2024年03月29日( 金 )

【少年サッカー/動画】団結力で新型コロナ禍を乗り越える 糸島市・ZYG FC

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

新型コロナ禍で少年サッカーの公式戦はすべて中止

とにかく笑顔!の低学年グループ

 新型コロナ禍は、子どもたちの生活にも大きな影響を与えている。3月2日夕に突然発表された全国一斉休校や4月7日の緊急事態宣言による休校延長など、遊びたい盛りの子にとっての「巣ごもり」要請は、大人が感じたものとは違う意味でのストレスを与えていた

 長い地域では3カ月間にわたって学校に通えない、外に出られない期間が続いた。目に見える影響では、入学式の中止や学校のカリキュラムの遅れなど、友だちと会えないことによるストレスも大きく、学校が再開してからも継続的なケアが必要とされている。

 課外スポーツの影響も深刻だ。中学・高校では部活動の全面禁止期間が長く続き、インターハイや春・夏の甲子園大会中止が決まったことなど、ほんの半年前まではまったく予想もしなかった事態に子どもたちは振り回されている。緊急事態宣言解除後は段階的に部活動を再開する動きはあるものの、選手間密着度の高いラグビーではスクラムやタックルが禁止され、ほとんど練習にならない状況だ。

 小学生の放課後の過ごし方も大きな影響を受けている。小学生の課外スポーツで、野球を抜いて最も競技人口の多いサッカーは、公式戦が軒並み中止されており、最終学年の6年生にとっては寂しいシーズンの始まりとなった(サッカー=約14万人、軟式野球=約13万人/2016年調査)。

ギャグセンスも洗練されてきた、高学年グループ

 福岡県内で行われる少年サッカー(第4種/12歳未満)も、3月以降の公式戦がすべて中止された。クラブや少年団での練習も3月以降は休止になり、民間のサッカースクールはオンラインで練習メニュー動画を配信するなどして子どもたちのサッカー離れを何とか防いでいた。

 5月中旬からは練習を再開する動きが広がり、今ではなるべく間隔を空けて練習するなどの感染防止策をとりながら、ほぼフルメニューの練習ができるまでにこぎつけている。リーグ戦などは6月から再開する予定で、練習試合や公式戦の日程も徐々に決まりつつある。9月には全日本大会の予選が始まる予定だ。

ZYG監督はコネなし選手実績もなし~熱意と研究で福岡県2位の強豪チームに

笑顔の絶えない低学年部。
大人顔負けのテクニックをみせる子も

 糸島市の少年サッカークラブ「ZYG FC」も、コロナ禍の影響で4月2日以降は全体練習ができない日が続いた。全体練習が休止期間中は選手個別に具体的な課題を出し、ボールを正確にコントロールする技術を中心に「個」としての力を高めることに力を置いた。

 ZYG FCは創部11年目の新しいクラブだが、昨年の全日本U-12サッカー選手権大会の福岡県大会で準優勝するなど、県内はもとより九州全域で知られる強豪チームに成長した。チームを率いるのは尾嶋徹監督(48)。プロ歴や強豪校での競技歴はないが、サッカーに対する熱量と子どもたちに注ぐ愛情は誰にも負けないと自負する、いまどき珍しい「熱い」男だ。

高学年の練習は、手加減なしの真剣勝負

 ZYG FCの特長は、各種大会で安定した成績を残すチームとしての成熟度とは別に、育成能力の高さにある。サッカー界では近年、プレイヤーファーストを基に、ジュニア(小学生)からジュニアユース(中学生年代)を経て、ユース(高校生年代)やトップチームへとそれぞれの年代で身に着けるべき技術や戦術眼を育成することがスタンダードになっている。その年代ごとに大会で結果を出すことを求める苛烈な勝利至上主義をサッカー協会としては排したい考えだが、子どもたちが「勝つ」ことで成長するのも事実。現場の指導者たちは勝利と育成のはざまで揺れている。

 小学生世代(ジュニア)は「ゴールデンエイジ」と呼ばれ、一生のうち技術を最も習得しやすい時期とされる。同時に体格差や体力差が生まれやすい時期でもあり、そこに過剰な勝利至上主義を持ち込むと、「大きくて、うまくて、速い子」をそろえたチームが容易に勝ち上がる傾向が強くなる。だからこそ、ZYG FCのようにセレクションなし(希望者は全員入部できる)で育成に力点を置き、しかも試合に強いチームは非常に珍しい存在なのだ。

糸島から全国へ~ニューリーダー・尾嶋監督

練習中は子どもたちに声をかけ続ける
尾嶋監督

 尾嶋監督はクラブ運営の理念に「育成中心」を据えるものの、それでも「勝利」が子どもたちにとって何物にも代えがたい成長の糧になるとも信じている。子どもたちには可能な限り大きな舞台を踏ませてあげたいと考えており、出場が叶うならば大会を求めて東へ西へ、遠く静岡まで遠征することもある。静岡の大会では全国の強豪チームが集まったなか、互角に渡り合って予想以上の好成績をおさめた。

 ZYG FCの理念、育成方針は、「1. Enjoy Football、2.チームワーク、3.リスクを恐れない、4.ベストをつくす、5.感謝の気持ち」の5つ。少年サッカーでは、以前は制限されていた選手の移籍が自由になったため、勝つことを目標にすれば他チームの「大きい、速い、うまい」子に声をかけて自チームに移籍させることも、珍しくはなくなった。しかしZYG FCでは選手の引き抜きはもとより、選抜試験(セレクション)も行わず、来るものを拒まず、去るものを追わず、を徹底している。その育成方針に賛同する親子は多く、福岡市の東の端・宇美町や久山町(糟屋郡)などの遠方から糸島まで毎週通わせている親子もいるほどだ。

 じつは尾嶋監督は5年前に胃がんを発症して胃の全摘手術を受けている。強健だった自慢の身体はやせ細り、体重は20キロ近く落ちて一時期は家族との別れを覚悟した時期もあった。いまは子どもたちのサッカーにかかわれることの幸せをかみしめるとともに、昨年の県大会準優勝を経てZYGが新たなステージに入ったことも実感している。

 「ようやく、Jクラブのジュニアユースやサッカー強豪高の中学部から『ぜひZYGの選手を送ってほしい』と声をかけられるようになりました。うちの育成方針をきちんと見ていただいてること、そして子どもたちの将来性を評価していただいたのだと思います。信じてついてきてくれた子どもたち、保護者の方々、コーチ陣に感謝しています」(尾嶋監督)

 尾嶋監督は、「純粋にプレーを向上させ、選手として成長したいのならJクラブに進むことが最良」と考えている。レベルの高い仲間と競争できること、中体連や高体連チームとは比べものにならないほど練習環境が充実していることなど、プレーヤーとして伸びる要素は間違いなくクラブチームに分があるからだ。

 もっとも、最近は熱心に声をかけてくるサッカー強豪校も出てきているため、ZYG FCからサッカー強豪高の中学部に進むルートも生まれそうだ。過去5年で冬の全国大会を2度制覇している青森山田高を筆頭に、九州では宮崎の日章学園や鹿児島の神村学園など、近年の高校サッカーは付属中学校からの6年一貫指導で選手を育てるのが主流になりつつある。中体連で実績を残したうえで、ユース年代が最も憧れる高校生の全国大会「冬の選手権」制覇という夢。その夢の供給源としてZYG FCが存在感を増すことができれば……尾嶋監督の夢は広がる。

 糸島から全国へ、日本代表へ。そのはるか先に見えているのは、海外ビッグクラブのエンブレムだ。ZYG FCのマスコット、天駆ける「ユニコーン」のように広い世界に飛翔する選手が出てくるまで、尾嶋監督のサッカー中心の生活は終わりそうにない。

【データ・マックス/スポーツ班】


ZYG FC - データ
【練習日】火曜日、木曜日、土曜日
【練習場所】火曜日は福岡市東区のフットサル場、木・土は雷山運動公園
【卒部生進路】Jクラブ下部組織に6人、ほか県内強豪クラブチームに多数
Jクラブ実績=アビスパ福岡、サガン鳥栖、セレッソ大阪

※練習グラウンドを提供してくれる企業、個人や、チームのスポンサーも募集中
入部や体験入部の申し込みはZYG FCのHPから
https://zygfc.web.fc2.com/

関連キーワード

関連記事