2024年04月20日( 土 )

「あいまい」で「下北沢らしい」非画一的な商店街・BONUS TRACKとは(前)

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BONUS-TRACK(世田谷区管理道路)

下北沢らしさ生かす開発

 個性的で洗練された店が並ぶ、下北沢―新宿や渋谷などの大規模な商業施設が連なるターミナル駅とは違い、新しいカルチャーをつくる個人店舗が、住宅地と隣り合って多く立ち並んだ街並みが魅力のまちだ。

 下北沢は、第二次世界大戦後に区画整理や大規模開発が行われず、住民主導でつくられたといわれている。しかし最近では、下北沢駅周辺の人気により、商店街の賃料が高騰している。そのため、新しいビジネスを始める人や若い世代には敷居が高く、グローバルチェーンの店舗が増え、若い世代による個性的な「下北沢らしい」まちの雰囲気がなくなりつつあることが懸念されてきた。

 小田急電鉄(株)は、小田急小田原線の東北沢駅から世田谷代田駅間の地下化にともない、全長約1.7km、敷地面積約2万7,500m2の線路跡地を「下北線路街」として整備。下北沢駅と世田谷代田駅間に4月1日に開業した「BONUS TRACK」(ボーナストラック)は、約2,093m2の敷地に商業棟と4つのSOHO棟()からなり、“下北沢カルチャー”をつくる個性的な個人小売店が並ぶ商店街だ。

 小田急電鉄では、下北沢エリアを、さまざまな個性に溢れた文化や人々が高い寛容性により共存する「多様性にあふれる街」と捉え、そうした街の魅力を引き出して、未来へ息付かせるために「街」と「人」を支援する開発を進めている。

 ※:商業棟は木造2階建・延床面積約500m2、SOHO棟は1階が店舗で2階が住宅である店舗兼用住宅、木造2階建・延床面積計約400m2 ^

個性的な個人店を誘致する工夫

(左から)ツバメアーキテクツ共同代表・千葉元生氏、
同・西川日満里氏、同・山道拓人氏

 今回の開発は、路線価などの不動産価値だけでなく、若い世代がチャレンジできる下北沢のカルチャーや街の雰囲気の維持を重視することで、地域の魅力を未来に引き継いでいきたいという考えから行われているという。

 BONUS TRACKを設計した(株)ツバメアーキテクツ共同代表の山道拓人氏は、「通常の開発では、複数の土地をまとめて商業施設を建築し、1つのテナント面積を大きく確保したほうが、賃貸するうえでは効率的で経営も安定しやすい。しかし、今回の開発では“下北沢らしさ”を残すことを目的にしている。

 下北沢はもともと個人商店の割合が高く、暮らす場所と働く場所が混ざり合った街。そこで個人商店を誘致するためには、店舗兼用住宅で月額15万円くらいに賃料を設定できれば、新しいビジネスを始める若い世代にとって借りやすくなるのではないかという想定を基にして建物の規模を逆算し、SOHO棟では1階の店舖を約15m2、2階の住宅を約15m2とすることが、議論のなかでまとまっていった」と話す。

 商業棟敷地は第一種中高層住居専用地域だが、SOHO棟敷地は第一種低層住居専用地域で、兼用住宅における店舗の延床面積は建物の半分以内に制限されているため、大規模な商業施設は建てられない。

 ツバメアーキテクツ共同代表の千葉元生氏は、「ベッドタウンとオフィス街など、用途地域による都市計画により、近代的な都市空間では『働く』『住む』といった機能を切り分けるように計画されてきた。その過程でコミュニティによる相互扶助の仕組みは失われ、産業的なサービスに頼って暮らすようになった。ここでは職住近接として『働く』と『住む』という街のバランスを見直すことで、新しい暮らし方やコミュニティの在り方を考えた」と話す。

(つづく)

【石井 ゆかり】

(中)

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