2024年04月21日( 日 )

コンパクトシティ・福岡 4つの高級住宅街の特徴(1)

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富裕層を魅了し続ける高級住宅街とは――

 格式高く瀟洒な大豪邸が立ち並び、ハイソな富裕層が優雅に暮らす、喧騒とは無縁の閑静な住宅街―――。それが、多くの人々が思い描く「高級住宅街」のイメージだろう。日本各地の大都市近郊に形成されていることが多く、有名どころとしては、東京の田園調布や白金、南青山、成城、横浜の山手町、兵庫の芦屋などが挙げられる。

 一口に高級住宅街といっても、実は明確な定義があるわけではない。不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行うに当たっての基準などを定めた「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」(国土交通省作成)のなかで、住宅地域を4つに細分化したうちの1番目に挙げられている「敷地が広く、街区及び画地が整然とし、植生と眺望、景観等が優れ、建築の施工の質の高い建物が連たんし、良好な近隣環境を形成する等居住環境の極めて良好な地域であり、従来から名声の高い住宅地域」が、いわゆる高級住宅街のことだといって差し支えないだろうが、これも基準は漠然としており、厳密な指標は定められていない。

 なかには、兵庫県芦屋市の「六麓荘町」のように、市が「敷地面積400m2(121坪)以上」「用途は2階建以下の一戸建個人専用住宅のみ」「建物の高さは最高10m、軒の高さは7m以下」「営業行為は一切禁止」などの独自の建築条例(通称:豪邸条例)を設けているところや、自治会の定めた「成城憲章」の下で「低層住宅地の保全(高さ10m以下)」「敷地の細分化の制限(敷地面積250m2以上)」などの街の景観やブランドの維持に努めている東京都世田谷区の「成城」などの例もあるが、全国各地の多くの高級住宅街で、必ずしも明確な基準があるわけではないようだ。

 では、高級住宅街を高級住宅街たらしめているのは何だろうか。高級住宅街の共通項を列挙してみると、「景観の良い高台にある」「喧騒から離れた閑静な場所」「治安が良い」「一戸の区画が大きい」「歴史があり、古くから地元の名士が住んでいる」「教育環境が良い」「道路インフラが整備されている」「周辺の住環境が良い」―――などが挙げられる。

 これらも高級住宅街を構成する要素ではあるが、とくに重要なのは「歴史がある」ことと「ブランドイメージ」だろう。古くから長い年月をかけてブランドイメージを磨き上げてきた高級住宅街は、歴史と伝統に裏打ちされた一種の品格をもち、そこに自宅を構えているというだけで社会的信用を得られることさえあるだろう。そこに住むこと自体が一種のステータスであり、その価値は容易に色あせることなく、圧倒的な存在感で富裕層を魅了し続ける―――。それこそが、高級住宅街が高級住宅街たる由縁だ。

 そうした高級住宅街の成り立ちには、大きく分けて2つのパターンがある。まず1つ目は、「歴史がある」という点にも重なるが、江戸期に大名屋敷などが立ち並んでいた場所が起源となっているパターンだ。こうした場所では「大名が住んでいた」というステータスのある土地として、明治期以降に富裕層がそこに次々と豪邸を建てることで、自然と高級住宅街として発展。東京の麻布や白金、松濤などはこのパターンに当てはまる。

 もう1つは、明治期以降に“意図的に”高級住宅街としてつくられたというパターンだ。たとえば東京都大田区の田園調布は、大正期に実業家・渋沢栄一らによってアメリカ・サンフランシスコ郊外の高級住宅街「セント・フランシス・ウッド」やパリの凱旋門のエトワール式道路をモデルに、理想的な住宅地「田園都市」の開発を目的としてつくられた高級住宅街だ。

 ヨーロッパの街並みを再現した画期的な都市計画は多くの人を惹きつけ、文化人・政治家などの邸宅も多く、今でも田園調布に住むこと自体が高いステータスとなっている。このように、計画的に緑地や広場、広い道路などを整備したうえで、一戸の区画を広めに確保した富裕層向けのベッドタウンとしての住環境を整えることで、意図的に高級住宅街をつくり上げていくパターンもある。

 ただし、千葉市緑区あすみが丘の「ワンハンドレッドヒルズ」(通称:チバリーヒルズ)のように、バブル期に1戸あたり数億円から数十億円の超高級住宅街として開発されたものの、交通の便が悪いことやバブル崩壊などの要因で、販売開始から30年以上経った現在も売れ残っているようなケースもある。意図的に高級住宅街をつくるのも、そう簡単ではないようだ。

 では、福岡市内における代表的な高級住宅街は、どうだろうか。

【坂田 憲治/代 源太朗】

(つづく)

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