2024年04月25日( 木 )

「新型コロナ」後の世界~健康・経済危機から国際政治の危機へ!(3)

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東京大学大学院法学政治学研究科 教授 小原 雅博 氏

 新型コロナウイルスはイデオロギーもルールも関係なく、国境や民族を越えて人類を襲った。そして今、コロナ危機は健康、経済から国際政治や外交、安全保障の領域にまで拡大している。
 東京大学大学院教授の小原雅博氏は近著『コロナの衝撃―感染爆発で世界はどうなる?』(ディスカヴァー携書)で「危機はこれまでは、国家や民族意識を高めてきたが、今の私たちは監視社会でない自由で開かれた社会を築くと同時に、感染症に屈しない強靭な社会を築かなくてはいけない」と述べている。小原氏に新型コロナ後の世界について語ってもらった。

中国体制は意外とうまく機能?

 小原 中国では強権を発動して7.6億人を、一定の場所に居させて、外出・旅行を禁ずる「禁足」にして、検疫・監視体制を全国民に課しました。当初は政府への批判が多く、今も政府への批判はあると考えています。しかし、今では中国国民も欧米の混乱を見て、「我が国は武漢市当局の隠蔽などによって初動の遅れはあったが、党中央が強力に動いたことで、社会的な危機は乗り越えつつある」と感じているようです。

小原 雅博 氏

 確かに、欧米先進諸国と中国の新型コロナウイルス感染者の統計を比較すると、「おや、うちの体制は意外とうまく機能しているのではないか」と感じても不思議ではありません。7月18日時点での感染者数では、アメリカは約364万人、英国は約30万人、中国は約8万5,000人。死者数では、アメリカは約13万人、英国約4万5,000人、中国は約4,600人です。

 この結果、中国国民の政府への評価にも変化が起きているようです。監視社会や統制強化への不安や反発はありますが、一方で、中国モデルへの評価が高まっている気がします。中国の権威主義体制そのものに対する評価よりも、むしろアメリカに代表される民主主義モデルの評価の低下や中国でのナショナリズムの高揚といった側面が強いように感じています。

資本主義と民主主義はコインの裏表か

 ――ご著書の『コロナの衝撃―感染爆発で世界はどうなる?』のなかで、中国メディアが流した「資本主義国家は資本に責任を負うが、社会主義国家は社会に責任を負う」という論評が、鋭い指摘だと感じました。

 小原 この言葉はあくまでも中国共産党の政治的プロパガンダ、言葉遊びであり、額面通りに受け取る人は少ないでしょう。しかし、資本主義の本質は資本に責任をもつことだという指摘は、ある意味では的を射ています。

 たとえば、リーマン・ショックによる世界金融危機でも指摘された「強欲の資本主義」はまさにそうでした。今日のアメリカ経済を支えているのは、GDPの3分の2を占める「投資」ですが、それを可能にしているのが、株や債権が生み出す不労所得です。つまり株価の上昇に過度に依存する体質で、実体経済への投資を怠り、株式市場の貪欲さに引きずられてきたのです。アメリカ経済は、今やデジタル化と金融工学によって過剰に仮想化されていて、金融自由化と債権流動化のなかで生まれた「最大の産物」であるデリバティブにより、空前の資産バブルです。

 「香港問題」の背後には、資本主義と民主主義・自由はコインの裏表のように一対の関係なのか、あるいは、株式市場が「欲深さ」によって動くように、資本主義は「お金さえ儲かれば、民主主義や自由という価値は問題にしない」イデオロギーなのかという疑問が隠されています。「西側」はこの疑問にどう答えるのかということです。

(つづく)

【金木亮憲】


<プロフィール>
小原雅博
(こはら・まさひろ)
 1980年東京大学文学部卒業、1980年外務省入省。1983年カリフォルニア大学バークレー校修士号取得(アジア学)、2005年立命館大学にて博士号取得(国際関係学:論文博士)。アジア大洋州局参事官や同局審議官、在シドニー総領事、在上海総領事を歴任し、2015年より現職。立命館アジア太平洋大学客員教授、復旦大学(中国・上海)客員教授も務める。
 著書に『日本の国益』(講談社)、『東アジア共同体―強大化する中国と日本の戦略』、『国益と外交』(以上、日本経済新聞社)、『「境界国家」論―日本は国家存亡の危機を乗り越えられるか?』(時事通信社)、『チャイナ・ジレンマ』、『コロナの衝撃―感染爆発で世界はどうなる?』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本走向何方』(中信出版社)、『日本的選択』(上海人民出版社)ほか多数。
 10MTVオピニオンにて「大人のための教養講座」を配信中。

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