスキルを育成

 ――山川先生の大学では「将棋」を正規科目として採用していますね。

 山川 東京富士大学は、経営学部のみの単科大学です。学生が社会で必要な経営学の専門知識に加えて、いわゆるソーシャルスキル(対人関係における目標を達成するために、適切かつ有効な技巧・行動・思考の総称)を身につけてもらおうとするのが基本方針で、それを「実務IQ教育」と呼んでいます。

 このソーシャルスキル育成への1つの手段として「将棋」を導入しました。日本将棋連盟より堀口弘治七段をご推薦いただき、客員教授としてご指導をいただいております。学生には、将棋を通して、判断力、構想力、柔軟性、忍耐力に加え、礼儀作法などの習得も期待しています。

詰将棋を通じて、暗算力・空間認識力・根気を養成

 ――先生は「詰将棋」作家でもあります。

伊藤看寿の611手詰作品「寿」
(作品集「将棋図巧」に第100番として所収)

 山川 詰将棋は将棋の最終盤の局面をとり出して、相手の王将を詰ます手順を考えるパズルです。3手詰めや5手詰めのほか、長いものには数百手を超える作品もあります。ちなみに先に名前の出た伊藤看寿は、611手詰めを250年以上前につくっています。テーマのある作品や、アートといえるような作品もあり、日本が誇る最高峰の創作文化の1つだと思っています。この詰将棋を解くことによって読みの能力(暗算力)や空間認識力が養われますし、作るに際には論理性や創造性が求められるというわけです。

 森下 詰将棋の正解は1つで、そこに至る道筋も1つでなければならず、途中で枝分かれすることは許されません。相手の王将を詰んだ時に、自分の持ち駒を余らしてもいけません。歩1枚でも余っていれば不完全作品となります。プロ棋士も活用しており、活用の仕方(根気力、対応力などを鍛える)は、棋士により様々です。私は毎日、野球でいえば、トスバッティングのように「詰み」のパターンを覚えるための訓練に活用しています。

 将棋の読みは、「自分がこう指せば相手はこうくるだろう、そこで自分はこう指そう」という「三手読み」が基本です。この場合、重要なのは、「相手が指すだろう、自分にとって一番嫌な手を読み切る」ことです。

(つづく)

【金木 亮憲】


<プロフィール>
森下 卓(もりした・たく)

 1966年北九州市生まれ。将棋棋士(九段)・日本将棋連盟常任理事。花村元司九段門下。タイトル戦登場6回、棋戦優勝8回、竜王戦1組16期、順位戦A級10期。居飛車党の正統派で受けの棋風。森下システムを考案し、升田幸三賞特別賞を受賞。棋界の超大御所、大山康晴十五世名人に対し無類の強さを発揮し、通算成績は6勝0敗(大山が生涯一度も勝てなかった唯一の棋士)。優勝は、全日本プロトーナメント1回(第9回-1990年度)、日本シリーズ2回(第28回-2007年度・第29回-2008年度)など多数。将棋大賞として、2000年に将棋栄誉賞(通算六百勝達成)、2010年に将棋栄誉敢闘賞(通算八百勝達成)を受賞。
 著書に『将棋基本戦法 居飛車編』(日本将棋連盟)、『8五飛を指してみる本』(河出書房新社)、『森下の対振り飛車熱戦譜』(毎日コミュニケーションズ)、『なんでも中飛車』(創元社)など多数。


山川 悟(やまかわ・さとる)
 1960年東京都生まれ。法政大学法学部卒。東京富士大学教授(経営学部長・学務部長・経営学研究所所長)。広告会社のマーケティング部門において、広告・販売促進計画、ブランド開発、商品開発などに携わり、2008年より現職。専門は、マーケティング論、創造性開発(企画力育成、事業モデル開発支援など)、コンテンツビジネス論。武蔵野美術大学講師。
 著書に『応援される会社』(光文社)、『コンテンツがブランドをつくる』(同文館)、『不況になると口紅が売れる』(毎日コミュニケーションズ)、『創発するマーケティング』(日経BP企画)、『事例でわかる物語マーケティング』(JMAM)、『企画のつくり方入門』(かんき出版)などがある。
 詰将棋作家としての作品にスマートフォンアプリ「山川悟の詰将棋1~3」(空気ラボ)。

(3)
(5)

関連記事