2024年05月08日( 水 )

傾斜マンション、JR九州・若築建設は杭長不足のみ謝罪(前)

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 福岡東区の分譲マンション「ベルヴィ香椎 六番館」(以下、六番館)の杭施工不良に関する調査が終了し、販売会社である若築建設(株)・JR九州・福岡商事(株)の3社が21日、住民側に謝罪したという報道があった。若築建設ら販売会社は、どこまでの瑕疵を認めたのか、さらに建物が本来有すべき性能を取り戻すことは可能なのか、このマンションの不具合を指摘していた協同組合ASIO代表理事の仲盛昭二氏の意見を聞いた。

 ――六番館の基礎杭の調査において、「25本の杭のうち8本が支持層に届いていない」という結果について、若築建設らが改めて謝罪しました。

 仲盛 支持層に届いていない杭の下部分や周囲を固めるという方法は考えられますが、法的に担保できる補強工事は不可能であり、解体・建替え以外に方法がないため、とりあえず謝罪したということでしょう。そのうえで、開閉が困難な扉の修理や傾斜した部分を平らに補修するなどの応急処置を行い、終了にする予定かもしれません。

 これは、一度謝罪をしておけば、それ以上追及をされないことを狙う、マンション販売業者やゼネコンの常とう手段で、時間の経過とともに風化するのを待つつもりだと考えています。

 ――以前、仲盛さんが指摘されていた「構造スリットの未施工」や「構造計算書」の問題については、若築建設らからの説明はなかったようです。

 仲盛 若築建設が謝罪したということですが、「基礎杭の杭長が短かったこと」についてのみの謝罪であり、「構造スリットが施工されていないこと」(現行犯)には触れられていません。構造スリットが施工されていないことは、六番館だけではなく、他の棟にも共通している重大な問題です。

 五番館・七番館・八番館なども含めて、構造スリットの施工状況を調査し、図面通りに是正工事を行わなければ、大地震が発生したときに、建物に大きな被害を与えます。私は、構造スリットの問題を何度も提起してきました。しかし、管理組合は私の提起に耳を貸さず、六番館の基礎杭の長さの問題のみで、不具合への処置を終わらせようとしています。

 ベルヴィ香椎の欠陥に関する紛争には、20年以上もの時間を費やしています。目ぼしい進展もないまま、法的に責任を追及できる期間(除斥機関)が過ぎてしまったため、販売側・施工側にとって逃げ切りやすい状況となりました。
 このマンションの欠陥は本来であれば解体・建替えが必要な欠陥ですが、業者側は応急処置のみで終わらせようと考えて、謝罪をしているのです。業者側の意見が通らなければ、最終的には除斥期間を理由として逃げることができます。除斥期間を迎えるまでに解決できず、除斥期間を過ぎてから「謝罪を受けた」といって喜んでいる場合ではないと考えています。気づかないうちに、業者側の思惑通りに進んでいるのです。

 なぜ、「構造スリットの未施工」を問題にしないのか、なぜ、六番館以外の棟については触れないのか。私の目には、六番館管理組合が、相手の最大の弱点を意図的に避けているようにしか映りません。

 ――仲盛氏が「構造スリットの未施工」や「構造計算書」の問題を指摘されたのは、どのような経緯からですか?

 仲盛 昨年末に、六番館の特別理事から相談を受けました。杭長の調査は、実施する予定とのことでした。構造スリットが図面通りに施工されていないことや、構造計算において、柱梁接合部の検討が行われていない可能性が高いことは容易に想像できたため、六番館以外にもかかわる重大な問題として、調査をした方がいいと進言しました。

 その後、五番館以降に建設されたすべての棟は、図面に明記された構造スリットが施工されていないと、特別理事から聞きました。私は、「六番館以外の棟の区分所有者のためにも、若築建設らに対して、構造スリットと構造計算の問題をぶつけるべきだ」と提案しました。しかし、どういうわけか、六番館管理組合・特別理事の佐々木氏や調査に関与した岩山建築士は、杭長のみを調査し、若築建設と交渉を進めています。

 ――傾斜が問題となっている六番館ですら、構造スリットの調査は行われておらず、基礎杭の長さの調査のみだったようです。若築建設ら販売会社は、構造スリットの調査を行わず、六番館の基礎杭の補強のみで処置を終わらせるつもりでしょうか。

 仲盛 六番館の構造スリットの調査を行うと、他の棟でも調査が必要になるため、若築建設らは、同調査を避けたいと考えていたはずです。本来であれば管理組合側が、全棟の構造スリットの調査も強硬に申し入れるべきでした。

 六番館の基礎杭の調査のみにとどまったことは、六番館管理組合と若築建設の間で何らかの理由があったと考えられます。しかし、若築建設の意向に沿って決着をつけることは、六番館などすべての棟の区分所有者のためにはなりません。この結論を、区分所有者が異論もなく受け入れていることは、客観的な立場の私から見ると不思議でなりません。

(つづく)

【桑野 健介】

(中)

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