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2020年07月02日 14:31

【特別寄稿/西田亮介】冗長性の欠如がもたらしたもの 「民意」に揺さぶられるリスクマネジメント(後)

東京工業大学 准教授 西田 亮介

飽和する情報、届かなかった原理原則

 先の世界的な新型インフルエンザや中東呼吸器症候群の感染拡大は、日本においては限定的なものにとどまった。そのような背景もあって、感染症拡大は日本では稀な事態であり、さらに店舗や学校が長期間にわたって閉鎖され、社会、経済生活に顕著な影響がおよんだことで人々は大きな不安を感じたはずだ。

 不安感は不満となって顕在化する。向かった矛先の1つは政治だった。並行して、感染状況のみならず、制度や対処が違う他国の部分的な状況がマスメディアとSNSを介して人々に届けられたことで、ますます不満は高まった。

 新型コロナウイルス感染症感染拡大直前までは、歴代最長政権となり、「安倍一強」と呼ばれた現政権だが、強い揺さぶりを受けている。各社の世論調査では軒並み内閣支持率が低下し、不支持率と接近するか調査によっては後者が前者を上回っている。

 確かに政治と行政の発信には多くの課題が残されている。近年改善傾向にあるとはいえ、明らかにインターネットやSNSでの迅速な広報の視点は乏しかったし、公表される資料の見せ方や可読性、わかりやすさにも問題があった。何より政策の原理原則が見えず、政府に説得の姿勢も乏しかった。改善は必須だ。

 しかし注意すべきは、やはり前述の「耳を傾けすぎる政治」である。良くも悪くも日本社会は政治や行政にさほど関心を示していなかった。そのため政府資料や発表の読み方(リテラシー)に課題も残る。人々は不満を政府に表明する権利を有しているが、同時に間違えたり、誤解したりすることも少なくない。そのとき「耳を傾けすぎる政治」を具現化する政府や首長の選択が好ましいとは限らないことは繰り返すまでもあるまい。

削ぎ取られる「冗長性」

西田 亮介 氏

 新型コロナウイルス感染症が日本社会と政治を変えるか否かは、生活変容の期間の長さ次第ではないか。たとえば選挙運動や投票は不急不要にはあたらない(≒重要である)とされている。短期間で終わった場合には緩やかに平時に戻り、長期化する場合には例外事項が恒久化していくイメージだ。

 コロナ禍において、政府と都道府県知事が「自粛」を「要請」したことで、強い総動員的自粛の空気が生まれ、市民生活、経済生活、文化生活に多くの行動変容が生じたし、そうせざるを得なかった。ただし、これらが恒久化して定着するには、今回の実質的な自粛期間は短かったのではないか。蓄積した不満と、コロナ以前を懐かしむ風潮は緊急事態宣言解除後、非日常を忘却させてしまう印象だ。非日常を恒久化するには、年単位の制約が生じ、不可逆的にそうせざるを得ない状況が必要ではなかったか。

 現状、世界と比べて、総じて死亡者は少なく、失業率も顕著な増大を示しておらず、倒産件数も同様だ。いずれも好ましいといえる。アフターコロナに向けて、正確に日本型社会の良い点を残し、課題を克服していく作業が求められている。このとき不安に付き動かされる民意と「耳を傾けすぎる政治」の誘惑を排して、新しい社会と政治の構想を創意工夫できるかが問われている。

 1970年代末ごろから、ムダ取り、行財政改革、グローバル化の名の下に、社会と政治の冗長性を排除してきた。冗長性は緊急時の資源組み換えやイレギュラーな対処を容易にする。IT業界でもその確保が配慮されるが、日本社会はそれらを削りすぎてきたのではないか。過剰ダイエットによって、基礎的な体力が損なわれているようにも見える。現代的な機能する冗長性はどのようなもので、いかにして可能か。懸念される第2波、第3波に備えながら、こうした中長期を射程に入れた議論が行われるなら、それが日本社会にとっての新たな希望となるはずだ。

(了)


<PROFILE>
西田 亮介
(にしだ・りょうすけ)
東京工業大学准教授。博士(政策・メディア)。1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。同助教、(独)中小機構リサーチャー、立命館大特別招聘准教授等を経て現職。専門は社会学。『メディアと自民党』『マーケティング化する民主主義』『無業社会』等著書多数。その他、総務省有識者会議、行政、コメンテーター等でメディアの実務に広く携わる。

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